第二章
第34話 月曜日
「ねぇ宮地くん、昨日は楽しかった?」
楽しい日曜は終わり、今日は月曜日だ。隣の席の有栖はまだ登校してきていない。気だるさと眠気を感じながら席に座っていると、昨日出会った委員長が俺に話しかけてきた。
「楽しいも何もただの勉強だぞ?」
「勉強デートというやつ?」
「何故そうなる」
朝からこの委員長に付き合っていては、質問攻めをされて、怠さを数倍に感じそうだ。高岡さんは、今はまだいない有栖の席に座った。
「だって教室にいる時と明らかに顔つきが違ったんだもん」
どうやら客観的に見て違いが分かるくらいに、あの日の俺はテンションが上がっていたみたいだ。
「俺だって休日くらいは、テンションが上がる」
「けど、勉強するんだよね。どうやったらテンションが上がるの?授業中を見ている限り勉強好きには見えないし」
委員長という事もあり、授業中はきちんと周りを見ているらしい。大抵こういうのは最初だけだ。
「失礼だな。俺は勉強が大好きだ」
「へぇ〜。来週のテストが楽しみだね」
息を吐くように嘘をつくが、高岡さんに感づかれないためにも勉強好きという設定を作る。
「早く勉強したいなぁ」
「あはは、嘘はいいよ。だって宮地くん授業中寝てるじゃん。そんな人が本当に勉強好きなの?」
「うっ…」
俺の中での設定は、簡単に打ち破られた。授業中に周りを本当によく見ている事に対して、僅かな恐怖を感じつつも、話の流れを持って行かれないためにも再度否定する。
「……とにかく、デートでも何でもない。図書館に勉強しに行っただけだ」
「本当かなぁー?」
「宮地さんに高岡さん、おはようございます」
どこか怒ったような表情を見せながら挨拶をしてくるのは隣の席の有栖だ。その視線は明らかに俺を向いている。
「お、おはよう有………黒崎さん」
「黒崎さんおはよう」
「えぇ、おはようございます」
すぐに高岡さんの方を向き、お上品な笑みを浮かべた。その笑みは、俺といる時とは違い、可愛さよりも綺麗さを感じた。
「高岡さん、ちょっと失礼しても良いですか?」
「あっ、そうだよね。ごめんね、ここ黒崎さんの席だもんね」
「いえ、荷物を置いたら行かないといけない場所があるので、お気になさらず」
高岡さんが立ち上がり、有栖は自分の席に荷物を置いた後、足早と教室から出て行った。
「……えっ?可愛すぎない?」
「分かる《・》……ない」
「あははは、否定するならちゃんとしな。本音漏れてるよ」
前の光星なら、何の
「男なら仕方ないね。あの顔はレベルが違うもん」
「……確かにな」
「はぁ………ここで高岡さんも綺麗だよって言えればモテるのにな」
男子なら仕方ないらしく、何一つ疑われてはいなかった。
「高岡さんも…………何もない」
有栖程ではないものの、高岡さんも美人と呼ばれるに相応しいレベルに入るので、目と目を合わせると緊張する。
「っち!あいつ何なんだよ」
俺に悪意を向けて教室に入ってくるのは、有栖から近寄るな発言をされた男、
*誰だか思い出せない方は、本編10話をご覧ください。
「まぁまぁ、話しかけたのは委員長だったから光星は悪くないだろ」
「うるせぇよ」
俺に恨みを持ち続けている翔太に、事情を話してくれた男は
「翔太、購買行こうぜ」
「買うもんねぇよ」
「ジュース奢ってやるから」
「ったく、俺は炭酸しか飲まねぇからな」
相変わらず秋良は良いやつだ。後でジュース代を払うか、ジュースを奢ってあげないといけない。秋良は、翔太を連れて教室から購買に向かって行った。
「私、あぁいう男って無理」
「どっちの事?」
「翔太って人よ。それに比べて高森君ってば優しいなぁ」
高森秋良は背もそれなりに高く、何より良い性格をしたいるので中学時代もモテていた。俺はそれをいつも隣で眺めていた。
「あ、そうだ宮地くん、高森君に私を紹介してよ」
俺と秋良が同じ中学というのを思い出したのか、俺にそのお願いをしてきた。
「分かった。一応話してみる」
「ありがとう〜、良い返事待ってるね!」
またも秋良に迷惑をかけてしまうが、とりあえず高岡さんは満足して離れてくれた。朝からため息をつきたくなるくらいに疲れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
四限目の授業が終わり、昼食の時間になる。昨日二人で話した、前に会った事のある実験室に向かうのだが、一緒に行くわけにも行かないので、時間差を作る。
先に向かったのは有栖だった。
「光星、一緒食おうぜ」
秋良から昼食を誘われたが、事情があるので断るしかない。
「悪い秋良、俺昼食の時は行かないといけない場所があるんだ」
「何だ?彼女でも出来たのか?」
俺の言い方が悪かったので、そう捉えられてしまうのは当たり前だった。秋良はとても嬉しそうな顔をしている。友に彼女が出来たと聞いて、喜べる秋良は根っからの良いやつだ。
ただ残念なのは、彼女ではなく片想い中の友人だという事だ。
「彼女ではない、それだけは分かってほしい」
「ま、光星が無理なら別のやつと食べればいいし」
「すまん。今度何か奢る」
「じゃあラーメン食い行こうぜ」
「おう」
秋良とそう約束し、鞄の中から弁当を取り出して、実験室へと向かった。
「ガラガラガラッ」
立て付けの悪いドアの音が鳴る。そこには前見た時と同じように有栖が座っていた。
「光星くん、座ってください」
「ん?座ればいいんだな」
手に持った弁当を机の上に置いてから座る。俺が座って横を見ると、有栖が不満そうな顔でこちらを見ていた。
「委員長と……高岡さんと仲良かったんですね」
「良くない。昨日たまたま会ったからその時の話を聞かれただけだ」
「もしかして、あのメールも高岡さんですか?」
「そうだけど……」
俺がそう言った後、有栖が黙り込むので、使われていないこの部屋のホコリっぽい匂いを強く感じる。
「……るいです。」
「何て?」
「ずるいです。私も友達と、光星くんと話したいです」
昨日の夜に、少しずつ話していけるようにしていこうと話したばかりなのに、次の日には我慢が出来なくなっている。
直接そう伝えられるのは本当に嬉しいが、友達という表現が胸に刺さる。
「私のあの態度!あれじゃ性格悪いじゃないですか」
「出会った時はもっと酷かったけどな」
「それは……今は関係ないです」
「でも高岡さんは、有栖のあんな態度でも可愛いって言ってたぞ?」
不満げな顔をしていると思ったら、今度は嬉しそうな顔に変わった。
「高岡さんは良い人ですね」
「顔の話だと思うけど」
「高岡さんは良い人ではないかもしれないです」
怒ったり賞賛したり、否定したりと忙しい。
「いいじゃん。こうして二人で食べてるんだからさ」
教室ではあまり話せないが、昼食は二人で食べる事が出来ているので、今のところは満足だった。いつもは有栖から笑顔を向けられるので、今回は俺が有栖に笑みを向ける。
「……るいです」
「ん?何て?」
今度はさっきとは違い、下を向いて髪で顔を隠している。
「そういう不意打ちはずるいです」
頬に熱が集まって、年相応の女の子っぽい反応にドキリとする。学校でもこんな表情を見れるとは思っていなかったので、心臓への負担が大きかった。
「……有栖だって、ずるいぞ」
俺も頬に熱が集まるのを感じる。笑顔を見せただけで、どちらも顔を赤くするとは、まだまだ初心な二人だった。
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