バリウム団地の酸素不足

水原麻以

異酒屋の話をしようじゃないか

いい酒が飲みたい。美味い肴が食べたい。万人の願いは検索や食レポ番組でかなう。しかしちょっと自慢できる名店となればなかなか難しい。あらかたの店は発掘しつくされSNSの普及もあってすぐに拡散する。だが、そこで挫けないのが食通だ。地獄耳と抜群の嗅覚と人脈を張り巡らし情報社会の網の目にかからぬ秘密の居場所を持っている。

それは逆酒屋さかやのことじゃないかと思った貴方はなかなかのツウだ。

確かに異世界で成功してこちら側に支店を構える日本人も少なくはない。ただどうしてもそれらの店は外連味を引き摺ってわざとらしさが付きまとう。端的にいえば酒も料理も店の雰囲気も嘘くさいのだ。そんな異世界異世界した場所で吞む酒はどうも居心地が悪くってよろしくない。

そこに異酒屋という新しいスタイルが入り込む余地があった。あくまでこちら側に軸足を置き、異世界で修行を積んだマスターが在留異世界人を雇用して異国情緒を提供する。店主は日本人であるだけに安心して酒が飲める。


そんな店が大泉学園駅から歩いて五分もしない場所にあった。

酒のデリカットだ。異世界から直輸入した食材を卸す専門スーパーであるが飲食店を隣に構えている。

そんな人と人外と魔が酒を酌み交わすお店の話をしよう。


とっておきのボトルがあるんだ。君の好みに合うかどうかともかく話のタネに一杯やってみないか。

エールだよ。あの中世ヨーロッパ風ファンタジーでおなじみの飲み物。冒険者ギルドの酒場の定番だ。

さぁさぁ、ロック鳥の手羽先を肴に…おっと岩塩で食べるんだ。ソースの類は要らない。


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