第16話 従姉と王女のレノ争奪戦
「く、クロエ……」
僕は、従姉のクロエの赤い顔を見つめ、そして今の自分の状況を省みる。
王女アウレリアの部屋で、僕はアウレリアと抱き合って、密着して、しかもアウレリアは僕にまるでキスするかのように唇を近づけていた。
アウレリアも顔を真っ赤にして、あたふたしている。
クロエは頬を膨らませて、僕たちを睨みつけていた。
「レノも殿下も、まだ12歳なんだから、そんなふしだらなことをするのはダメだと思うの!」
「ご、ごめんなさい……」
僕は小声で言ったが、アウレリアは赤い顔のまま、微笑んだ。
「あら、クロエは単にヤキモチ焼いているだけではないですか? わたしたちのことが羨ましいんでしょう?」
「う、羨ましくなんてありません!」
「わたしはレノのものになったんです」
アウレリアは自分の胸に手を置き、恥ずかしそうにうつむいた。ご、誤解を招きそうな表現だ……。
僕は口を挟もうとしたが、その前にクロエがぐいと身を乗り出す。
「お、王女殿下がレノのものになったって……どういうこと?」
「わたしはレノにだったら、何をされてもいいという意味です」
クロエとアウレリアは、まるでばちばちと火花を散らすかのように、視線をぶつけ合っていた。
やがてクロエはくすっと笑った。
「王女殿下、私がレノとハグすることぐらいで羨ましがると思いますか?」
「どういう意味です?」
「私はレノと一緒にお風呂に入ったこともあるんですよ!」
これは衝撃発言だった。アウレリアも固まり、僕も固まる。
僕は転生前のレノ少年の記憶がない。だから、一緒にお風呂に入ったことも、当然知らなかった。
一瞬、ちらりと僕はクロエを見てしまう。一緒にお風呂に入ったというのがいつのことかは知らないけれど、クロエは15歳で、アウレリアと比べると、体つきもずっと女性的だ。
その胸の膨らみに、僕はつい視線がいってしまう。
クロエもそのことに気づいたのか、顔を赤くして、そして微笑んだ。
「レノも、王女殿下みたいな子どもじゃなくて、私みたいな大人の女性の方がいいよね?」
王女殿下を子ども呼ばわりして大丈夫なんだろうか? そして、たしかにクロエは年上で美少女だけど、でも、大人の女性というのは違う気が……。
とか考えていたら、いきなりクロエにぎゅっと抱きしめられた。
ふわりと甘い香りがする。アウレリアと違って、包容力があるというか……わざとなのか胸が押し当てられている。
「レノは私のものなんだから」
クロエは優しくそう言った。むぎゅっと抱きしめられて、僕があっぷあっぷとしている一方で、アウレリアは涙目になっていた。
「わ、わたしだって、レノと一緒にお風呂に入れます! そうすれば、きっとレノはわたしにメロメロになるんですから!」
僕はぎょっとした。アウレリアってだいぶおませなのでは……。子どもの頃のエミリは……どうだったっけ。
クロエは僕を抱きしめたまま、勝ち誇った笑顔を浮かべていた。
「殿下はダメです。私とレノは家族だから、一緒にお風呂に入っても良いんです」
「だったら、わたしもレノと家族になります!」
どういう意味だろう? 僕とクロエは顔を見合わせた。
アウレリアは上目遣いに僕を見つめた。
「お父様に頼んで、レノをわたしの婚約者にしてもらうんです!」
こ、婚約者!?
いや、たしかにプランタジネット公爵家なら、王女とも身分的な釣り合いは取れるだろう。
それに、レノ少年は二度、アウレリアの命を救っている。
アウレリア王女は父王に溺愛されているというし、頼まれれば断らないかもしれない。
今度はクロエが慌てる番だ。
「で、殿下。そんなことを軽々しくおっしゃってはいけません」
「わたしは本気です!」
「で、ですが……」
クロエはうろたえていた。一気に形勢逆転……なのだろうか?
そのとき、ふたたび部屋の扉が開いた。
そこにはメイドのリィネがいて、くすくすと楽しそうに笑っていました。
「大浴場のお風呂の準備ができました」
「あ、ありがとう……」
僕は返事をして、そういえば、もうそんな時間かと気づく。
客人のアウレリアから入ってもらうことになる予定だけれど――。
リィネは得意げに、人差し指を建てる。
「三人のお話は一部始終聞きました。そこで提案があります」
「提案?」
「はい。せっかくなので四人で一緒にお風呂に入りませんか?」
「え?」
……嫌な予感がする。クロエとアウレリアはリィネの言葉に聞き入っていた。
「アウレリア殿下、クロエ様、そしてあたしの三人で、レノ様を可愛がって差し上げようと思いまして」
リィネはいたずらっぽく淡い色の瞳を輝かせた。
【あとがき】
次回はお風呂回! リィネが大胆な行動に出る予定です。
続きが楽しみ、クロエやアウレリアたちが可愛い! という方は……
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