転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 10
完全にお義母様の姿が見えなくなってから、わたしはそっと息を吐いた。結構緊張して、息がつまっていたようだ。
気を落ち着かせるために、わたしはケトルに水を入れ、火にかける。マルルセーヌ人だもの、お茶を入れた方が落ち着く。
ちなみに、妊娠が発覚してからは、妊婦用のノンカフェインなお茶を飲むようにしている。
ホームレスになっても茶器を手放さない人間がいるような国だ、妊娠期間中お茶を飲めなくなる、ともなれば、妊娠を拒む女性が増えて、少子化へまっしぐらだ。なので、マルルセーヌには妊婦用のお茶の種類も結構ある。マルルセーヌ人の努力の賜物なのか、それとも異世界だからか、前世より種類が多いように思う。まあ、わたしが、前世妊娠していない上にお茶をここまで嗜む生活をしていなかったから、知らなかっただけかも知れないけど。
閑話休題。
わたしはお茶を淹れながら、お義母様のことを思い出していた。
ディルミックやノルテの様子からして、気が立っているときには大変な人なのかもしれないが、話が通じないような人には見えなかった。わたしが、この国の人から見たら能天気な部類になってしまうことは重々承知しているけれど、それにしたって……。
それとも、彼女の前で、ディルミックの話をしたら豹変してしまうのだろうか? 可能性としては十分あると思う。
わたしは、人伝でしか、お義母様のことを知らない。それは、他人の主観に染まった情報であることもあり得るけれど、同時に、彼女本人から直接得て感じたものは何もない、ということだ。
だから、わたしが何か、見落としている可能性は十分にある。
――……でも、そんな人が、別館のこんなところにまで来るのかなあ。
この別館は、わたしからしたら、完全にディルミックを隔離するためだけに作られたもののように見えている。臭いものに蓋をする、ではないけれど。
なのに、わざわざこちらに来たら、意味はない。部屋にこもっているのが退屈、っていったって、別館に来る必要はないだろう。わたしがたびたび足を運ぶ温室も、一般公開がされるくらい見事な庭園も、本館からのほうが近いくらいなのだから、そちらに行けばいい。
「……まあ、なるようにしか、ならないか」
今、ここで考えても、無意味――とは行かないが、想像通り、理想通りに行かないことはなんとなく感じている。
守るものと譲れないものを間違わなければ、多分、大丈夫。
わたしは、今まで通りできることをやるだけ。よくある異世界転生の小説や漫画のように、チートな能力や知識はないけれど、それでもやれることはあるはずだから。
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