転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 07

 お義母様と二人きりで会うのは駄目で、同時に、信ぴょう性のある、なにか証拠を提示しないといけない。

 そう考えたとき、わたしの頭の片隅に思いついたのは、一通の手紙だった。

 ――そう、グラベイン王国第三王子、テルセドリッド王子からの手紙。しかも恐ろしいことに、ディルミックを経由していない。


 内容自体は、特別におかしなところがない手紙なのだが、どういう経路でやってきたのかが不思議で仕方がない。ちなみに手紙自体はミルリから貰い、ミルリはセヴァルディから預かったらしい。王子からセヴァルディの間は一切不明。


 返信をどうしたものかと、丁度文字を教えに来てくれていた義叔母様に確認をとったときに、本当に差出人が王子だということを教えてもらったので、偽物、とかではない。蝋封が王族の持つ特別な紋様で封じられていたので、確実に王族からの手紙で間違いないようだ。


 中身も、もちろん義叔母様に確認してもらったのだが、義叔母様は少し悩ましげな表情を見せて考え込んだ後、「『郵便事故』ということにしておきましょう」と、言った。『郵便事故』というのは、手違いで手紙が届きませんでした、という、まあ、いわゆる都合の悪い手紙を抹消するときの、グラベイン貴族内での常套句らしい。


 内容は、こんどディルミックの話を聞かせてほしい、とか、困ったことがあればなんでも頼ってくれ、とか、そういう感じのものだった。義叔母様曰く、「テルセドリッド王子は美醜による差別をなくそうと活動しているお方ですから、ディルミックを受け入れ、ほめたたえ、さらには結婚式の誓いであの子を使った貴女に、強い興味を抱いているのでしょう」とのこと。


「隠すつもりはなかったんですが、義叔母様が『なかったこと』にするといったのなら、完全にそうしたほうがいいのかな、と……。当然返事も書いてません」


 王子から手紙を貰っていた、ということを言うと、ディルミックは驚いた表情を見せた後、拗ねたような顔を見せたが、わたしが素直に渡された手紙を見せ、義叔母様からの指示だった、と言えば、「叔母様が言ったのか……」と、ならまあしょうがない、と言わんばかりに納得してくれた。わたしたち二人は本当に義叔母様にいろんな意味で頭が上がらない。


 王子に立会人を頼めば、ものすごい説得力があると思う。なんてったって、王子だし。わたしたちの結婚式を取り仕切ってくれた王族でもあるし。


 まあ、でも王子だし、わざわざ向こうから手紙を送ってくるくらいだから、頼ってくれ、というのが社交辞令でなくても、すぐに対応してくれないだろうな、という気持ちでディルミック経由で声をかけてもらったら――。


『是非、夫人の力にならせてもらうよ。都合のいい日をまた教えてくれ』


 ――という手紙が、即日届いた。

 ……王族って、暇なのかな? いや、そんなこと、ないと思うんだけど……。

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