第九話④ 奥の手は、最後の最後で見せてやろう


「なんだそりゃァッ!? お前にそんな力があるなんざ、聞いて……」

「す、すごーいッ! すごいよランバージャックッ! レーザー光線も弾丸も止めちゃうなんてッ!」

「く……ッ!?」


 驚いているリッチと感心しているジェイクさんですが、私は顔をしかめました。頭に負荷がかかって痛みが走ると共に、誰か女の人に荷物を渡した記憶が、どんどん薄れていきます。


「……ァァァァァッ!」


 痛みに耐えながら私は手を腕ごと右に振りました。それに合わせて、空中で静止していた銃弾とレーザー光線の全てが、右へと進路を変えて飛んでいきます。そのまま周囲を覆っていた岩肌の一角に着弾し、固い岩盤に穴を開けました。


「……ゲホッ、ゲホッ……ハア、ハア……」

「だ、だいじょーぶ、ランバージャック?」

「……なに、まだマシな方ですよ」

「く、クソ……ッ! なら、これならどうだァァァッ!!!」


 遠距離からの銃撃では倒せないと見たのか、リッチが声を上げた瞬間に控えていたアダム達がレーザー兵器や機関銃をしまい、熱線剣へと装備を変えました。そのまま六体のアダムが、こちらに向かって斬りかかってきます。


「ぎゃぁぁぁッ! いっぺんに来たーァッ!?」

「どんな力か知らねーが、全員で襲い掛かってやりゃあ……」

「……無駄です。"無機掌握フォース・ワン"」


 しかし、またしても私は右手を掲げて力を使い、襲い掛かってきたアダム六体の全ての動きを止めました。熱線剣を振りかぶった状態のまま固まっているそれらは、動こうとするのに動けないまま、ミシミシ、と音を立てています。

 同時に頭と今度は心臓の辺りにも痛みが走り、床に這いつくばって何かを描いていた記憶が、私の頭の中からフェードアウトしていきました。


「う、嘘、だろ……お前……? あ、アダムがこのザマじゃ、残ってる兵器でも……」

「すごいすごーいッ! みーんな止まっちゃったーァッ!!!」


 唖然とした様子のリッチに対して、遂には私の肩から降りてピョンピョンと飛び跳ねながら興奮しているジェイクさん。全く、私が力を止めたら熱線剣が振り下ろされるというのに、呑気なものです。

 私の持つこの力、"無機掌握フォース・ワン"。命あるもの以外の全てに作用するサイコキネシスです。生命体でなければ、私はそれを自在に操ることができます。力の代償は、ターミナルへ来る前の私の記憶。何故か、ターミナルへ来て以降の記憶は消えません。そして、


「ガッハ……ッ!?」

「ら、ランバージャック、だいじょーぶッ!?」

「……んんん?」


 私は咳と同時に血を吐きました。これが、もう一つの代償。誇張表現ではなく、本当に命を削っているような、内側にある何か大切なものを削り取られているような、この感覚。


「ハァ、ハァ……ァァァッ!」


 無理やり息を整えた私は、柄にもなく声を上げました。その瞬間、動きを止めていたアダムの全てが、まるで巨大な手に握りつぶされたかのように、内側へと凹んでいきます。

 そのまま四肢のパーツをベキベキにへし折った後、私はアダムの全てを左側へと放り投げました。機体が凹み、四肢ももぎ取られたアダム達は成す術もなく岩肌に叩きつけられ、バラバラになりながら地面に落下していきました。岩肌もその衝撃で崩れ落ち、向こう側の底が見えない谷が、隙間から垣間見えています。


「ゲホッ、ゲホッ、ご、ゴホッ!?」

「ら、ランバージャックゥゥゥッ!!!」


 しかし、その代償は大きかったです。ジェイクさんが心配そうに私の肩に乗ってきてくれましたが、私は跪いて口に手をやると、抑えきれない咳と共に、血を吐き出しました。頭痛に加えて、内臓が軋みを上げているような錯覚を覚えて、もう片方の手で胸を押さえます。


「……は、ハハハハッ! な、なんだその力。お前も無事じゃ済まねーみてーだなーァッ!?」


 そんな私の様子を見たリッチが、何やらタブレットを操作しながら、勢いを取り戻したかのように話し始めました。


「ハァ、ハァ……う、うるさい、ですよ……あんな、ガラクタごときが……私に、通用するとでも……」

「俺が稼ぎに稼いでようやく集めたアダムを全部ぶっ壊してくれやがって……まあそれも、ミヨちゃんがいりゃあ、また取り戻せんだろ」

「や、やはり貴方……ミヨさんで、金儲けを……ッ!」

「ああ、あの子は俺のもんだ。そして……オメーはここで終わりなんだよォぉォッ!!!」


 声を上げたリッチが、タブレットを思いっきりタッチするのが見えました。先ほどから操作していたあれですが、今度は何を……。


「……何が来ようが、私の前で武器や兵器の類は……」

「通用しない、ってか? 本当かなぁ……んじゃ、試してみよーぜコイツでなァァァッ!!!」


 彼が叫んだ次の瞬間、彼のいる部屋の後ろの岩肌が真っ二つに割れました。何事かと目をやると、そこから白と黒の市松模様の塗装がなされ、五階建てのマンションにも匹敵しそうなサイズの何かがせり上がってきていました。あれは、まさか……。


「な……ッ!?」

「オメーさんの能力がどんなもんかは知らねーけどよ……それは果たして、コイツも受け止められんのかなーぁッ!?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!! み、ミサイルだァァァッ!!!」


 ジェイクさんが目を丸くしながら声を上げた時。そのミサイルは轟音と共に上昇を始めました。ロケットエンジンを唸らせ、こちらを吹き飛ばさんとする爆風と共に、空に打ち上ろうとしています。


「展開ッ!」

「ば、"障壁実装バリアアクト"ッ! うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 流石に生身で打ち上げ現場にいる訳にもいかず、私は六角形のコインを投げて携帯障壁LLを切り、ジェイクさんも障壁を展開します。間一髪。発射の爆風と熱波には間に合い、私達の周囲を真っ白な煙が包みました。


「ヒャーッハッハッハッハッ! これが俺の奥の手よォッ! さあランバージャックッ! 最後の締めと行こうぜェェェッ!!!」


 ミサイル発射の爆音の中、リッチのそんな声が聞こえた気がしました。

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