第15話
ルイは姪のダーシーが部屋に籠って出て来ないと報告を受けて、足早に廊下を進んだ。
朝からフィンリーに今日の課題を渡し、部下に指示を出し、まだ先の長い冬を如何に問題なく過ごすか頭を悩ませている。
この冬は人が多い。
フィンリーとフライアが予想外にロチェスターを訪れたせいである。
毎年、冬を乗り切るために倉庫には備蓄を揃えている。食料や燃料だけではない。
もしもの時の武器や、書類作成で必要になる紙やインク、蝋なども一定数確保している。
フィンリーは王子でフライアは公爵令嬢である。
二人はかなり高位の人間なので物が潤沢にあって当たり前という感覚がある。
好みを迷いなく伝えてくるが、辺境であるロチェスターでは揃うはずがない。
手始めに二人に付き従ってきた側仕えから意識を変えさせ、本人たちにも自覚させる。
ここは王都ではない。
嗜好品よりも食料、衣料品はまずは防寒、何より人命、春まで生き延びることを優先。
ダーシーがこちらで過ごすといって自分たちの分を持ち込んできたのは最もなことだった。
そうやって気を回すことができるダーシーが部屋に籠っている。
忙しいと知っているルイに迷惑をかけないようにしている彼女にとって珍しいことである。
しかし、考えてみればダーシーはまだ、16歳である。ルイにとっては幼い頃から知っているのでまだまだ子どもという感覚がある。
慣れないロチェスターでの生活に限界が来て、憂鬱になっているのかもしれない。
そう思って、時間を作って部屋を訪れることにした。
部屋の前にいたミリーはルイの顔を見ると幾分、ほっとした表情を見せる。
思ったより事態は深刻であるらしい。
「申し訳ございません、ルイ様」
「構わんよ。ダーシーの癇癪など、明日は大雪だな」
すでに外は例年通り大雪である。
そんな軽口もミリーは反応を示さず、ただダーシーを心配している。
優しくミリーの肩を叩き、暫く誰も近づけさせないよう指示を出す。
部屋に入る際、入室を求めたが返事はない。
ただ、物音は聞こえるので起きてはいるらしい。
念のため、もう一度声を掛けて扉を開く。
ルイは何があったのか初めは分からなかった。
いつもダーシーは部屋の中を綺麗に使っている。それは勿論、側仕えのミリーが厳しく監視しているためでもある。
しかし今は、テーブルの上から紙が零れ落ち床に散らばっている。
本は何冊も広げられ、あちこちで上を向いたまま放置されている。
その奥で、絨毯の上に座り込み熱心に本を読みふけるダーシーがいた。
整えられていただろう髪はぼさぼさであり、ドレスもどこか着崩れている。
そんな姿のダーシーを今まで見たことがなかった。
一瞬、怯むもルイは紙や本を避けながら、そばに膝をつく。
「ダーシー、何があった?」
顔を上げたのでこちらの声を聞ける状態ではあるらしい。
ただ、その顔は目が腫れ、どうやら泣いたあとであることが分かった。
ルイが来たことに気付き、何かを伝えようとしているのかその唇が細かく震える。
「ゆっくりでいい、待つから」
「叔父様、お願い。助けて」
絞りだされた声は切なく、ルイを縛り付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます