サブカルギルド 23

 体がゆすられて起きた。

 小さな手にゆすられて、なんだろうと五感が働き始めて、体の上を覆うように何かが乗った。

 暖かく柔らかいそれは、目を開けると光里であった。

 自分が入っている布団の上に重なるように力なく倒れている。

 一瞬、何かが起きて生命的危機なのかと焦ったけれど、耳に入るかすかな音楽と、視界の端に映ったテレビの画面は、昨日勧めたギャルゲーがあった。

 なるほど、貫徹しちゃったかぁ・・・。

「面白かった?」

 自分でもわかる程度にはガラガラと寝起きの声をしていた。

「おはよ。お兄ちゃん。」

「俺はお兄ちゃんじゃない。」

「雪平君?」

「ギャルゲーの主人公じゃなかったら浮気みたいだな。」

「気付いたら日が上ってるくらいには面白かった・・・。」

 そう言い残して、寝息を立て始めた。

 めっちゃこのまま添い寝してぇぇぇぇぇ・・・。

 実際にそんなことをしたら生活リズムがぶっ壊れる自信しかないので、あきらめて朝食をとる。

 

 さて、すぅすぅと、聞いていて眠くなるほどいい寝息だが、寝てしまっては自分が困る。

 パソコンにイヤホンを指して、音楽を流しながら作る予定のギャルゲーの設定を考える。

 主要キャラについては、主人公とその親友枠、ヒロインが3人と・・・サブでこっそり光里入れるか?光里については相談してからにしよう。

 ストーリーはどうしたものか、リアルに近づければ近づけるほど恋愛って多すぎて難しいから、コメディな世界の方がいいよなぁ・・・。財閥のお嬢様とかお嬢様の付き添いの人(同級生女子)とか、幼馴染とかばっかりしか・・・。幼馴染入れるか!

 あと二人どうしようかなぁ・・・。お金持ちキャラって割と扱いやすいからなぁ。ギャルとか?いや、ギャルの思考とかわかんないもんなぁ。高校生の予定だから・・・。あっ、謎な女の子入れればいいんじゃね?いつも屋上でお昼ご飯を一人で食べている不思議な女の子。詳しいキャラ付けは後にするか。

 さ、三人目はどうしようかなぁ・・・。はっ!転校生にしよう!

 そんでもって、転校生と不思議な女の子がぶつかる(関わる意味で)イベント作って、その後の特定の選択肢を選ぶことで百合エンド作るか⁉

 いいやむしろ、主人公が幼馴染と結ばれたら裏で百合エンドしてることにするか⁉

 ちょっとこれは我ながら天才かもしれない・・・。ギャルゲーで主人公関係ないエンドが生まれるとか革新的だな!(それは本当にギャルゲーなのか)



 一人で浮かれて、筆を進めていると、あっという間にお昼時になってしまった。

 そろそろ光里を起こさないと、光里の生活リズムが崩れかねない。

 そう思い、起こそうと後ろを向くと、後ろからパソコンの画面をのぞき込んでいる光里がいた。

「うわ⁉」

「人の顔見て「うわっ」てひどくない?」

 そりゃそうだ、不満げな顔もする。

「ごめん、まったく気付かなかったから・・・。」

 正直、自分でもそこまで集中していると思わなかったので、関心半分呆れ半分と言ったところだ。

「うん、すっごい楽しそうに書いてたから、途中でやめさせる気になれなくって。」

 待ってくれていたのか・・・。実際に楽しく書いてたからありがたいのだけれど。

「それでその・・・。」

 何か言いにくそうにしている。なんd・・・。夕飯も夜食もなきゃお腹すくよな。

「ちょっと待ってな、すぐにつくr・・・。うっそぉ。」

 言いながら冷蔵庫を開くと、中には調理用の食材として使えそうなものは少なく、なぜか酒のつまみのよさそうなものが多く入っている。

 物がない以上、材料を買いに行くか食べに行くかの二択になるが・・・。

「光里、今からお昼食べに行くとかはどうだ?」

 買って作ってだと少々時間がかかる。外食がいいだろう。

「・・・ハンバーガー。」

「一番有名なところでいい?」

「もちろん。」

「それじゃ、着替えて行こう。」

 光里が風呂場で着替えている間、俺は若干物思いに耽っていた。

 以前に所作の端々から見えるお嬢様感は今は減ったものの、何かの跡継ぎ・・・。そこじゃない。今気になっている、と言うかめっちゃ恥ずかしいけど、気付いたのは「必要以上の丁寧さが薄れて、若干言動が寄っている」ような気がするのだ。別に、シロのせいかもしれないけど、自分のせいだったらと思うと、うれしいような、恥ずかしいような、でもやっぱり。

「お待たせ!」

「おぅ⁉」

「どうしたの?」

「ちょっと考え事をしていただけだよ。」

「・・・あの三人で百合でも考えてたの?」

「考えてないが⁉」

 どう考察したらそうなったんだ⁉あ、百合エンド書いてたの見られてたっけ。

 雑談も楽しいが、おなかが減った。さっさと行こう。


「おぉ、ここがあのルナドナルド!」

 店の前には印象的な、月色をしたLの文字のモニュメントがある。

「なんだかんだ久々に来たなぁ、大学入ってから一回も来てなかったし。というか、光里は初めてなのか?ルド。」

「うん‼正直ずっと楽しみだったんだよ!」

 みんなよく知るチェーン店のルナドナルド(通称ルド)だが、季節に合った新しい(もしくは一年前の)商品が必ず並べられ、季節を感じることもできるが、店舗によっては季節外れでも人気な商品を販売していたりする素晴らしいファストフード店だ。

「何か食べたいものとかあったのか?」

「うん。LLバーガーっての食べたくて!」

「お、じゃぁ俺もそうしようかな。」

 LLとは大きさではなく、この店の看板バーガーであるルナライトバーガーであり、その頭文字を取ってLLと言われる。

 ちなみに中身は分厚くなるように調理された目玉焼きと、少し薄い焼きベーコンである。

 寮を出たのがお昼過ぎ当たりだったので、今となっては人も多くない。

 人気なチェーン店なのでお昼時はとてつもない人数がいるものの、今となってはまばらである。

 そのため注文も品もそこまで待つことはなく、ファストフードの名に恥じない速度だった。

 「「いただきます。」」

 二人そろって口にしてから、LLバーガーにかぶりついた。

 頬を膨らませて満足げな表情をする光里の何と可愛いことか・・・。

 ポテトも美味しそうに食べ、次はおやつを食べに来ようと言い出す始末である。

 さすが大手、一発で彼女の胃を掴んだか・・・。


 悔しかったので夕飯は一緒にポトフを作りました。




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