転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 06

 難しい顔をして、ディルミックは考え込んでしまった。

 でも、ディルミックの母親が存命ならば、一生会わないままでいる、というのは難しいと思うのだ。完全に絶縁して、双方何処に住んでいるかも分からない、というくらいの関係ならまだしも、同じ敷地内に住んでいるのだから、この先ずっと、今日みたいなことを起こさない、というのは無理だ。


 不審者云々、なんていうのは、ほとんど、このままでいいのか、という疑問のための言い訳。いや、本当に不審者扱いされたらどうしよう、っていう、不安が全くないわけじゃないけど。

 ディルミックの隣にいるために、義叔母様からマナーを学んでいるように、これもまた、逃げられない問題だと思う。


「――ディルミックは、どうしたいですか」


 とはいえ、簡単に済む話でもない。わたしは、何かしらの行動を起こした方がいいと思うが、これはディルミックの問題だから、わたしが許可もなく勝手に踏み入っていいことでもない。家族のことになれば、なおのこと。こういうのは、非常にデリケートなのだ。


 わたしは、ディルミックに、母のことを知られた上で、わたしのことを認めてくれたことに感謝している。でも、もし、仲直りをした方がいい、みたいに言われていたら、いくらディルミックでも許せなかったと思う。……彼が、わたしの話を聞いたうえで、そんなことをのたまう人間ではないと分かっているけれど。


 もしも、本気でディルミックがこのままでいい、というのならば、わたしはそれに従うまで。もっとも、そんな風に考えていないのは、彼の表情を見れば、察するものがあるけれど。


「それ、は……」


 言いにくそうに、ディルミックの視線が落ちる。

 わたしはソファから立ち上がって、彼の座る席の隣へ近付いた。


「大丈夫。言うだけ言ってみてください」


「ロディナ……」


「わたしはディルミックの味方ですから」


 彼にいつだか伝えた言葉。あのときは、可哀想だという同情の方が比率的には多かった気がするけれど――今は、そんなことはない。

 心の底から、彼の力になりたいと、そう思っているのだ。


「――……別に、母と、普通に会話がしたいだとか、そういう願いがあるわけじゃないんだ」


 ディルミックは、ゆっくりと、わたしに言葉を伝えてくれる。


「今更何も話すこともないし、関係が修復できるとも思っていない。ただ――」


 緊張しているのか、ディルミックの唇が震えている。


「ただ、母に、僕を産んだことは悪いことではなかったと、そう味方してくれる人間がいてほしかったと、勝手に思ってしまうんだ」


 ――それでも、ディルミックの願いは、しっかりとわたしの耳に届いた。

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