転生守銭奴女のメイドと卑屈貴族の護衛の恋愛事情 06

 ――この店を見つけたときのことを、わたくしは今でも思い出すことができる。


 自分の容姿に自信がないながらも、周りの子供に混ぜてもらおうと必死だった頃、わたくしはこの店に出会った。

 今でこそ、もう周りに馴染めないことは諦めたし、自分の容姿が嫌いだけれど、わたくしにも、母譲りの赤い髪が誇らしくて、周りの子と自分が違うことに気がつかなかった時期があったものだ。ほんの一瞬のことではあるけれど。


 あの日は、「お前ってさ、肌を塗り忘れて生まれてきたんだろ? 変なの!」と散々からかわれて、泣きながら、わたくしは、今、奥様を案内して下っているものと同じ階段を下りていた。

 その途中で、可愛らしいうさぎのぬいぐるみを、ショーウィンドウのガラス越しに見つけたのだ。真っ赤な赤い首元のリボンが目を引く、真っ白なうさぎのぬいぐるみを。


 わたくしの白い肌のようなうさぎは、酷く目立って見えたのに、すごく可愛かったのだ。わたくしと同じ白なのに、可愛くて、ずるい、と思った反面、ショーウィンドウの一番目立つところに置かれるそのぬいぐるみがうらやましくて、わたくしはこの店を通るたび、そのぬいぐるみを眺めるのが日課となった。


 まあ、その白うさぎのぬいぐるみは、流石にもうこの店のショーウィンドウにはないのだが。


「奥様、こちらになります」


 たどり着いた店を見て、奥様の後ろに控えているハンベルから軽く睨まれた。この店は、わたくしの思入れのある店であると同時に、彼の実家なのである。ハンベルの両親の店なので、仕事をしているところを見られるのが気まずいのだろう。


 気持ちは分からないでもない。わたくしだって、自分の趣味を奥様に知られてしまうし、なにより、ハンベルの両親ともそれなりに付き合いがある。見られたくないのはわたくしだって同じ。


 しかし、それはそれ、これはこれである。


 わたくしは彼の視線を無視して、店内に奥様を案内する。……店員である、彼の両親の視線も、なるべく、気にしない。

 奥様の要望を満たす、近い場所にある店がここにしかないのだから仕方がない。


 ……わたくしが反応しないと分かるや否や、ハンベルの方に、彼の両親が声をかけに行っていたのが視界の端に映ったが、知らない。知らないったら、知らない。

 わたくしは奥様を案内するのに忙しいのだ。護衛の仕事を遂行するためには、ハンベルは自分でなんとかするべきである。


 わたくしは、背中に、ハンベルからの視線を感じながらも、奥様の相手をすることに徹底した。

 ……まあ、ちょっとだけ、申し訳ない、という気持ちが、ないわけでは、ないけれど。

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