第23話 説教
「ご注文のカフェモカとカフェラテ、カプチーノでございます」
店員が注文したものを持って来た途端、花音さんの駄々っ子は終わった。短い時間しか見れなかったのでもっと見たかったが、人前でやるのもやらせるのも常識がないように感じるので今回はやめておいた。
届いたカップを触るとまだまだ熱かったので、猫舌の光星には飲むのに時間がかかりそうだった。
目の前の有栖も猫舌なのか、ふぅーふぅーと熱を冷ましていた。その隣の花音さんは、大人の余裕というやつなのか、熱がる様子なく飲んでいた。
(しかし、こうしてみると絵になる二人だな)
有栖は可愛い系、花音さんは綺麗系とタイプはぜんぜん違うのに並ぶと相性が良い。姉妹のようなオーラを出しているので、見ていて微笑ましかった。
「光星、飲まないの?」
「俺、猫舌なんで熱いの苦手なんですよね」
「……光星くんって猫舌なんですか」
口元をニヤリと曲げたあと、自分では子供っぽいと思っている所に視点を置かれたので
「私も猫舌です。一緒ですね」
「そうなのか」
共感を求められているのか、ただの報告なのか分からないが、てっきり揶揄われると思っていたので、俺は有栖をボーッとしながら見つめてしまった。
「どうかしました?」
「いや、てっきり揶揄われると思っていたから」
「私も猫舌なのに、どうやって揶揄うのですか?」
よく考えれば分かる事だったが、正論を言われては返す言葉もない。
「聞いた話ですけど猫舌って歳とか関係ないそうですよ」
「あれ?そうなのか?」
「あ〜。光星の言いたい事分かった」
花音さんには俺の考えていた事が見透かされたらしい。有栖は何のことがいまいち分かっていなかったが、花音さんが解説を始めたらすぐに理解するはずだ。
「光星は猫舌っを子供っぽいものだと感じている。だから有栖にその事を聞かれたから揶揄われると思った。そんな所じゃない?」
「おっしゃる通りです」
「けど実際は有栖も猫舌だったから予想が外れたけど、その後に有栖が自分も猫舌って事を報告して来たからどう反応すれば良いか分からないって所ね」
最初から終わりまで全てを見透かされると自分の頭の中を覗かれているようでゾワゾワしてくる。花音さんは頭の回転が早いらしい。
「それでただの報告だったのか?」
「………私は、前に本屋でも言った通り、あの」
「本屋で?………そ、そうか」
*パッと来ない方は本編11話をご覧下さい。
照れたように可愛い反応をしながら話しているので、隣の有栖大好きっ子が黙っていなかった。
「可愛い反応をするわね〜!!……それで?本屋の件って何かしら?」
口元は笑っているのに目が笑っていない。何かしていたらタダじゃ済まさない、そんな考えが伝わってくる。俺は慎重に言葉を選びながらゆっくりと口を開きながら説明した。
「そう、有栖から言ったのなら許すわ。ただ有栖の肩を握りしめたって言うのは許せないわねぇ〜」
一通り説明し終わった後に花音さんからの説教が始まった。肩を握りしめたのは明らかに俺に負があるので反論することが出来ない。
(花音さんだって、俺の肩を握りしめた癖に……)
心の中で愚痴を吐きつつも、花音さんの説教に戻る。
「いい?有栖の肩はこんなにも細いのよ?男の人に握られたら折れちゃうわ」
「花音さん、私そこまで脆くないです」
「どーせ、不健康な生活してるんでしょ?」
「うっ、……」
有栖から出てくる次の言葉を何となく予測したので、有栖が口を開く前に注意に入った。
「その生活を直すた、、んっ〜ん、ん!」
急いで止めに入ったので、なんとか口外せずに済んだ。この事まで知られると花音さんも有栖の家に来ると言いそうなので、この後の予定を話そうとする有栖の口を無理矢理押さえた。
花音さんが嫌いとかではなく、これは有栖から俺への誘いなので人数を増やすわけにはいかない。
「んっ…」
そんな甘い声が聞こえてくる。その声の出どころは目の前の少女からだった。目を向けると俺の手が有栖の口元に伸びていた。
(あれ?俺そういえば無理矢理、押さえたまま?)
あの時は必死だったが、今自分のとった行動を振り返ってみるとやばい事をしたと気づく。隣からは出会ったとき以上に冷酷な視線が送られている。
手の中にはプルプルで柔らかい唇の感触がある。その唇は何度か俺の手と接触している。急いで手を外すも反論する余地はなかった。
「……光星くん、な、何を?」
「誤解なんだ、と言ったら信じてくれるか?」
「信じるわけないでしょ?
まず状況の整理をしよう。有栖はまだドギマギしていてまともに頭のが回っていないだろう。そしてその隣の人に関しては言葉で表せない表情をしているので、説得はほとんど不可能だろう。
一か八かで有栖に事情を説明してみよう。それで納得してくれれば花音さんも納得しざるを得なくなる。
「ちょっとだけ耳貸して、有栖」
「耳ですか?はい、分かりました」
右手を耳の前に添え、左手を有栖の肩の上に置いた。置いた左手を意識してみると、花音さんの言った通り握っただけで折れそうなくらいに細かった。
骨っぽいという事はなく、女の子が憧れる理想の細さと言うべきだろうか、細いのに柔らかかった。
今はその感触を確かめている場合ではないので気を取り直す。
「ほら、料理の事教えると花音さんも来たがるだろ?有栖が料理を人に見られるのは恥ずかしいって言ってたからさ、」
「何か事情があると思いましたけど、そういう事ですか」
「分かってくれるのか?」
ふふっと小さく笑みをこぼした後に俺の方を振り向いた。目が合ったので、恥ずかしくて視線を逸らそうとしたが有栖が俺の真っ直ぐに見つめるので、俺も見つめ返した。
「何のことだか分かりません!」
「え?さっき納得してなかったか?」
「さぁ?何の事ですかね!」
「……おい嘘だろ?」
「どんな事情があっても無理矢理女の子の口を押さえるのは許されませんよ?」
無理矢理押さえたのは悪いので反論するつもりはないけど、有栖のためを思ってやった事だから許してもらえると甘く考えていた自分がいた。
そんな自分に後悔をしながら、花音さんからの説教を受けた。本日出会ったばかりなのに説教されるのは二度目である。
「光星ってやっぱ優しいのか分からないわ」
「……最初から優しくなんてないですよ」
説教が終わった後、花音さんからそう言われた。二度目の説教は、説教というよりも本気で心配されたのでその分余計に心にダメージきた。
「有栖はいいの?このまま許しちゃって」
「私はそもそも怒ってないですし、彼の行動の意味も理解してるので」
「有栖がそう言うならいいんだけど、……光星以外にはそんな対応したら駄目よ?」
女子二人で会話を始めたので、すっかりぬるくなったカフェラテを口にする。今目の前で話している女子達は話の途中に飲んでいたらしく、中身は空っぽだった。
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