転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 10
もしかしたら声を掛けられてしまうかもしれない……とそわそわしていたのは、最初の十数分のこと。
始まってわりとすぐにばちっと目が合ってしまったのだろう(互いに仮面をつけているので確かではない)男性がいたのだが、ふい、と目線をそらされてしまった。選ばれなかったことに安堵しつつも、露骨に目をそらされたのでなんとも言えない感情がわいたものの、やっぱり声を掛けられなくてよかった、と思ってしまう。
少し観察していると、仮面の系統が似通っていることに気が付く。ほとんどの人が黒やら紺といった、濃い色がベースになっている仮面を着用している。わたしに貰ったものや、ディルミックの自前の仮面のように、白ベースの仮面の人はほとんどおらず、逆に少し目立っている有り様だ。
もしかしたら、色で誘っても構わない人物を表しているのかも、と思ってからはちょっとだけ安心できた。夫人からそう説明を受けたわけじゃないけど、ここまで明らかな比率の差があると、その説が濃厚そうだ。
もしくは、わたしが結構ディルミックの傍にべったりと寄り添っているので、パートナー持ちをいきなり誘うのはハードルが高い、と判断したのかもしれない。
どっちにしろ、誘われることは、本当に心配しなくていいのかも。
そう思い至ってから、すっかり料理を食べるのに夢中になっていた。おいしい。
惜しいのは、マナーを気にしてあんまりがっつり食べられないことくらいだろうか。
メルセンペール夫妻が挨拶をした壇上を前とすると、最前部に楽器体が、前半部分から中央部あたりまでがダンスをする人たちで賑わい、今わたしたちがいる後部では、立食パーティーという風になっていた。
立食パーティーの方は結構人の出入りが激しい。大体の人が一品か二品食べたかと思うと、ダンスをしに行っている。
わたしたちのように、ずっとここにいるのは珍しい。ちらほらと、知り合いがいないのか壁の花になっている女性や、会話に夢中になっている男性数組くらいは見られるけど。
まあ、舞踏会だし、そっちのほうが正しいんだけれど。
折角の機会だし、ディルミックもわたし以外の人のところへ行った方がいいんじゃないか、と少しだけ思う半面、心細いので隣にいてほしい、という気持ちも強い。
貴族としては、またとない、人脈を広げる機会だろう。いやまあ、素性を隠して参加する仮面舞踏会で確固たる人脈が作れるか、と言われれば、微妙ではあるけれど……。
それでも、相手が男性だろうと、女性だろうと、何かしら得るものはあるはず。
でも、一人で放りだされてもどうしたらいいか分からないし、なにより、ディルミックが他の女性を誘って踊るところを見たくない。
いやだって、結構体が密着するのだ、ダンスって。見てる限り、なんとなくで想像していたものよりも、ずっと。
貴族ならば気にしない、そういうもの、と割り切る人の方が多いのかは知らないけど、わたしは普通に嫌だ。
ただ、ディルミック自身、周りを気にしているようだから、「行っても大丈夫ですよ」と声をかけた方がいいのかも……という気にもなる。まあ、彼自身、社交界に慣れていないらしいから、堂々としているように見えて、わたしにみたいに声をかけられないように警戒している、という可能性もあり得る……かな?
どっちがいいのかなーと考えていると、一人の男性が、声をかけてきた。
トリニカ嬢開幕のダンスを踊っていた、あの男性である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます