記憶をシュレッダーにかけて消し去ったら自分の狂気に気づきました。
西羽咲 花月
第1話
今朝はジメジメとして蒸し暑い朝だった。
祖父と自分の分のパンを焼き、ぼんやりとテレビを見ながらそれをほおばる。
祖父は2人分のコーヒーを淹れて、あたしの前に置いてくれた。
「最近物騒なニュースが多いよね」
あたしはテレビに視線を向けたまま言った。
ニュース番組では都心で放火魔が相次いでいると、深刻そうな表情で伝えている。
「なにかひとつ事件が起これば、それに便乗して事件が増えていくときがあるからなぁ」
今年70歳になったばかりの祖父はあたしの前の席に座り、コーヒーを飲んで大きく息を吐きだした。
「あれって真似してるんだよね」
あたしも祖父が淹れてくれたコーヒーをひとくち飲む。
コーヒーは昔から苦手だったけれど、祖父が淹れてくれたコーヒーだけはなぜか飲めるようになった。
祖父が言うには『愛情を込めているから』らしい。
そんな愛情たっぷりの朝食を食べ終える頃、テレビニュースは別の情報を流し始めていた。
「○○町では小学生低学年を狙った猟奇的事件が多発しています」
その言葉にあたしは自然と顔をしかめていた。
事件の舞台になっている○○町とは、あたしが暮らしている町だからだ。
この事件が起こった頃から、この町ではみんな落着きがなくなったように感じられる。
「犯人はひとりでいる子供を誘拐し、手足のいずれかひとつを切断して持ち去っています。被害者の子供たちは一様に目を塞がれていて、犯人を見ておらず……」
「この町の事件とは思えないよね」
「そうだなぁ。早く犯人が捕まるといいなぁ」
祖父はのんびりとした口調でそう言い、ゆっくりと目を閉じてコーヒーを飲んだのだった。
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