転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 16
金髪に紫の瞳。カラーリングはディルミックと全く同じ。顔立ち自体は、義叔母様そっくりだったが、近くで見ると、ちょっとだけ、しわとかが目立つ。それでも、ディルミックくらいの年齢の子供がいるようには全く見えない。
そんな容姿のお義母様は、きっちりとした姿で現れた。流石、気を病んで部屋にこもっている、と言われていても貴族。王族の前にしては、弱いところを見せないようだ。
しかし、お義母様は、わたしを見ると、目を軽く見開いた。驚いているのは、王子がいるだけだと思っていたからか、それとも――新人メイドだと思っていたわたしが、明らかにメイドではない恰好で、この場にいるからか。
でも、驚いたのは一瞬で、すぐに柔らかい笑みを浮かべると、お義母様は王子に挨拶をした。
「お久しぶりでございます、テルセドリッド様。本日は会えて嬉しゅうございます」
しっかりと挨拶をこなすお義母様。……やっぱり、精神的に参っている人には見えないんだよな。普通の人にしか見えない。
わたしたちは挨拶もそこそこにして、ソファへと座りなおす。
「――それで、本日は、どのようなご用件でしょうか?」
タイミングを見計らって、本館のメイドがわたしの選んだ茶葉のお茶を給仕してくれる。マルルセーヌの、例のブランドの中でも、花の香りがするものだ。味の好き嫌いが分かれば、もっとお義母様好みの物を選べたと思うのだが、残念ながら花好き、ということしか情報がなかったので、その中でも最善のものを選んだつもりだ。
花の香りが気になったのか、一瞬、お義母様の視線がお茶に移る。勿論、すぐに手をつけるようなことはなかったけれど。
毒見役なのか、給仕をしたメイドが、そのまま同じポットから淹れたお茶を一口飲み、それでから、他のメイドと同じように、部屋の隅で待機に戻った。
「本日は――ディルミックの件で、少し」
ディルミックの名前が王子の口から出た一瞬、ぴくり、と、お義母様の膝の上に置かれた手が動いたのが、見えてしまった。
「あの子が――何か」
表面上は、にこやかに笑っているお義母様。でも、それが張り付けたものであることは、なんとなく、分かる。一瞬で、彼女のまとう空気が変わったのだ。暴れる様子はないが、普通に怖い。
「私は、証人としてここにいるまでだ。詳しい話は、彼女から」
そう言って、王子はわたしの方を見る。つられるようにして、お義母様の視線もまた、こちらに突き刺さった。
「先日は、ろくに挨拶もできずに申し訳ありませんでした。ですが、わたしは新人メイドではなく――ディルミック、様、の元へ、嫁ぎ、ここにいるのです」
散々脳内でシュミレーションして言ってきた言葉。ディルミックに様づけするのが慣れなくて、ちょっと噛んだのは、見逃してほしい。
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