魔法少年少女(ソルシエ -Les sorciers-) リリウム・ヴィヴァリウム
KeeA
Prologue 白百合の記憶
それは、神が世界を創る時。神が最初に作った花は百合であった。真っ白な百合が、一つ。また一つ。蕾がゆっくりと花開き、凛と佇んでいた。神はそれを見て、大変美しいと思った。美しいから、誰にも触れさせたくない。神は白百合に猛毒を与えた。少量でも、死に至らせるために。何人たりとも、触れさせない。
これは私のものだ。
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「私の愛しきアダムとエヴァ。この果実だけは、私が良いと言うまでは絶対に食べてはなりません。何があっても、ですよ」
「ああ言っていたが、それならば何故ここにその果実が存在するのか? 食べて欲しくなければ、ここには存在しない。何故なら、この世界は神が創造したのだから」
それを聞いて二人は戸惑った。
「ごらん。つやつやしていて、とても美味しそうではないか。今まで食べたどの果実とも違う味、それこそ天に召されてしまうような、美味なものだとは思わないか?」
白蛇は二人の足元を這いずり回りながら続ける。
「先程『私が言うまでは食べてはならない』と言っていたな。つまり、その内食べる機会があるということだ。今食べたからと言って悪いことが起きる訳ではあるまい。むしろ良いことが起こるやも知れぬ」
「いや」と、アダムが声を上げた。
「『食べてはならない』と仰っていたのだから、きっと今食べるべきではないのだ。食べる機会が約束されているのなら、なおさらだ」
白蛇はちろちろ、と舌を出し「貴女はどう思う?」と、エヴァに問いかけた。好奇心旺盛なエヴァは逆に問いかけた。
「良いこととは何かしら?」
それを聞いた白蛇は紅い瞳を爛々と輝かせた。
「それは――」
結局、アダムとエヴァは禁断の果実を食べてしまった。二人は裸であることを恥じ、必死に隠そうとした。それを見た神は絶望した。
「食べてしまったのですね、あの果実を」
「彼女が『一緒に食べよう』と誘ったのです。私はやめよう、と言ったのですが」
「本当に嫌だったのなら強い意志で私を押し返せばよかったのに。――白蛇が私たちをそそのかしたのです」
「白蛇?」
「ええ、血のように紅い瞳をした白蛇です」
神は顔を曇らせた。
――紅い瞳の白蛇? 私はそのような禍々しいものは創らない。突然変異種か? しかし、ここは私の意のままにできる箱庭だ。そんなことあるはずが無い。
「悪いことをしたのは承知しています。もう二度と、約束は破りません。どうか、お赦しを」
「お赦しを。――私たちに愛を」
神は一切表情を変えずに膝をついて手を組む二人を見つめた。
「その欲深さ、貴方たちには非常に失望しました。互いに罪を擦り付け合ったこと、私を裏切ったこと、永遠に後悔しなさい」
慈悲深い神はアダムとエヴァに布切れを与えた。そして二人は白百合を腰に差した天使に追い立てられ、楽園とも言える箱庭での苦労を知らない生活とは真逆の、外界での生活を余儀なくされた。白百合は、箱庭と外界を繋ぐ道が崩れ落ちて行くのを微かな風に吹かれながら静かに見ていた。
――神の創造物だと信じ込み、私が何者か聞かなかったのが運の尽きだったな。
茂みに隠れていた白蛇は、黒い霧を残してその場から消え去った。
******************************
時は十一世紀、フランス。多くの人々が地面に横たわっていた。ある者は手が、ある者は足が、ある者は顔が、黒くなっていた。農地は荒れ果て、大地は痩せこけ、砂漠と化していた。
グオォォォォオオオオオ!!
巨大な、黒く禍々しい「何か」が叫び声を轟かせながら大地を這っていた。
« Il est temps de chasser. »
黒く太い触手が超高速で白い少女に伸びる。しかし、髪の毛一本すらかすめる事もなく、彼女は全て避け切った。そして、宙に浮いている少女はその「何か」に向けて左手をかざし、拳を握った。
次の瞬間。まるで、本当に握りつぶされたかのように細かく砕け散り、黒い雨を降らせた。
« C'est la magie de la sorcière ! Chassons la sorcière ! »
« Chassons la sorcière ! Chassons la sorcière ! »
手を後ろに縛られた白い少女が乱暴に白百合で縁取られた処刑台に立たされた。
« S'il vous plaît, je ne suis pas sorcière! Écoutez-moi, je vous prie ! »
抗議する少女をよそに、男たちは手早く彼女を木製の十字架に縛り付けた。
« Chassons la sorcière ! Chassons la sorcière ! »
火が放たれ、あっと言う間に少女は真っ赤な炎に飲み込まれた。
少女の服はやがて灰になり、あらわになったその肩には
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