サブカルギルド 24
「あ、あのさ、広くん・・・。」
恥ずかしさと真剣さが混じった顔は、なにかを言い切るほどではなさそうだった。
「どうしたの?」
「えっと・・・やっぱり何でもない・・・。」
まだ話す気になれなかったらしい、それじゃ、また今度聞いてみるとするか。
気が向いて、小気味良いタイピング音を鳴らしていると、こそこそとスマホで連絡を取っているような光里が見える。
まぁ、隠してること詮索するのもよくないよな。
なんて思っていると、俺のスマホに通知が鳴る。
なぜかそれに反応する光里。
連絡はシロからで、『たまには光里ちゃんと散歩に行きなよ。』と、ペットじゃねぇぞ?
続いて『首輪するなら夜だよ。』と、余計なお世話だ。というか、したことあるのか・・・?こっわ。
つまりは、「ちゃんとデートしろ」ってことなんだろう。
・・・改めてそういうことを言うとなると、やはり少し恥ずかしいな。
空気を察してか、光里も若干緊張している。
「あのさ、光里、良かったら今度、どこかにデートでも行かないか?」
実際、今までは「おでかけ」とか「散歩」とか「視察」といった体で誤魔化してはいたが、デートしていたのである。
「も、もちろん!どこ行く⁉」
少しだけ無理にテンションを上げてくれているのはうれしい。あと普通に乗ってくれてうれしい。
「正直、あんまり考えて・・・。」
なかった。という前に、脳に閃光走る。
これ、いろんな場所のデートイベントの手本になるのでは⁉
そう思ったら、一日限定にする必要がないとも思い出した。
「・・・無かったけど、せっかくだからいろんなところに行こ。デパートとか海とか遊園地とか。」
二人とも,比較的インドア派であることは分かり切っていたので,さすがに驚いている。
「もちろんうれしい・・・けど,広くんは大丈夫なの?あんまりなれないことすると体調崩すよ?」
舐められたものだ,男として,多少の外出でバテるなど――。
夏,海,浜辺,照り付ける太陽,跳ね返す波。
めが,目が痛い・・・。
「大丈夫?広くん。」
「正直,ここまでまぶしいとは思わなかった。」
ほんとに,暑いし目が痛いし,あっでも海風気持ちえぇ・・・。
「私は親に毎年連れてこられてたから平気なんだけどねぇ。」
そんな余裕そうにしている光里でさえも,手をかざし,目を細めている。
それじゃぁ,俺には厳しい。
「それはそうとひろくん,来たのは良いけどどうしよっか。」
浜辺に来た。そこまでは良い。ではここからどうするのか。まったくプランが無い。
救いは,海の家だろう。食べ物を買って,周辺で食べるくらいは出来る。
というわけで早速。かき氷を買うことにした。
俺はブルーハワイで,光里がメロンだ。
「こういうものって,なかなか理不尽よね。」
急に語りだした。
「暑いときに食べたくなるけど,すぐに溶けちゃうし,すぐに溶けるから早く食べようとすると,頭痛くなっちゃうし・・・。」
言われてみればそうだが・・・。いいや,丸々その通りだな。
「それでも,おいしいんだよね。」
「そうなんだよねぇ。」
観念したように言ってから,もう一口と食べ始めた。
「ところで広くん,海に来たのに,その,自分で言うのも変だけど,私の水着とか,見たくなかったの?」
変と言われればそうだが,普通と言われれば普通だ。が,
「ちょっとまだあれが離れて無くてな・・・。」
『あれ』で伝わっただけいいだろう。伝わらなかったらどうすればよかったんだろうな・・・。
「そうだね,まだ1か月経ったか経ってないかだもんね!」
もうしばらくは,光里の肌に慣れることはないだろう。
正直,雑談しながら恋人と歩くだけというのも楽しい。
具体的にどうとかではなく,ただ満たされていくように感じるのだ。
遠くに見える島は何だろうとか,傍を走った電車が見たことないだとか,海の見える家に住んでみたいだとか,災害とか大変そうだとか・・・。
何でもない話をこれ以上ないほど楽しく話しているうちに,日は傾いていた。
「さすがに長居しすぎたかな?」
あまり長く居ることに慣れてないため、そんな感想が浮かぶ。
「そんなことないよ。むしろ、もっと待って夜の浜辺でも散歩する?」
意地悪そうにそういうけれど、それはそれでありかもしれない。
「ふむ、そうなると宿がいるな、無理に宿を探すのも変だし、駅前のビジネスホテルでいい?」
予想外の行動力に驚いてるのか、光里はちょっと抜けた返事を返した。
「宿は決まったし、夕飯食べよう。せっかくだし海鮮丼が良いかなぁ?」
なんてそれっぽい事を言うと
「あ、それならいいお店知ってるよ!めっちゃおいしいところ!」
光里に連れられてやってきたお店は、見た目こそ小さいものの、入ってみると奥行きがあり、人もかなりいる事から繁盛していることがうかがえる。
「いらっしゃい!って、光里ちゃんじゃない!こんな時間に珍しいね。っと、もしかして彼氏さんかい?うちの事紹介してくれるなんて嬉しいねぇ。」
高いテンションとよく通る声は、なんとなく一番上の人なんだろうと思った。
「お久しぶりです。私はいつものを・・・って、広くんはどうする?」
店の前にあったメニューを思い出して、決める。
「俺もそ・・・いや、いつも何食べてるの?」
「え?えっと、海鮮千種盛。」
名前だけ聞いたら大盛どころか特盛にさえ聞こえてしまうが。入り口には、多種類乗っているだけで、並盛と変わらないものがあった。もちろんいろいろ乗っているので豪勢で高いのだけれど。
せっかくなら別々のものを食べて、共有して楽しむことも考えたが、それなら特に考えなくても良いかな。
「それじゃぁ、」
と言おうとしたタイミングで、「あのセットサーモンとイクラだけ入れてないんだよ。」と女将さんらしき人が耳打ちしてくれたので
「鮭親子丼を。」
と、完全に乗せられたのか、はたまた遊ばれたのか。どちらにせよ光里と楽しめるならいいかと諦めた。
それぞれの品を待っている間に雑談をしていると、千種盛に鮭類が無いのは事実らしく、光里は「鮭も好きなんだけど、それ以外に好きなものがいっぱい入ってるから」と答えた。それと、たまに女将さんがサービスサーモン(イクラ付き)してくれるらしい。
いいお店に入れたなぁ。なんて思っていると、あっという間に二つの丼が届いた。
どちらの丼も開くときらきらとしていて、とても新鮮だ。
「「いただきます‼」」
気合を入れてそう唱えてから箸を割り、まずはそのままのサーモンをかじる。
うん、脂がのってて溶けるようで・・・。とてもおいしい。
鮭に舌鼓を打っていると、正面から羨ましそうに光里が見ている。
あーんすることも考えたけれど、割りばしでは少し危ない気がしたので、食べる?と聞くと、嬉しそうに何度もうなづいたので、三切ほど光里の丼に乗せる。ついでにイクラも少々。
嬉しそうにした後、申し訳なさそうにこちらを向いたので、代わりに。と二種類選ぶと、一切れづつもらえた。光里はもう一切れ貰ってほしそうにしていたけれど、どちらかと言えば自分で勝手にしたことなので、あまり気にしないでほしい。
口に出さないながらも楽しい夕食を終えて、お店を出ると街灯がきれいに道を照らしていた。
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