第5話 夢

シロという名の少女も私の前にゆっくりと座り、クロと呼ばれた少女は苛立たしげに、シロを睨み付けていた。


「クロの話は残念ながら嘘ではないわ。本当のこと・・。でもね、貴方の人生は辛くて苦しいことだけじゃない。楽しいこともたくさんあるの。

さっき、カッターナイフを手首にって、クロが言ったわね・・。たしかに貴方は辛い現実を終わらせたくて、手首を切ろうとする。

でも、切らなかったの!

何故だと思う?」


シロはニコッと笑みを浮かべて、私に問いかけた。


私は、瞳を涙で潤ませながら、

「分からない・・」と呟いた。


「貴方には夢があったの。漫画家になるっていう夢。手首を切る寸前、貴方は思った。

手を傷つけたらもう絵が描けなくなる・・。

ここで死んだら絶対に夢は叶わない。

そう思ったら、涙が溢れて止まらなくなった。そして、思いとどまることが出来た。」

シロは真剣な口調でそう話した。


クロが忌々しげに怒鳴った。

「相変わらずの偽善者ね、シロ!

あんたこそいいことしか言わないじゃない!」


シロはため息を吐きながら、

「貴方が悪いことばかり言うから、いいことも伝えなくちゃと思っただけよ。まだこの子に伝えたいことがあるから黙っててちょうだい。私の話が終わってから、交渉に入って。」と言い返した。


(交渉?何のことだろう?)

私は交渉というよく分からない言葉が気になったが、シロが伝えたいことというのも気になった。


シロは真剣な目つきで口を開いた。

「私は不公平は嫌いなの。だから、クロが言わなかった貴方の人生を補足するわ。

親友の一人に漫画家志望の子がいるって言ったわよね。貴方もその子に負けないくらい、アニメやマンガが大好きで、よく絵を描いていたの。

自分も漫画家になりたいと思っていたけど、親友があまりにも先に進んでしまって、周りに言えなくなってしまった。でも、貴方は貴方のペースで絵の練習を続けていたわ。夢を叶えるために。

それと、三人の親友は貴方の異変に気付いていたわ。同じ中学校の二人が別の中学校の子に知らせてね。自分からは何も言ってこない貴方をどう励まそうか、何が出来るか、三人とも悩んでいたのよ。

両親も気付いてはくれなかったけど、貴方のことを心から想ってる。愛してくれてるのよ。」


「ハイハイ!ストーーップ!!」

クロが手を叩きながら大声をあげた。

「あんたのその話しぶり、聞いてるだけで寒気がしてくる!もう充分でしょ。あまり時間もないわ。交渉に入らせて。」


私はまだ話の内容が飲み込めていなかった。

衝撃的な辛い話を聞かされて、矢継ぎ早にフォローされて、頭がついていけなかった。

自分の話だとは思うけれど、展開が早すぎる。


「ちょっと、待ってよ。いきなり色々言われてもついていけないよ。休ませて。」

私は、二人の少女に抗議した。

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