【声劇台本】さよならカラーズ(1:1:1)
アダツ
【声劇台本】さよならカラーズ(1:1:1)
★当台本を使用の際は、作者プロフィール欄にある【台本利用規約】を必ず一読いただき、規約に従ってご使用ください。https://kakuyomu.jp/users/jitenten_1503
注意点
・Nはナレーションです。()内は状況説明です。
・今作は、「彩加」役にセリフの比重が偏っております。ご了承ください。
・「スミレ」役は男女問いません。
キャラクター
・彩加(あやか):音楽大学付属高等学校に通う16歳の女子高生。ピアノ専門。
・アオ:カラーズのリーダー。元気あり余る男子。
・スミレ:カラーズのメンバー。中性的な顔立ち。
-----【コピペ用】-----
さよならカラーズ
作者:アダツ
彩加♀:
アオ♂:
スミレ♂♀:
-------------------------
ここから本編↓
___________________________
彩加N:おばあちゃんが言っていた。公民館の南にある裏山には近づくなと。なんでもイノシシが住んでいるらしく、子供を見かけたら一目散に突っ込んでくるという。
彩加N:夏休みに入って最初の週末、わたしはレッスンを投げ出して、曇り空の
彩加:はあ……はあ……ふぅ。……え、雨? 嘘でしょ。
アオ:こっちだ。(どこからか声が聞こえる)
彩加:え!? な、なにあれ……。大きい、何かの……頭?
彩加N:それはまるで巨大な
彩加:すごい。思ってたより広いし、綺麗……。
アオ:よっ。
彩加:え? あっ、え!? きゃあ!!
アオ:ははっ、3度も驚いてやんの。
彩加:すみませんごめんなさい!
アオ:おっとっと、怖がらなくていいから。ほら、お前とそう歳も変わんねえだろ?
彩加:ひ、あ、だ、誰ですか……?
アオ:ここに住んで……はいないか。これの所有者みたいなもんだ。
彩加:あ、そうなんですか……勝手に入ってすみません。
アオ:いいんだよ、おれが呼んだわけだし。子供なら追い出したりしないさ。で、どうしたんだ?
彩加:どうしたって、雨宿りを。
アオ:ちげえよ。こんな所まで足を運んだ理由を
彩加:……っ。その。
アオ:うん?
彩加:嫌に、なったからです。
アオ:何が。
彩加:ピアノ。
アオ:弾けるのか。
彩加:全然です。しんどくて、辞めたい。
アオ:ふーん。辞めりゃいいじゃねえか。
彩加:できませんよ。
アオ:おっと、もう、敬語はやめだ。おれは16歳、お前は?
彩加:……16歳。
アオ:よっし、同い年だな。じゃあタメ口でよろしく! ……で、どうして辞められないんだよ。
彩加:だって……ピアノ以外何もできないから。手放しちゃったら、わたしなんて、生きてる意味なんかない。
アオ:そりゃ、楽しくない人生だな。
彩加:うん。
アオ:…………。ん、よっし。こっちこいよ。
彩加N:
アオ:このロボットのコックピット部分さ。
彩加:え、やっぱりロボットだったの、これ?
アオ:そりゃあ、どこからどう見てもロボットだろうよ!
彩加:でも、頭しかなかったし。
アオ:身体は地面に埋まってんの。見かけによらず、まだ色んなスペースがあるぜ。8人は乗れるかな。とりあえずここ座って、
彩加:う、うん。――え、なになになに!? 急に光りだしたんだけど!
アオ:だいじょーぶ、まだ動くわけじゃないからさ。シミュレーションみたいなもんだ。
彩加:画面が……!
アオ:綺麗だろ。リアルインベーダーゲームってところか。いや、FPSって言うのかな。迫ってくる敵を装備している銃でやっつけるんだ。
彩加:ま、まって操作わかんないんだけど!
アオ:このボタンで射撃、ハンドルで方向転換。足のペダルで前後に動ける。
彩加:わっ、たっ、とっ、たっ!?
アオ:おお、マジかよ。初めてにしては
彩加N:こういうゲームをやったことがなかったので、新鮮だった。ゲームなんてやってる時間なんかない、そもそもお母さんに見つかったりしたらおおごとだ。
アオ:おっと、もう雨もやんだか。通り雨だったみたいだな。
彩加:はあ……はあ……。
アオ:面白かっただろ?
彩加:……うん。
アオ:お前、名前は? おれはアオっていうんだ。
彩加:……
アオ:アヤカ、また来いよ。おれがもっと色々楽しいこと教えてやる。
彩加N:雨上がりの薄く
彩加N:家に帰ったら、お母さんに頬を
「さよならカラーズ」
* * *
彩加N:
彩加N:わたしの足は、不思議とまた裏山のほうへ向いていた。今度はロボットの頭の前に、帽子を被った2人の子供の姿が見えた。
アオ:こいつはスミレ。今日は3人で遊ぼう。
スミレ:よろしく。この、
彩加:え、あ、
アオ:よーし、じゃあ早速だが、かくれんぼでいいよな。よし決定!
彩加:3人で!?
アオ:何人でもできるのが、かくれんぼの良いところだ。
彩加:わたし、もう高校生なんだけど……。
アオ:去年は中学生だったろー? 何歳でもできるのが、かくれんぼの良いところだ。いいからいいから、はーいおれ鬼やります!
彩加N:強制的にかくれんぼが始まった。やむをえず、わたしはできるだけ遠くに逃げた。すると、石垣でできた小さな廃墟のような建物を見つけたので、そこに逃げ込む。
スミレ:やあ。(後から来て、顔を覗かせる)
彩加:ひゃっ!? スミレ、さん。
スミレ:ふふ、驚かせてごめん。スミレでいいよ、
彩加:あ、ハイ……。
スミレ:アオが何か脅してるんでしょ? 説得してあげるから、教えてよ。
彩加:え? いっ、いやいや! そんなことないで……ないよ。
スミレ:じゃあどうしてこんな所まで来たの?
彩加:その、楽しいことを教えてやるって、言われて。
スミレ:それでホイホイついてきちゃったの? ぷっ、くくく、あははっ。やばいよ、それは。
彩加:やばい、のかな。
スミレ:まあその
彩加:あ、う。
スミレ:アオから話は聞いた。そりゃもう興奮気味にね。ロボット、操縦してみせたんだって?
彩加:操縦って、ただのゲームで。
スミレ:ボクらにとってあれは、とても大切なものなんだ。
彩加:……なんで?
スミレ:備えてるんだよ。
彩加:スミレたちは一体、なにをしているの?
スミレ:ボクはまだ、疑ってるよ。キミのこと。
彩加:疑うって、なにを。
スミレ:ここに迷い込むなんて、そうあることじゃない。大人にだってあのロボットは見つかっていない。キミはこの空域にどうやって忍び込んできたんだい?
彩加:べ、別になにもっ。ただ歩いてたらたどり着いただけで。おばあちゃんからイノシシがいるとは聞いてたけど、まさかあんな……。
スミレ:ふうん。けど、イノシシって?
彩加:その、注意されてたの、この裏山には近づくなって。
スミレ:それで近づいたんだ。悪い子だねぇ。
彩加:あうぅ……。
スミレ:……分かった。死にに来たんだ?
彩加:え、どうしてそうなるの……?
スミレ:あわよくば、イノシシに
彩加:そ、そんなわけない! 発想が突飛すぎるよ!
スミレ:でも――キミの目、死んでるよ。
(間)
アオ:みーっつっけた!!
彩加:ひゃあっ!?
アオ:おいおい、2人一緒のところだと探し
スミレ:もうちょっと涼んでいたかったなー。
アオ:おいこら。
彩加:ご、ごめんなさい。
アオ:ったく。……よくわかんねーけど、話せたか、スミレ?
スミレ:うん。
彩加:二人は……あ、えっと。二人は、どういう関係なの?
アオ:二人というか……お、ちょうど帰ってきたな。
彩加N:ぞろぞろと、荷物を抱えた少年少女たちが、森の奥から姿を現した。みんな各々に、色のついた帽子を被っていた。こうしてアオたちと合わせて並べてみると、まるで虹のようだった。
アオ:右から、アンズ、ミドリ、ヤマブキ、アカネ、アイだ。ちょっと買い出しに行ってもらってたんだ。ここと、裏にある廃墟は、おれたちのアジトだ。
彩加:アジトって……あなたたちは、一体何者なんですか?
アオ:おれたちは『カラーズ』!
* * *
彩加N:それからというもの、この夏休み、わたしはよくレッスンを抜け出して、裏山のロボットにやってきていた。ピアノなんて嫌いだ。ずっとあんな部屋で閉じこもって、お母さんの怒声を浴びながら、練習なんてしていられない。いまはそんなものより楽しいことが、裏山にいけばあるのだから。
彩加N:カラーズのみんなは優しかった。アオみたいにぶっきらぼうな人もいれば、スミレみたいに何考えてるかわかんない人もいるし、ずっと黙ってる人もいる。だけどみんな、ここでの時間を楽しく過ごしているのは、間違いなかった。
彩加N:アオがリーダーらしく、わたしは彼に色々と
アオ:あん? カラーズの名前の由来? ふふーん、どういう意味だと思う。
彩加:それをこっちが質問してるんだけど。
アオ:みんなの帽子の色を見てみな。
彩加:カラフルだけど……え、まさか本当にそういうこと?
アオ:案外物事ってのは単純なもんだ。
彩加:へえー。
アオ:ハイ嘘ー! まったく別の意味でえーっす!
彩加:……あれ、なんか、自然と
アオ:はっはっは、いずれ分かるさ!
彩加N:――またある日は。
彩加:アオたちって寝泊まりはどうしてるの? まさかあの廃墟じゃないよね。
アオ:個人情報保護法バリアー!
彩加:アオって、本当にわたしと同じ年齢?
彩加N:
彩加:スミレは、普段なにしてるの?
スミレ:んー? 日中はここでぶらぶらしてるけど、夜はほとんどバイトかなー。あ、年齢偽ってるのは内緒ね。
彩加:じゃあいつ寝てるのよ……。
彩加N:
彩加N:あらゆる方面から、質問攻めにあった。学校でのことや、趣味、好物、スリーサイズ……最後のはアオの悪ふざけだが。
彩加N:色んなことを聞かれたが、正直、そこまで嫌ではなかった。不思議な感覚だった。普段わたしに興味を持つ人間など、いままでいなかったからだろうか。
彩加N:上っ面だけのなれ合い、それが私の高校生活……いや、これまでの学校生活だった。もしかしたら家の中でもそうかもしれない。でも唯一、おばあちゃんだけはわたしの味方だった。お母さんは厳しいけれど、おばあちゃんはわたしを
アオ:お前って、ピアノ上手いの?
彩加:……前に、全然って答えたよね。
アオ:おっと、そう怒るなよ。悪かった。でもさ、よかったら聴かせて欲しいな。つーか聴いてみたい。
彩加:嫌だよ。
アオ:お願い! どーか!
彩加:でもピアノもないし。
アオ:ピアノがあればいいのか。
彩加:え? ちょ、なに。なにするつもり?
アオ:まあまあ、来週あたりを楽しみにしておけよ。
彩加N:わたしは気が気でなかった。でも、強く止められないわたしが、心の中にいた。なぜだろうか?
彩加N:そしてまたある日は、夜中の集会だった。家で寝たフリをして、窓からこっそりと外へ這い出る。忍び足から駆け足にかわっていく頃には、あたしの顔は綻(ほころ)びまくっていたことだろう。
アオ:さあ、今日は花火大会だ! でもあんま音するのは買ってきてないからな、そこは勘弁してくれ。
彩加:ううん、いいよ。あたし、花火やるなんて人生で初めて。
スミレ:ほら、
彩加:すごい、綺麗……! ねえ、アオ! 見てみて!
アオ:おいこら、あぶねえって! くっそ、やったなー!
彩加:あははははっ!
スミレ:まったく、子供なんだからさ。
彩加N:こんなに羽目を外したのはいつぶりだろう。初めてかもしれないと思ったが、違った。そうだ。初めてのコンクールで、難しい曲を弾いて、満足のいく演奏ができて、それで――。
彩加:……ふぅ。
スミレ:ん、終わり?
彩加:うん、終わっちゃった。それ貰っていいかな?
スミレ:線香花火。ちょっと早いけど、ボクたちだけでやっちゃおうか。
彩加:うん。
彩加N:夏はまだ、始まったばかりだ。
* * *
彩加N:アオの予告からちょうど、1週間後のことだった。
アオ:どうよ!
彩加:え……ちょっと、一体どうしたの?
アオ:おれらの中にリサイクル店の知り合いがいてさ。借りたんだ、ピアノ。でけえだろ、って言っても、見慣れてるだろうけど。
彩加:見慣れてるっていっても、まさかこんな、森の中で見ることになるとは思わなかったし。それに、朽ちたロボットの頭が背景なんて。
アオ:ミスマッチだろ。それで、だ。その~、弾いてもらえると、嬉しいんだが。
彩加:…………。
アオ:…………だめ、かな?
彩加:(ため息)……分かった。
アオ:よし! おーい、みんな集まれ。アヤカのスペシャルコンサートだ!
彩加:ちょっと!
アオ:お、一度オーケーしたからにはきっちりしてもらうぜ。
彩加:まったく……
アオ:どきどき。
彩加:……。なにか、リクエストはあったりする?
アオ:はいはい! エヴァ!
彩加:エヴァね……。
アオ:え、マジ、弾けるの。
彩加:曲を
彩加N:わたしは
彩加N:――いや、いまはそんな
彩加:すうー……。はあー……。
彩加N:それから、わたしは彼の男心をくすぶる神秘の曲を演奏した。人前でピアノを奏でるのは久しぶりだった。ここしばらくはずっと、自分とお母さんだけが
彩加N:いまは、違う。気付けば、リクエストした彼だけではない、カラーズのみんなが、わたしの演奏に
彩加N:そして、最後の一音を弾き終わる――と同時。
アオ・スミレ:(拍手)
彩加:はあ……はあ……。
アオ:すげえ、すげえよアヤカ! お前プロなの!?
彩加:違うよ、ただの学生だって。
スミレ:でも、凄い、熱が伝わってくる感覚。なかなか聴けない演奏だったよ。ブラボーだ。
アオ:な、そうだろ、スミレ! いやまじびびった、お前、すげーんだな!
彩加:そんな、あはは……はは。
スミレ:……!
アオ:……お、おい、どうしたんだ。
彩加:ん? なに? ……ずずっ、あれ?(涙がこぼれる)
アオ:お前……。
彩加:どうして。なんで? ごめん。……わ、わたし、もう、ピアノが嫌いだって、思ってて。厳しい練習も、勉強も、したくないって、思って。だけど、すごい怒られるから、わたしにはこれしかないから、やらなきゃいけなくて。
アオ:……ああ、言ってたな。
彩加:ごめんほんと……。でも、わたし、やっぱりっ! ピアノがっ、好きなの……! ピアノ好きなの!!
アオ:ああ。そうなんだな。伝わったよ、お前の想いは。
彩加N:いつの間にか、わたしの周りにはカラーズのみんながいて、わたしが中心で、みんなで抱き合っていた。それはとても静かで、だからこの森にはわたしのすすり泣く声だけが落とされた。
* * *
彩加N:それから3日後。あんな醜態を晒しておいて、どんな顔で会えばいいのか分からないまま、わたしはまた裏山のロボットに来ていた。まだピアノはロボットの頭の前に置いてあった。雨が降らなくてよかった。そして、ロボットの頭の上でスミレが
スミレ:ん、
彩加:どうしたの?
スミレ:夏ももう終わるなあって。
彩加:え? なんで、まだ8月の真ん中だよ。
スミレ:季節は、人が決めるのと、地球の公転が決めるのと、どっちだと思う?
彩加:え、と……公転じゃないかな。
スミレ:ううん、人が決めるんだよ。
彩加:ええ? もう、どっちでもいいよ~。
スミレ:どっちでもよくないのさ。
彩加:……え?
スミレ:ボクは男だと思う? 女だと思う?
彩加:それはもちろん――
スミレ:(遮って)低くて野太い声だったら男? 高くてか細い声だったら女? いいや、違う可能性だってあるよね。世の中には、いろんな人がいるんだから。
彩加:……。
スミレ:でもね、結局のところ、これに関してはどっちでもいいんだ。ボクが男でも女でも、カラーズのみんなのために生きて、役目を果たすってことだけは変わらない。
彩加:ど、どういうこと?
スミレ:この世にはどっちでもいい事と、よくない事があるんだ。
彩加:その、どっちでもよくない事って。
スミレ:選ばなきゃいけない事さ。――8月20日、午前0時。キミにも一応、伝えておく。
彩加:それって、もしかして、例の『
スミレ:アオは悩んでいる。当初は、キミも連れていく予定だった。
彩加:連れていくって……どこに……?
スミレ:…………。(空を見上げる)
彩加:どこを見て……もしかして、宇宙? ど、どうやって……!
スミレ:このロボットは、宇宙船になる。
彩加:これが……。こんなに、ボロボロなのに。
スミレ:見かけはね。機能はこの国の技術を
彩加:……!
スミレ:せいぜい考えてくれ。これは、選ばなきゃいけない事だ。
* * *
彩加N:通告のあった8月20日の――前日。とはいえ、決行が0時なのだから、予定時間まであと7時間は切っていた。
彩加N:わたしは家で、お母さんからピアノのレッスンを受けている真っ最中だった。でもまったく集中できない。頭の中は、カラーズのみんなのことでいっぱいだ。みんながいなくなってしまったら、わたしは一体、どこへ行けばいいというのだろう。
彩加N:集中を乱していると、頭上に丸めた教科書が落ちてきた。同時にお母さんの怒鳴り声。相変わらず何を言っているのか意味不明だった。指を動かすのは作業だ。お母さんに頭を下げるのは反射だ。なにも感じられない。裏山で弾いたピアノは、とても心地よかったというのに。
彩加N:ああ、そうだ。裏山へ行こう。
(間)
アオ:まずい。……まずいまずいまずい!
スミレ:だからあんな無茶はするなと! ピアノなんか盗んで、足がついたらって!
アオ:でもさ、聴けて良かっただろう! あいつも、弾けて、良かったと思うんだ……!
スミレ:……まったく。店主と、警官も数人向かって来てるんだったよね。……ミドリ、ヤマブキ! 大至急準備だ、0時は待ってられない。まだ少し明るいが、出発する。
彩加:アオ……? スミレ……? どうしたの、この騒ぎ。
アオ:アヤカ……! これは、その。
スミレ:決行は前倒しだよ。大人たちにこのロボットが見つかりそうになっている。見つかってしまったら、余計に人を呼ばれて、機械をいじられて……その可能性を考えると、延期は無理だ。
彩加:出発、するの?
スミレ:うん。資材が間に合ってるのだけはラッキーだった。
彩加:わたしも、連れてってくれる?
スミレ:え……!?
アオ:アヤカ!? お前……。
彩加:わたし、わかんなくなっちゃった。ピアノは好きだけど、練習は嫌い。でもやっぱり、カラーズのみんなと離れたくない。……どうしたら、いいの?
スミレ:おい、しっかりしろ! 前もって教えていただろ!
彩加:ぜんぜん遅いよ。決められないよ。ねえ、みんなが決めて。
スミレ:なに言ってるんだ……!
彩加:教えて。教えてよ。……わたしは、どうしたらいいの? わたし、わたし……。
アオ:(ばちん!! と彩加の頬に平手打ちをする)
彩加:……。
アオ:しっかりするんだ、アヤカ。……スミレ、少しだけここを頼む。
スミレ:……わかった。
* * *
彩加N:わたしとアオは、かくれんぼの時にわたしが隠れた廃墟まで歩いた。そこで彼は立ち止まって、わたしに向かって頭を下げる。
アオ:手を出して、すまなかった。
彩加:ううん。大丈夫。こっちこそ、ごめん。
アオ:前に、きいてきたよな、カラーズの名前の由来だっけか。
彩加:うん。
アオ:あれはさ、おれがこの
彩加:そうだったんだ。なんだ、やっぱり単純じゃん。
アオ:そう、単純なのさ。
彩加:…………。
アオ:おれは……カラーズのみんなを、故郷に無事にかえす。それがおれの役目だ。
彩加:故郷……それはきっと、遠いんだね。
アオ:ああ。でも中継基地はいくつかある、なんとかやるさ。おれの、命にかえても。
彩加:すごいね、アオは。
アオ:アヤカ、すごいのはお前もだ。
彩加:わ、たし……も?
アオ:あんなに、みんなに感動を与えられるなんて、凡人なはずがない。キミが、どれだけ努力をしてきて、どれだけ熱中して、どれだけ好きか、よくわかったよ。気付いてたか? お前、ピアノ弾いているとき、すげー笑ってたぜ。
彩加:え……?
アオ:迷うのは分かる。お前が思っている通り、おれたちの帰る故郷にはピアノなんて文化はない。おれがお前のその後の人生を保証できるかなんて、わかりはしない。
彩加:……うん。
アオ:だがな、誇りを持て! お前には、武器がある。自分の道を切り
彩加:うん。
アオ:お前はもう、わかっているはずだ。ひとに決められた道は、絶対に後悔する。心に正直でいろ。
彩加:心に、正直に……ふっ、あはっ。変なの……。
アオ:なんだよ、やっと笑ってくれたな。
彩加:そんな、馬鹿のアオからそんなセリフが出るなんて。
アオ:お前……! まあ、いい。それで、こういう話をしたあとになんだが。
彩加:うん?
アオ:………………お、おれは。お前に、一緒に来て欲しいと心の底から願っている。さっき言ったように、おれの故郷で、お前が幸せになれるか保証はできない。でっ、でも、保証できるように、おれが頑張る!!
彩加:…………えっ、と?
アオ:だからっ、その、お前に選んで欲しい。
彩加:…………。
アオ:う、ああもう! さっさと決めてくれ! 恥ずいだろうが! 出発もしちまうし……。
彩加:……ふふっ。ありがとう、アオ。
アオ:え?
彩加:わたし――
スミレ:(割り込んで)アオ! もう行くぞ!! 時間がない!
アオ:スミレ……。
スミレ:……
彩加:……うん。
スミレ:でも途中から、そんなことどうでもよくなって。花火も綺麗で、楽しかったよね。演奏を聴いたときなんか、もう、言葉が選べなかったよ。――そしていま。どうしてこんなに、胸が痛んだろうね? これは、悲しいのかな、それとも辛いのかな。(瞳に涙を浮かべる)
彩加:それはきっと……どっちでもいい事、なんじゃないかな。
スミレ:ははっ、確かに……そうかもね。言うようになったじゃん。(涙を拭う)
彩加:――わたし、ここに残るよ。
アオ・スミレ:……!
彩加:わたしは、ピアノが好き。大好き。弾いてる最中の熱狂も、美しい音色も、弾き終わったあとの観衆の
アオ:……そうか。じゃあ、ここでお別れだ。
彩加:うん。
アオ:アヤカ、今までありがとう。
彩加:うん。
スミレ:ありがとう、
彩加:うん。二人とも、元気でね。ありがとう。
彩加N:そうして二人は、森の中へと消えていった。
彩加N:ロボットが起動を始める。これだけ離れたところでも、耳を
彩加N:地震のような衝撃。そして、
彩加N:星の海へ旅立つ、一筋の閃光が
彩加N:次の日、ニュースでは昨夜の局地的な地震と、山奥で見つかった隕石の墜落した
彩加N:今日もレッスンがある。でももう、泣かないと決めた。
彩加N:このひと夏の記憶は、ずっと忘れない。
彩加:さよなら、アオ、スミレ、カラーズのみんな。またどこかで会おうね。
さよならカラーズ 了
【声劇台本】さよならカラーズ(1:1:1) アダツ @jitenten_1503
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます