転生守銭奴女と卑屈貴族男のお忍び旅行事情 11
「ディルミックは、わたしの不安を否定するよりもすごいこと、してくれていますよ」
こんなにも輝いて、大切な日常を、今更手放そうだなんて思えない。それを与えてくれたのは、ディルミックだ。
父たちが、母にこの輝きを、与えていたのかは分からない。父が渡そうとしても母が拒否したかもしれないし、そもそも、ときめきだけを求める恋愛感情のまま終わってしまっていたから、失敗したのかもしれない。二度と会えない、会わない人たちが、どういう感情を抱いていたのか、もう、知るすべはない。
それでも――わたしは違うのだと。ディルミックを、子供たちを置いて逃げ出さないと、今なら心の底から言える。
それに気が付くのに――認めるのに、随分と、長い時間がかかってしまったけれど。
「わたしと家族になってくれて――わたしを、『母親』にしてくれて、ありがとうございます」
「ロディナ……」
少しばかり照れくさくなって――でも、ディルミックのぬくもりが欲しくて、わたしは彼に抱き着いた。全然寒くなんてなかったけれど、ディルミックにくっついて、ようやく、わたしが思っていたよりも体が冷えていたことに気が付く。少し長居しすぎたかな。
「そろそろ戻りましょうか」
パッとわたしはディルミックから離れて、部屋へとつながる大窓へと向かう。あまり夜更かししすぎても、わたしはともかく、ディルミックが明日大変だろう。
そう、思ったのだけれど。
「ま、待ってくれ」
ぱし、と腕をつかまれる。振り返るが、月明かりが逆光になって、ほとんどディルミックの顔は見えない。
それでも、なんとなく、顔が真っ赤なのだろうな、ということは分かる。雰囲気で。
「もう、契約内容は終わっているし、これ以上望むのもどうかと思うし、それに君に負担がかかるから、君に拒否権があってしかるべきで、嫌なら嫌と言ってくれても僕は一向にかまわないんだが」
「長い長い、長いです」
久々にこの長い前置きを聞いた気がする。言いにくいことを、それでも言いたいときの、ディルミックの悪癖。本当の願いを口にする前に言い訳を並べて、傷つかないように逃げ道をつくる。……でも、こうやって頼まれるのにわたしは弱いので、実のところ、前置きをしてわたしに逃げ道を作る口実を並べているように見せかけて、実際は逃げ道をふさいでいることを、きっと彼は知らない。
だって、こうやってディルミックが言うときは、ずっと我慢してきたことが多いから。わたしはつい、そのお願いを聞き入れたくなるのだ。
「それで? 今度はなんです?」
「ほ、本当に、断ってくれて構わないんだ……どうしようもない、僕の我がままだから」
……? いつもより本当に前置きが長いな?
「――……き、きっ、君は、もう、子供はいらないのか?」
――…………はぇ?
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