第30話

 ダーシーのヴィルフォークナー家はグラントブレア王国建国時に多大な貢献をしてその地位にあるという。

 エルフィーとダーシーの間を疑ったレジナルドはすぐに、詳細な経歴を調べさせた。


 伝え聞いたのは反逆の意志ありと疑われた当時のヴィルフォークナー家当主は国王軍から追放されそうになったのだが、それを救ったのが王家の者だった。

 以来、要職にはヴィルフォークナー家の者が就くようになり、ロイドクレイブ王国との国境を任されるようにまでなった。


 歴代国王の傍には必ずヴィルフォークナー家の男子が就き、女性であっても王族の分家に嫁ぐ、または王妃に仕えるなど両家の結びつきは強い。

 爵位が低いためか不思議と王妃になったという記録はないようだ。


 レジナルドはエルフィーとダーシーの関係を思い浮かべる。

 独身であることを売りにしているエルフィーに恋人がいるなど醜聞は聞かない。二人の仲は公表されていない。

 知っているのはわずかな人数ばかり。きっと、エルフィーが結婚するまで秘密にされる。

 いや、過去には愛妾となった一族の女性もいたようである。


 彼女をずっと日陰者として過ごさせるつもりなのかと問いただしたい気持ちになる。

 ダーシーに対してもそれで満足なのか、と詰め寄りたい感情がある。


 ふわりと笑うダーシーが脳裏に浮かぶ。

 あのような表情を導き出せるエルフィーが羨ましいと思った。




「ダーシー嬢のところへ居座るのも考えてください」

 幼い頃より傍にいるライリーは口喧しく注意する。

「分かっている。朝もお小言言われたところだ」


 ロックウェルはレジナルドの大叔父が治める町である。

 因縁あるハンティントン伯爵令嬢と同じ屋根の下で寝られぬと言って大叔父は夜だけでもと別宅へ行くことになった。


 日中は執務もあるので渋々城内にいるらしい。

 顔を合わせれば、伯爵令嬢だけは止めてくれと懇願されている。


 大叔父の言いたいことも分かる。

 ロチェスターとロックウェルは攻防を度重ねてきた。

 領土問題から関税、物流人流などあげればキリがない。

 耐えきれず攻めれば、ロチェスター側には罠が仕掛けてあり、それを解いている間に捕まるということを幾度も繰り返している。

 この春、レジナルド自身も痛い経験をしたところだ。


 しかし、ロチェスター側から侵攻してきたことはわずかである。

 これは仕方のない事であった。

 ロチェスターのほうが土地的には豊かであったし、ロックウェルがなくても十分である。

 だが、ロックウェルはロチェスターがなければ街道も成り立たないし、物も入って来ない。

 このもどかしさが何度も攻める動機となっていた。


 いっその事、縁を結んでしまえば解決するのではないかと思うのだが、そこはお互いの間に国境という線が引かれているので簡単にはいかないらしい。


 何より。

 レジナルドは腕を組んで眉を寄せる。

 いまだ、ダーシーの胸の内にはエルフィーがいる。


 あの傷付いたような顔を見てしまってはこちらも強く出ることに躊躇する。

 手元に転がってきた機会をどうにか物にしたくなり、焦ってしまったかもしれない。

 レジナルドは深く反省して、暫くは執務に没頭することにした。

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