転生守銭奴女と卑屈貴族男の本館事情 05

 わたしとノルテが迷っていると――。


「もしかして、新しいメイドの子なのかしら」


 大奥様がそう言い出した。

 言われてみれば、今日のわたしの服のデザインはメイド服に少し似ている。エプロンドレスではないけれど、白と黒の比率がノルテ同じくらい。じっくり比べれば全然別物であることは分かるだろうが、わたしから大奥様がスカートの裾くらいしか見えないのであれば、向こうも同じくらいしかわたしのほうが見えていないはず。

 勘違いしても無理はない。


「お、大奥様の前に出せるような者ではありませんので……」


 ノルテの背後から、ひしひしと謝罪の意を感じる。副音声で、謝られているのが聞こえてくるくらいだ。実際には言ってないけど。


 ノルテは嘘を言っていない。事実、わたしがディルミックの妻ですと彼女の前に立つことはできないし、かといって、新人メイドです、と言うことも難しい。わたしだって、義叔母様に鍛えられて、表面上をとりつくろうことくらいはできるようになったけど、それはそれとして、メイドとしての心得があるわけじゃない。わたしの中のメイドと言えば、前世のサブカルに全力で振り切ったメイドか、ミルリのどちらかである。


 わたしだって、ノルテと同じ立場なら、なんとかやり過ごすために曖昧な表現に逃げる。むしろ、こうして間に立って、わたしを隠して応対してくれているだけ感謝したいものだ。


「――そう」


 冷たいような、淡々としたような声。これは正解だったのか、どうなのか?

 ドキドキしながら大奥様の出方を待つ。


「では、教育が住み次第、わたくしの部屋に顔を出しなさい」


 ――エッ。

 間抜けな声を出さないように、わたしはパッと顔をそむけて口を手で覆った。


「お、大奥様……それは……」


「ここはメイドの仕事場ではありません。それなのにここにいるということは――花が好きなのでしょう?」


 しどろもどろになるわたしたちを他所に、大奥様は彼女自身の考えをつらつらと述べていく。


「わたくしも花が好きなの。よろしければ話し相手になって。新人なら、それほど仕事も任されないでしょう?」


 どんどん展開されていく話に、どこかで断りを入れないとヤバいと思いつつも、そのタイミングを失う。勘違いされるような表現に逃げたのはわたしたちだし、丁寧に訂正したところで新しく説明できる言い訳を用意できていない。


 気が付けば、わたしは新人メイドであり、大奥様の話し相手に任命されていた。

 大奥様が立ち去った後、血の気が引いた表情でノルテに謝り倒されたが、これ以上、波風立たせずに切り抜ける方法をわたしは思いつかなかったので、責めることはできない。


 メイド服貰って、花の勉強もするべきなの……?

 現実逃避を始めたわたしは、そんな間抜けなことを考え始めた。とりあえず、ディルミックに相談しに行かなきゃ……。

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