第24話
街は日常に戻りつつあった。
街道も整備が済み、物資の補給も順調である。
戦場となった裏の森のあたりの片付けもだいぶ進んでいる。
流れ落ちてきた流木は早速、再利用について検討が始まっていた。
ダーシーもルイの仕事を手伝っている。
ロチェスターは自分たち一族の領である。財政から領民たちの力関係を見るのにちょうど良かった。
まだ肌寒い日があるものの、陽気は春めいてきた。
縮こまっていた身体もようやく伸びてきたように思う。
ルイも仕事の目処が立ったのか、視線が合う。
お茶でも用意するかと立ち上がりかけると、ルイの部下が飛び込んできた。
「報告します!フィンリー殿下が兵士を連れ、こちらに向かっています」
「は?」
すでにロックウェルとの戦は終わり、処理も進んでいる。その報告は王都へ届いているはずだった。
その証拠に陛下からの返信もルイの手元にある。
二人はまさか、と言葉にならない声を上げる。
卓上を慌てて片付けると、部屋を飛び出していった。
「ルイは兵を集めろと言ったぞ」
「言いましたが、状況はすでに変わっています。陛下からお話を伺ったのではないですか?」
「向こうの王族を捕らえておきながら、交渉が済んだらさっさと帰すとは何事か」
「彼らの言い分も全て陛下へ報告済です。用が済んだら国に帰ってもらうのは当然でしょう」
ルイとフィンリーは平行線のままである。
なんで戻って来た。
フィンリー一行以外のものは呆れた顔で出迎え、玄関先で人目も憚らず言い合っている二人を眺めている。
「また、ロチェスターに侵攻する可能性が高い。これから夏に向かう。街道も通りやすくなり狙われるのではないか?」
「ですから、それらをどうにかするのが陛下と重臣たちの腕の見せ所でしょう。勝手に戦を仕掛けるわけにはいきません」
「だから、こうやって兵士たちを集めてきたのだ。食料も余裕をもって運んでいる」
「フィンリー殿下は戦がしたいのですか?」
「違う、ロチェスターを守りたいのだ!」
一冬、世話になったロチェスターのため何か出来ないか、そう思ったが故の行動のようである。
ルイは首を振る。
「ロチェスターは大丈夫です。お手数ではございますが、兵士たちを連れてお戻りください」
「何を言うか!これから出る」
言うが早いか、フィンリーは踵を返す。
「兵士たちもやる気になっている。攻めるなら今だ」
「お待ちなさい!」
ルイが慌てて追いかけるが、フィンリーは玄関の外に馬を置いたままにしていた。
「なりません!戦を簡単に起こしては絶対にいけません!」
「邪魔をするな!」
華麗にマントを払い、フィンリーは馬に飛び乗る。
「ルイは黙って見ているがいい。ロックウェルくらい、軽く取ってみせる」
フィンリーに付き従っている者たちもルイには目もくれず、玄関から出ていく。
ルイは激しい舌打ちをする。
「叔父様、私が行きます!」
「まて、ダーシー」
腕をからめとられて仕方なく立ち止まる。
「いいか、ダーシー。戦に行くんだぞ?」
「分かっています。でも、今、動けるのは私です。叔父様は大至急、王都へ急使を。そして、」
「無理はするな。最悪、あいつは見捨ててこい」
敷地から出ているフィンリー一行を鋭い目で睨みつける。
どう考えてもおかしい。
無理やり戦に持ち込む必要はないというのに、フィンリーを止めようとしない。
大方、王太子の地位が目の前にあるフィンリーに少しでも気に入られようと、素直に付き従っているのだろう。
ぎりぎりとルイは歯ぎしりをする。
戦を仕掛けるなど、そんな簡単なことではないのだ。
どうして分からない。
ダーシーはルイに一度抱きつくと、身を翻して馬屋へ走る。
事情を察した馬屋番がその場にあるものをかき集め、簡単に旅支度を整える。
何処からかミリーがやってきて、衣服もそろえられた。
フィンリーが出てすぐ、ダーシーもその後を追う。
兵士がいる分、動きが鈍いのですぐにその姿を確認することが出来た。
そして、
数日後。
「つい最近、同じような状況にあったような気がします」
レジナルドが不思議そうな顔をする。
それを受けて、フィンリーとダーシーは苦い顔をする。
ロックウェルの町にある城の部屋に入れられて、二人は並んで立っていた。
本来なら、床に座っていなければならないのだが、レジナルドが許可した。
「レジナルド殿下、この度は大変申し訳ございません」
ダーシーは床にひれ伏さんばかりに謝罪する。
横でフィンリーは全く違う方向を見ている。
機嫌が悪い証拠である。
「これはどう処理したら良いのか、悩ましいものですね」
ロチェスターを出たフィンリーの部隊は、国境を越えた先であっさりレジナルドの指揮する兵士たちに捕らえられたのである。
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