サブカルギルド 8 可愛い

「出かける支度をしてくるね!時間かかったらごめんね!」

 そう言って出て行ってしまったが、自分の支度は割とすぐ終わった。後にメッセージで『広くんのところに行くから、それまで待ってて!』と連絡が来たので、ゆっくり小説でも呼んで待って居よう。と思ったら意外とすぐに来た。

「お待たせ広くん!」

 息が上がってる。あとめっちゃおしゃれしてる。

「いや、全然待ってないよ。というか、もっと待たせていいよ。急いで疲れたでしょ?」

「え、あっ、そんんあことないよ?」

「ちょっと待ってて。」

 とりあえず玄関の段差に座布団を置いて座らせる。一度台所に戻って、グラスに水出しの紅茶を注いでから持っていく。

「急いでくれたのはうれしいけど、自分のせいで疲れられるのは得意じゃないから。」

 グラスを勧めるとそのまま飲んでくれた。いや、手は放してほしかったな。

「・・・。うん、ありがとう。ちょっと落ち着いたよ。帰るころには夜になるって思ったら、駅前デートとかできるんじゃないかなって浮かれちゃってて・・・。」

「それは本人の前で堂々という事じゃないかと・・・。」

 また二人で赤面している。と、腹が鳴ってしまった。

「行こうか。」

「うん。」


 大学から出ているシャトルバスで最寄り駅まで行ってから、駅前の回転寿司にて、夕食を取る。互いにつまみ食いしたり、好きなもの食べ続けたりして。相変わらず楽しい夕飯を過ごした。そのあとは、光里の計画してくれた通りに以前に行った駅に行く。前回は北口だったのだが、今日は南口だ。

「すごぉい!」

 南口の前は大きな広場になっていて、○○記念公園と名前がついてそうなくらいに大きい。だが、何よりもすごいのは、その公園全体を輝かせているイルミネーションだ。これだけ広い公園全てをイルミネーションするとは、その時間と人数は全く想像がつかない。

「ほらほら、見てないで歩いてみようよ!」

 テンションが上がってるのかイベント仕様なのか、照れずに手を握って引いてくれる。心の中ではドキドキしまくっているものの、わざわざ止めたくもないので、照れは隠してついていく。

「すっごいきれいだね!いつもこんな感じなのかな?」

「いつもこれじゃ、電気代がとんでもないことになっちゃうな。」

「それもそうだね。じゃぁイベントの時だけの特別仕様だね。」

「そうだね。」

 なんて言いつつ(光里もだけどね。)と言いたくなってしまう。さすがに自重しよう。

「なんかあるよ‼」

 ぐるぐる考えながらも光里に引っ張られるままついていくと、イルミネーションと一緒に飾られた撮影スポットみたいな場所に出る。噴水前だ。

「撮影台が置いてるよ!せっかくだし一緒に撮ろうよ!」

「いや、俺は別に・・・。光里のこと撮らせてよ。」

「いいや、二人で撮るんだよ!」

 有無を言わさずに撮影場所の前に俺を引っ張り出し、手際よくスマホにタイム設定をして、撮影台にスマホを挟む。

「せっかくなら笑顔で撮ろ!」

 もう自分がどんな表情してるのかもわかんねぇや。

「そうだね。」

 とだけ言って、頑張って笑顔を作ってみる。

「めっちゃ引きつってるじゃん。」

 と笑われてしまって、なんだかおもしろくて、楽しくて、笑えてしまった。

 パシャリという効果音が響いてから、光里がスマホを取りに行って写真を確認している。

「うん、ちゃんと撮れてる。」

 満足そうだからそれでいいか。

「どうする?そろそろ帰るか?」

 早い時間に来たことで、来た頃には人は少なかったが、今となってはカップルやらなんやらが増えてきている。これからもっと混むだろう。

「あ、えっと。・・・。うん、そろそろ帰ろっか。」

 少し返事がもどかしかったので、表情を見てみると、少し寂しそうな、悲しいような顔をしていた。

「別に、門限なんてないんだから、しばらくこの辺で座ってだべっててもいいんだぞ?」

「でもほら、広くん、人込み苦手でしょ?混む前に帰りたいんじゃない?」

「それはまぁ間違ってないけど、来たいって言ったのは光里だからさ、いつまででも付き合うよ。」

「じゃ、じゃぁ、もうちょっとだけ歩こ?こういう場所、あんまり来たことなかったからさ。」

「仰せのままに。」

「急になにさ。」

 戻ったテンションでだべりながら歩く。通行人が増えてきて少し喋りづらいし歩きづらいけど、実際には光里がより近い距離に来てさらにドキドキしている。もちろん隠しているけれども。

「広くん。そろそろ帰ろっか。」

 少し唐突だったが、かなり歩いていたので当然と言えるだろう。

「そうだね。ゆっくり帰ろっか。」

 反対する理由もないので賛同し、電車で最寄り駅まで帰る最中。

「今日もさ、広くんとこ泊ってっていい?」

 一瞬、男女的な意味かとも思ったが、よく考えれば光里の執筆道具はまだ部屋に置きっぱなしだった。つまりそういう事だろう。

「そりゃもちろん。いい案でも浮かんだのか?」

「え、あ、うん。そうそう。ちょっと考えてたことがまとまったんだよね。」

 さて、帰ってからもつかれそうだ。


 部屋で着替えてから来ることになった。これだけ出入りするならと思い、合いかぎを渡すことにした、最初こそ全力で断っていたものの、効率的だから。というと渋々受け取ってくれた。

 何もしなくても部屋に入ってくるだろう。と思っていたら、チャイムが鳴った。はて?出てみると光里の姿が。

「どうしたの?もしかして鍵開かなかった?」

「あっ、いや、そうじゃなくて、その、勝手に開けていいのかなって・・・。」

 とりあえず玄関のかぎを開けて部屋に入れる。

「合いかぎを渡すってことは、自由に出入りしていいってことなんだから、そんなに気を使わなくてもいいよ。」

「えっと、でも、シロさんが、『あぁ見えて結構きわどいもの好きだから、部屋に上がるときは注意するんだよ。』って・・・。」

「なるほど、それはほとんど嘘だから気にしなくていいよ。あとでやり返しとこ。」

 わざわざいらん忠告をするあたりは成長したな。覚悟しておけ。

「それと、その、お願いがあって。」

「うん?」

「ツーショット写真。取ってほしくて。」

 両手にスマホをもって弱気に上目遣いでねだってくる姿に心打たれない男は居るはずもない。

「なんでも許す。」

「やったぁ‼」

 どうしてそんな花が開花するような笑顔ができるんだ・・・‼

「とはいえツーショット写真ってどんなふうに・・・。」

 言い切る前に「えいっ。」という勢い任せっぽいセリフとともに、光里が抱き着いてきた。・・・抱き着いてきたの?え?どういう状況これ?

 男一人混乱している間にパシャっという音がはじけ、記録に残したことを証明する。光里が写真を確認していて、混乱しながらも見えてしまったので見てみると。そこには呆けた顔をしている自分と、目を瞑って耳まで真っ赤にしている光里がいる。何だこの恥ずかしい写真。

「えっと・・・これ、どうするの?」

「いやっ、その、広くんとの思い出・・・。へへへ・・・。」

 無理!可愛い!リアル女子に限界オタクしてるとかただの変態なんだけど!なんだよこのチート級の可愛さ!人が死ぬぞ!(尊死しかけ)

「広くん⁉なんで尊死しかけてるの⁉」

「可愛いの塊が体にくっついてたらそうなるさ・・・。」

 俺の意識はそこで途切れた。まぁ、理性が飛ばなかっただけましだったと思う。








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