転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 11

 数日間、手紙のやりとりをして、王子がカノルーヴァ家にやってくる日が決まった。

 といっても、二か月ほど後になったが。やりとりの手紙は爆速で届いたものの、流石にスケジュール調整をするのは難しかったらしく、時間が空くことになってしまった。ディルミックの反応を見るに、これでもだいぶ早い日程みたいだが。

 王子が王城へと呼びつけるのなら、それこそ一日二日で会えるかもしれないが、今回はあくまでプライベート、という名目で来るらしいので、二か月後になる。


 そして、お義母様と会う、ということで、ディルミックは同席できないことになってしまった。というか、ディルミックから同席しない、と言われてしまった。ものすごく、葛藤した表情を見せていたが。わたしに同席しないことを伝えるギリギリまで迷っていたのだろうな、というのが分かるくらいの顔だった。

 お義母様と関係が悪いディルミックがいたら、場の空気が悪くなる、程度なら可愛いもので、お義母様が暴れてしまい面会が難しくなるかも、とのことだった。それを言われたら、ついてきてほしい、なんて流石に言えない。

 同席しない、と言ってしまった後でも、発言を後悔しているような感じのディルミックに、わたしはわざと明るくなるように振る舞った。


「時間があるようでしたら、欲しい物があるんですけど……」


「……君がそういう言い方をするのは珍しいな」


 ディルミックが何でも気兼ねなく欲しいと言っていい、と許可が出てからは、ノートの追加が欲しい、とか、本が欲しい、とか、遠慮なく言っていたから、こういう言い方をするのは、確かに久しぶりかも。


「マルルセーヌ内でしか買えないブランドの茶葉が欲しいんです」


 マルルセーヌ人はお茶好きで、ことあるごとにお茶に物事やイベントをひっつける。

 ということで、当然、結婚のご挨拶のときの手土産御用達の有名ブランドがあるのだ。結婚の挨拶だけでなく、結婚式に用いる茶葉だとか、結婚記念日向けの茶葉も取り扱っている。とにかく、慶事、特に結婚関連に強い。

 庶民向けの安いものから、貴族が使う超高級品まで。どこぞの国の王族がマルルセーヌの姫に求婚するときに買った、とまで言われている、客層の広いブランドなのだ。


「ディルミックは『娘さんをください』っていうイベント、やったじゃないですか。でも、わたしはまだなので、折角なら、と思って」


 新婚旅行で、ディルミックは祖父に挨拶したけれど、わたしはなんだかんだ、ディルミックの親に会うのは今回が初めてなのだ。この茶葉の意味が分かるのは、おそらく同じマルルセーヌ人だけだと思うけれど、それでも、マルルセーヌ人なりの誠意を見せたい。


 心配しなくても、何とかしてみせる、というわたしの意図が伝わったのか、「……手配しておこう」と言ったディルミックの眉間の皺は、少しばかり減っていた。

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