第22話
翌朝、夜が明けたと同時に、急使が立った。
続いて、フィンリーとフライアが出る。
フライアはこれから戦場になるかもしれない場所に留まるというダーシーを心配し、一緒に王都へ戻るよう説得したが、ダーシーは拒否した。
街道の先に一行が消えていくのを確認して、ダーシーは踵を返す。
すでに街では戦の準備が始まっている。
本当なら、今にでも王都へ駆け戻りたい。
しかし、ロチェスターをこのままにしておくことは出来ない。
ルイも初めは王都へ戻ることを勧めた。
ダーシーも迷ったのも事実だ。
しかし、手が必要になることは分かっている。
馬に乗って戦えるわけではないが後方でも出来ることはある。
ドレスをたくし上げ、力強く歩き始めた。
運ばれてくるけが人を街の留守を預かっている者たちで手分けして処置をしていく。
皆、手慣れたもので次から次へと滞ることなく進めていく。
街には豊富に湧き出る温泉を使って共同の入浴施設があり、隣に設けられた休憩所が臨時の病院となっていた。
すぐそばで身体を清めることが出来るので、けが人の処置も早い。
入浴施設には洗濯場、炊事場等も用意されている。
あらかじめ、病院としての機能を持たせて設計されていた。
これは、以前から隣国との戦のために作られた施設だった。
ロチェスターは強固な砦を持つ街である。国境が近いということはそれだけ他国との戦場になりやすい。
街の造りから戦に向けて準備されている。
街に暮らす者たちもその脅威を代々、語り継いでいるため、今回のロックウェルからの攻撃に素早く対応することが出来ていた。
ルイは長期戦に持ち込む気はない、と言って兵士を連れて出ていった。
冬が明けたばかり、備蓄倉庫の在庫は底が見えている。
下の町から食料などを運ばせているが、まだぬかるみや道が凍っているところもありままならない。
ダーシーは時間を見つけて尖塔に上り、深い森を眺める。
遠くから鈍い音が聞こえてくる。
戦場はそう遠くない。
ロックウェルも状況は苦しいはずである。
恐らく、ロチェスターを取るとは考えていないとルイとダーシーは推測している。
奥の谷からどおんと音が響く。
ダーシーは窓枠を握りしめる。
堰き止めていた雪解け水が解放された音である。
ロックウェルの兵士たちが追い込まれ、そこへ雪解け水を流し込む。幾度もロチェスターを救った仕掛けであった。
「お嬢様!」
ひーひー言いながらミリーが階段を駆け上がってくる。
「こんなところにいないでください。もう、息が」
「体力が落ちたわね」
「お嬢様が高い所にいるからです」
文句を言いつつ、手紙を押し付ける。
「ルイ様から至急の報せです」
その言葉に弾かれたように中を開く。
さっと目を通し、ダーシーは顔色を変えた。
「ミリー、馬の用意を。出るわ」
「えー、ルイ様はここから出るなって」
「その叔父様が来いって言ってるの。降りるわよ」
せっかく上がってきた階段を再び降りる羽目になり、ミリーの膝は悲しいほどに震えていた。
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