転生守銭奴女と卑屈貴族男の新婚旅行事情 09
ホールはとてもきらきらしていたが、絢爛豪華、ド級に派手か、と言われるとそうでもない。
まあ比較対象がグラベイン王国の王城で行われた、あの婚約発表パーティーのホールなので、それもそうか、としか言えないのだが。流石に、一国の王城と、片田舎の領主の館が同列なわけがない。
それでも十分にきらめいていて、未だ平民根性が抜けきらないわたしが気後れするには十分だった。隣で、平然としているディルミック、すごいなあ。流石貴族。いくら社交界に出ていない、と言っても、こういうのに耐性があるらしい。
わたしが知らないだけで、カノルーヴァの屋敷にも、このくらいのホールがあるのかもしれない。わたし、未だに契約のときに訪れた応接間や玄関ホール以外、本館に行ったことないし。でも、別館より何倍も圧倒的にでかいあの館じゃあ、このくらいのホールの一つ二つ、あっても全然おかしくない。
わたしたちがホールに足を踏み入れてしばらくすると、主催であるメルセンペール夫妻が登場する。
「今宵はパーティーにお集まりいただきありがとうございます」
主催の挨拶をする夫妻の顔には仮面が付いていない。まあ、流石に挨拶するときには仮面を外すか。誰だか分からないもんね。
楽しんでいただければ幸い、とか、そんな感じの短い挨拶を済ませると、トリニカ嬢と一人の男性が、ホールの真ん中へと移動した。トリニカ嬢から聞いた、開幕を宣言する、ダンスが始まるようだ。
主催側の人間であることを分からせるためか、トリニカ嬢は仮面をしていない。でも、男の人の方は仮面を付けていた。メルセンペールの家の人じゃないんだろうか。トリニカ嬢の婚約者とか?
いざ、曲にあわせて開幕のダンスが始まると、食い入るように見てしまった。
綺麗で見惚れてしまった――ということではなく、単純に、いつかわたしもああいうダンスを覚えたい、と思ったら、じっと見入ってしまったのだ。
ゆっくりした曲調なら、動くこと自体はそう難しくなさそうだけれど、問題はステップを覚えられるか、である。運動神経自体は悪い方ではないと思うのだが、ダンスの振付を覚えるのはまた別の脳を使いそうだ。わたしが前世から『踊り』というものをしたことがないからか、やけに難しく見える。
なんとか、一曲だけでも覚えておきたいなあ、と思いながら見ていると、開幕のダンスはあっという間に終わってしまった。
一言、二言、夫妻とトリニカ嬢が挨拶を終えると、彼女らもまた、仮面を付けた。
――メルセンペール家、仮面舞踏会の開催である。
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