Episode 12 善と悪と偽善

 風が虚しく丸裸の木々を通り抜け、まだまだ冬の寒さが身に堪える日々が続く中、リオとナユキは順調にエヌミを狩り、アムを回収していた。



「エレクトロラム!!」


 グロワールリリーが電気を帯びた偃月刀でエヌミを切りつけ、オレオールリリーが光の矢でとどめを刺した。鈍色のアムがオレオールリリーのブローチに吸い込まれていった。


「慣れてきたみたいだな」


 変身を解いたナユキはマフラーを巻き直しながらリオの方を見ずに言った。


「毎日のように相手してたらまあ、そうなるよね」

「………………」


 ナユキは返事をすることなく歩き出したのでリオはその後を追った。


「そういえばさぁ……」


 リオは手袋をはめて続けた。


「回収したアムってどこに行くんだろうね」

「……何だ、急に」

「んー、回収するってことはどこかに集めてるってことでしょ? 例えば何かの影響で散らばっちゃったからそれを取り戻してる、みたいな。それで気になっちゃって。その後はどうするかわかんないけど」

「元々アムは一つだった、ってことか?」

「例えばだけどね」

「まあ、可能性として無くはないな。おまえ、お花畑のくせに意外と考えてるんだな」


 リオはその言葉を聞いてむっとした。


「ナユキくんさぁ、うちのことなんだと思ってるの?」

「脳内お花畑のお節介なお人好し」

「何それ、ひどくない!? お花畑じゃないし! お人好しは否定しないけど! お節介は……その人のことを考えて色々やってるだけだから!」

「そういうのをお節介って言うんじゃないのか?」

「ち、違うもん!」


 リオの反応を見てナユキはクスッと小さく笑った。


「で? アムを回収するのが何だって?」

「あ、そうそう。もしキュリフェの言ってたことが本当だったら、うちらは『負のエネルギー』を集めてるってことじゃん? しかもたくさん。それってソルシエとしてどうなのかなーって」

「というと?」

「ええと、ソルシエってエヌミを倒すことで世界の消滅を防いでるから良いことをしてると思うんだけど、『負のエネルギー』であるアムをわざわざ集めてるってなると矛盾するかな、って」

「……まるで悪のために動いてる、って言いたいのか?」

「まあ……うん。あ、でもキュリフェは天使だから神様に仕えてるはずだし、神様は悪いことするわけないよね!」


 するとナユキは前を見つめたまま立ち止まってしまった。


「ナユキくん?」

「おまえは神を『善』だと思ってるのか?」


 リオを捉えた目はひどく冷たく、しかし彼女を見ていないような気もして、リオは反応に困った。


 ナユキは小さくため息を吐いて続けた。


「……僕が知ってるわけないだろ、回収したアムがどこに行くかなんて。むしろこっちが知りたいぐらいだ」


 そして二人は再び歩き始めた。


「……キュリフェに聞いたら教えてくれるかな?」

「絶対言わないだろ、あいつ。はぐらかすに決まってる」

「……前から思ってたんだけどさ、すごい敵対視してるみたいだけど、二人の間で何かあったの?」

「…………別に何もない」


 何もないとは言ったものの、リオには彼の顔が一瞬曇ったように見えた。

 ナユキは駅の前で歩を止めた。


「僕はこっちだから」

「うん。またね、ナユキくん」


 ナユキは改札口を通ると立ち止まり、振り返った。


あいつキュリフェのことは信用しすぎない方が良い」


 そう言い残して人込みの中に紛れて見えなくなってしまった。


 リオは先程の会話を反芻し、人々が忙しなく通り過ぎる中、しばらくそこで立ち尽くしていた。



「……神様って、『善』じゃないの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る