第16話

どうして来たの!?



と、聞きそうになって言葉を飲み込む。



そんなことを言えば会いたくなかったのだと、勘違いされてしまいそうだ。



あたしはすぐに鍵とドアを開けた。



「へへっ来ちゃった」



浩太は昔と変わらない笑顔を浮かべて玄関に入ってくる。



「き、来ちゃったって……」



「迷惑だった?」



その質問には全力で首を左右に振って否定する。



そんなことない。



浩太が来てくれて嬉しいに決まっている。



ただ、心の準備ができていなかっただけだ。


あたしは浩太をリビングへ通すと、コーヒーを淹れた。



お祖父ちゃんのように上手にはいかないけれど、ここ数日嗅いでいなかった匂いがキッチンに広がって安堵する。



「はい、おまたせ」



「ありがとう。敦子ってブラックで飲めるんだっけ?」



淹れたてのコーヒーをそのまま口に運ぶあたしへ向けて浩太が聞く。



「うん。お祖父ちゃんの影響でね」



浩太はミルクや砂糖を沢山入れている。



「子供はコーヒー飲んじゃいけないんだぞ」



その言葉にあたしはつい噴き出していた。



いつの時代だったか、そう言って子供にはコーヒーの飲ませない人がいたらしい。



今では子供用のコーヒーが発売されているくらいだ。



「よかった。元気出たみたいだな」



あたしの笑顔を見て浩太がホッとしたように言う。



「うん……。まさか浩太が来てくれるとは思わなかったけどね」



「だろうな。今日はたまたまクラブが早く終わって、それで来てみたんだ」



「そうだったんだ」



そう言ったきり、なんとなく2人で無言になってしまった。



テレビの音だけが、静かな室内に聞こえてきている。



「一人でこの家にいるの、不安だっただろう?」



不意に浩太が真剣な表情で言った。



「うん……まぁね……」



お祖父ちゃんが入院した日、ひとりでこの家にいると胸にポッカリと大きな穴が空いた気分になった。



いつも一緒にいた人が突然いなくなる恐怖を、肌身に感じた瞬間だった。



思い出しただけでも怖くて、強く身震いをする。

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