転生守銭奴女と卑屈貴族男のお忍び旅行事情 02
わたしからしたら、結構納得いく感情だけどな。わたしだって、死後、もしもディルミックとの夫婦茶器を酷い扱いされたら化けて出たくもなる。……技量的に、呪い殺せるとは思わないけど。
「ここはマルルセーヌと接している、グラベイン内唯一の土地だからな。マルルセーヌ人とやりとりすることも多いが……穏やかな人が多いように思う」
「それは……まあ」
ディルミックの言葉には、一理あると思う。よく言えばおおらかでのんびり、悪く言えば無頓着な能天気。もちろん、そんな人ばかりではないが、国民性、という名の平均値で考えたら、穏やかな人、と称されてもおかしくない気がするけど……。
「でも、マルルセーヌ人のお茶への執着って、こんなもんですよ?」
わたしがそういうと、ディルミックは少しの間を置いたのち、「……なるほど」と、ひどく納得したような声をこぼした。そこで理解されるのも……なんかちょっと、釈然としないけど。えっ、わたし、いつもそんなにお茶のことばかり話してる? そんなことないよね?
「ちなみに、その期間はいつまで続くんだ?」
「ええと……あと二週間ほどです」
禁茶すべき日にちは、全体で三週間弱なのだが、いかんせん始まったばかりなのでまだまだ終わりまでは先が長い。
余談だが、割られた夫婦茶器を修繕し、貴族の墓に埋めなおしたことで、呪いがぴたりとやんだので、墓に夫婦茶器が埋められた次の日からがお茶の解禁日である。
閑話休題。
こちらに嫁いでから――より正確に言えば、結婚式を挙げた後、二年目からは禁茶期間をしっかり守っていたのだが、タイミングが合わなくて、こうして発覚するまで何年もかかってしまった。一年目は……まあ、普段にしては我慢していた方だけど、完全に禁茶していたかというと……うん、まあ……。
グラベインでは、平民の結婚は街ごと、領主が立ち合いの元で行われるようで、その結婚を見届けるためにディルミックは年に数度、視察もかねて家を長期間開けることがある。
そのタイミングに禁茶期間が被ることが多かったので、ディルミックが知らないのも無理はない。多分、彼は彼で、わたしが勝手にいつものように茶を楽しんでいると思っていたのだろう。
「そうか――なら、ちょうどいいか」
「ちょうどいい?」
不思議な反応に、わたしは首をかしげる。何がいいんだろうか。
「その期間、良ければ、旅行に行かないか」
「……旅行?」
一緒に茶を飲まないか、という以上に珍しい誘いに、わたしは思わず言葉を繰り返してしまった。
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