Episode 7 再会
放課後、部活動に所属していないリオは学校近くの市立図書館に訪れていた。
「あれ」
手にした本を座って読もうと、席を探していたリオは図書館の一角に座っている黒髪の少年に近付いた。
「ナユキくん?」
眼鏡をかけた少年は読んでいた本から顔を上げると少し目を見開いた。
「やっぱりそうだ。うちのこと、覚えてる……?」
ナユキはクイ、と眼鏡を上げた。
「……狐坂」
リオはほっと胸を撫で下ろした。
「えっと、何読んでたの?」
手には和文の本が、机には一見英語に似た、しかし英語ではない言語で書かれた本が開いて置かれていた。
「ボードレールの『悪の華』」
――うん、絶対難しいやつだ。
リオは机の本を指差した。
「英語じゃないよね、それ」
ナユキはリオが指差した先を一瞥した。
「フランス語」
「フランス語……! 図書館に置いてあったの?」
「そう」
「この図書館って意外と所蔵されてる本の言語が豊富だよね」
「そうだな」
ナユキは再び本に視線を落とした。まるで「もう話し掛けるな」と言うように。リオはしばらくそこで立ち尽くしていた。
「ええと、じゃあうちはもう行くね……?」
リオが体の向きを変えて一歩踏み出そうとした瞬間、
「…………座れば?」
「え?」
リオは耳を疑った。
「それ、読むんだろ」
ナユキはリオが持っている本を視線で示した。
「あ、うん」
「…………あと、さっきから絶妙に視界に入ってて気が散る」
「あ、ごめん」
リオは申し訳なさそうにナユキの向かいの席に座った。
しばらく本を読むふりをしていたが、どうしても気になってナユキの顔を盗み見ていた。
――ナユキくんはどうしてソルシエとして戦おうって思ったんだろう。……ていうか初めて会った時も思ったけど、やっぱり綺麗な顔してるなぁ。
そう思っていた矢先、ナユキの伏せていた睫毛が上を向いた。
「何」
「……! えーっと」
――綺麗な顔に見惚れてた、なんて絶対に言えない!
ふと白い学ランの襟に付いている「中」と書かれたピンバッジが見え、リオは咄嗟に聞いた。
「ナユキくんって、中学生?」
「……中三だけど」
「へ、へえ、そうなんだ……じゃあ、それは受験のための勉強?」
ナユキは眉を寄せ、露骨に嫌そうな顔をした。
「……違う。ただ読みたくて読んでるだけ。……『受験』はもう聞き飽きた」
最後の方は低い声で言い、読書を再開した。が、本を置いて顔を上げたかと思うと、ナユキはたがが外れたように話し始めた。
「言っとくけど、大体、僕はテストだとか受験だとかの一過性の行事のために勉強してるわけじゃなくて――」
「わっ」
その続きは白い物体の飛来によって遮られてしまった。
「ちょっと二人とも! のんびりおしゃべりしてる場合じゃないよ! 近くでエヌミの気配がする!」
キュリフェはこれでもかというほどリオにグイグイ顔を近づけた。薄い掌で何とか押し返そうとする。
「ち、近い……!」
「早く! 今回は前回のよりも相当強いエヌミだよ!」
落ち着きが無く慌てて飛んでいく様子に唖然とし、二人は顔を見合わせると急いで荷物をまとめ、先を飛んでいくキュリフェを追いかけた。
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