Chapitre 4 小鹿ミハル、またの名をフォーンリリー

Episode 16 夢の続き 

 ナユキが目を開けると、目の前に白い少女が立っていた。


「また会ったわね」


 少女はにっこり笑った。白い空間に、白い少女。淡い紫色の瞳が良く映える。


「おまえは一体何者だ」


 少女は首を傾げた。


「前に言わなかったかしら?」

「…………」

「まあ、きっと記憶が混乱しているのね。無理もないわ」


 白い少女は何もない空間に腰を掛けた。


「かつてはリリィ、今はマドンヌリリー――聞き覚えないかしら?」


 ずっとその正体を知りたかったから覚えてるに決まってる、そう思ったナユキは短く「ああ」と答えた。


「そして」


 マドンヌリリーはすっ、と腕を上げ、ナユキを指差した。


「わたしはあなたでもある」

「……前回も思ったけど訳が分からないな」

「あら、そんなに難しい話はしてないわよ。わたしはあなた、あなたはわたし。まあ、厳密に言うとあなたの体を借りてるだけなんだけど。でも、たったそれだけの事。賢いあなたならもう何となく見当はついてたんじゃないの?」

「…………」

「わかった。じゃあ、あなたが考えてること、一言一句全部当ててあげる。……『何を言っているんだ、この胡散臭い幽霊女は』……どう?」


 ナユキは無言でマドンヌリリーを見つめ続けた。マドンヌリリーはふっ、と笑みをこぼした。


「信じてもらえたみたいね」


 ――本当に僕の心を読んでやがる……。気味が悪いな……。


「そうよ、あなたの思っていることは全部筒抜けよ。気味悪くてごめんなさいね」

「……おまえは生きてるのか? 死んでるのか?」

「あら、急に難しい質問をするのね」

「なら聞き方を変える。……おまえは今、んだ?」

「…………」


 マドンヌリリーの顔から笑みが消えた。


闇の帝国アンフェールよ。人間が考えている『地獄』、もしくは『悪魔界』って言えば分かりやすいかしら」

「……なるほど」

「他に聞きたいことある? ……まあ、あるわよね」

「キュリフェの正体は知ってるのか?」

「もちろん。あれには気を付けた方が良いわ」

「初めから胡散臭いと思ってたけどな。……本当に最初から」


 ナユキの目に影が落ちた。


「さすがね。その気持ちを忘れないで。絶対に心を許しては駄目よ。他には?」

「あとは……逆にそっちが僕に知って欲しいこととか」


 マドンヌリリーはしばらく考える素振りをした。


「そうね、その内と思うけれど――」


********************


 マドンヌリリーはふぅ、とため息をついた。


「わたしね、もうこんな生き方、疲れちゃった。まあ、物理的にはもうとっくに死んでるんだけどね。――ねえナユキ、手を組みましょう?」

「手を組むも何も、そもそも僕に拒否権なんて無いんじゃないのか? ……それに、今話してておまえが何をしたいのかはもう何となく分かった」

「…………」


 ナユキはマドンヌリリーの目を見据えた。


「……本当に賢い子。じゃあ、よろしくね」


 マドンヌリリーは手を差し出し、ナユキはそれを握り返した。







「…………」


 ナユキはゆっくりと目を開いた。見慣れた天井が視界に入る。窓の方を見るとまだ薄暗く、日は登っていないようだった。


 ――実はね、あなたのロッドはアムを入れておくことができるの。ロッドいっぱいになったら、アンフェールへの道が開けるわ。だから、ブローチに吸収される前にロッドで吸収してね。そこでまた会いましょう、他の五人も連れて。


「あと三人……か」


 ナユキは再び目を閉じ、意識を手放した。

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