第2話 純妙逸成は不安になる
心臓がバクバクと早鐘を打っているのがわかる。
新学期が始まる今日、4月8日。僕の心象は絵に描いたような外の快晴とは真逆で、不安が胃の痛みや心拍数の上昇という形で押し寄せてきている。
「緊張してるか?」
「あ、はい」
「まあこの時期の転入は珍しいからなぁ……」
そう言って僕の転入するクラスの担任である
教室の表札には2-Bと書かれている。どうやらここが僕の転入するクラスらしい。
……ヤバい。本当に胃が痛い。
「ちょっと待っててくれ──おーい、お前ら早く席に着けー」
「おはようタッチー!」
「橘先生、だろー」
先ほどから騒がしかった教室だけれど、入っていった先生をおちょくるような声も聞こえてきた。
嫌だなぁ。いじめとかはないだろうけれど、どうも騒がしいと居心地が悪そうに思えてしまう。
「さて、入学式前だが、俺のクラスに──」
「転入生だろー」
「!?」
ま、まあバレてるよね……春休みに来たとき、補習を受けてる人とばったり遭遇したし。
邪険にされることはなさそうと少し安心感を抱いたけど、緊張感は抜けなかった。
「そう。その転入生だ。取り敢えず紹介するから、入ってきてくれ」
先生の言葉を聞いて僕は教室へと入る。そして事前に言われていた通り教卓の横に立つ。
ここに立つのは何度やっても慣れない。何度も立つこと自体がおかしいのだけれど、家の事情やら何やらで転校は比較的多い方だったから、転入生としての経験は他の人よりある。
けどやっぱり緊張するなぁ。小学校や中学校の頃とは違うプレッシャーのようなものを感じる。ああ、あの頃に戻りたい。
「自己紹介頼む」
「はい。
自己紹介──と言っても名前を言っただけし『申します』は固すぎるかなとは自分でも思う──をして深々と頭を下げると、まばらに拍手が起こった。顔を上げてみれば幾人かは落胆の表情を隠そうともしていない。特に男子。そして幾人かの女子も。
ごめんなさいね美人じゃなくて。
「純妙は始業式でも紹介されるから、後で俺についてきてくれ。席は──
わからないところもあるだろうから面倒みてやれ。と先生が言うと、その漆墨さんが「……はい」と小さく返事をした。
確かに横の席が空いていたので、たぶんそこが僕の席なのだろう。僕は席につくよう促されて、視線を浴びながら教室の最後列の席まで向かう。
あんまり視線は好きじゃない。特に好奇の目線は一生分浴びたと思っているから嫌いと断言してもいい。この時期の転校じゃなければ、こうはならなかったのかもしれないなぁ。
「よろしく。漆墨さん」
「……うん」
漆墨さんは囁く程度の小さい声で言う。仲良くなれるかなぁ……頑張ろ。
内心に過った少しの不安を振り払うように一つ息を吐き、先生の連絡事項に耳を傾けた。
「……」
横からの鋭い視線に気が付かぬまま。
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