サブカルギルド
埴輪モナカ
サブカルギルド ZERO 約束(ゆめ)
昔、幼稚園生だったか小学生だったかわからないが、約束をした。【三人で一緒にゲームを作ろう。】そんな夢を約束した。
長く忘れていたその約束(ゆめ)を思い出したのは、高校で将来の夢についての講義を受けているときだった。
教師が講義の続きをつらつらと喋っているが、頭には入ってこない。頭の中には噴水の前で約束した三人。そしてその内容が何度も繰り返されていた。
「おい、大丈夫だったか?なんかさっき変だったぞお前?」
授業が終わって、友人が心配してくれた。
「あぁ、大丈夫だ。たくさんのことを思い出したから脳に負担でもかかったんだろうな。」
「なにラノベみたいなこと言ってんだ。」
そういわれたものの、事実であるから何とも言えない。
「まぁいいや、保健室行くならついてってやるけど?どうする?」
「いや、大丈夫。もう終わりだから今日はこのまま帰るわ。」
「おう、部の奴にも言っておくよ。」
そう言って、俺は足早に家に帰った。
「ねぇ母さん、昔に仲良かった奴って覚えてる?三人くらいの。」
帰宅早々、母親に尋ねることにした。小さい頃の話は俺よりも母親の方がよく覚えているものだ。
「えぇ、あの二人でしょう?もちろん覚えているわよ?」
「それじゃ教えて。できる限り。」
「まさか、甘城さんと草薙さんのこと忘れてたの?」
天城・・・草薙・・・。
「シロと、クート・・・。」
「ほんとに忘れてたみたいね。あの二人、高校は別々みたいだけど、あなたもそろそろ志望校を決めたら?」
「いわれるまでもなく決まってたよ。」
「へぇ、どこ行きたいの?」
「もちろん文学科。具体的に学校を決めてるわけじゃないけど、文学科の学校がいい。」
「そう、まぁいつかそう言うと思ってたので。はいこれ、ここが母さんのおすすめ。一回くらい行ってみれば?」
「もちろんそうする!」
でも、この大学、私立だ、それに家からとても遠いからどこかに住むしかなくなる・・・?
「どうしてここを進めるの?ここじゃ、あっちで暮らさないといけないし、何より学費が・・・。」
「そんなこと気にしなくていい!あんたの、いや、あんたたちの夢くらい叶えなさい。叶わなくたって、いいことはあるわ。」
うれしくて涙が出そうだ。
「息子が現実主義すぎて涙が出そうだわ。」
涙などなかった。撤回する。
「それにね、私だって何の算段もなくそんな高いところに行かせないわ。」
という事らしいがよくわからない。とにかく、その大学のオープンキャンパスに行くしかない。
そこには、大きな木を模した建物がいくつも建っていた。大学はこれらの中央に位置するらしいが、木が大きすぎて今のところ見えない。
少し進むと、豆腐のように白くて四角い大きな四階建ての建物が見えてきた。これなら「豆腐の角にぶつけて死にそうだな」豆腐じゃないけど。なんて思ったりもした。
オープンキャンパスの集合場所はこの豆腐(仮)の入り口だと知らされているのでそこへ行くと、そこそこ人がいる。まぁ「あえて言うならゲー大でしょうか?」とかニュースで言ってたくらいだ、多少なりとも人気があるに決まっている。
時間になってから数秒が経過すると。前に人が来た。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます!この大学は開校が来年の新大学。不安や悩みはあるでしょうが安心していただきたい。当大学はこのサブカルギルドが主な投資者であり、サブカルギルド直轄の大学であるがゆえに、先輩ごとに関してはほかの大学の比ではありません!」
なるほど、先人が各木にいるから、相談事とかはあまり心配する必要がないと。
「加えて!我々が権利を有する書物などのものに関しても、限界はあるもののほぼすべてが生徒に開示される。あなた方は無限に等しい知識や知恵のもとであなたの作りたいものを作っていただきたい!」
これが学長のあいさつのようだ。回りも含めて自然と拍手が出る。これがカリスマなのだろうか。
そのあとは建物(豆腐)の案内とその他外接施設についての説明。各班に分かれてそれぞれの目指す木を案内してもらうことになった。
僕が選んだのは小説の木(専攻?)で、元が多すぎたからかあまり多く感じなかったものの、数百人は居るようだった。
別れてから一番最後に動く班だったらしく、周りは知り合いとガヤガヤと少し騒がしい。
「君たち、待たせてすまなかった。今から案内させてもらうが何か先に質問したいことはないかな?」
と言われても、まだ共同施設を紹介されただけでそれ以外のことが無い。質問する内容もないのだ。
「質問はないようだな。気になったらすぐに聞いてくれればいい。小説家は意外と物忘れの激しい人が多かったりするからな。」
と、笑って説明している。それに関してはとても助かるので彼の真後ろをついていこうと思う。さながら隙を待つ暗殺者のように。
とはいえ、この班を持っているのが学長であり、さらにはとてつもなく楽しそうに説明してくれるおかげで、疑問点はなく、不安を感じることのない説明だった。
解散時間が近づき、学長による説明も終わり、質疑応答の時間になった。
「さて、説明は以上だ。何か質問はあるかい?」
さて、そんなときにふと疑問に思った。そもそも『木』とは何だ?と。
「はい。」
「ではどうぞ。」
「実を言うと、この大学について。いえ、サブカルギルドについてあまり調べることのできずに来てしまったのですが。どうして『木』として分けているのでしょうか。」
そう質問すると、さすがに驚かれてしまった。大学に行きたいのに大学のことを調べていないなんてありえないことだからだろうか。
「そういえばそうだな、ここがどういう場所なのかを説明し忘れていた。
質問に質問で返すことを謝罪しよう。君はここに来る前、いや、ここに来ることを決める前は何をしていたのかな?」
急な質問で少しだけ驚いた。
「文芸部で物語(ストーリー)を書いていました。あと、時々、演劇部の台本と物語を。」
「なるほど、それは素晴らしい。ちなみにそれは、オリジナルかい?それとも二次創作?」
「オリジナルです。実を言うと自分で二次創作を書くのがあまり好きではなくて、演劇部の方からのお願いも断っていました。」
「うん、大満足だ、最高の回答だ。」
言葉の通り満足した顔で言う。
「そんな君の言葉に答えよう。
日本が世界に誇るサブカルチャー、そのほぼすべては、このサブカルチャーギルドによって生み出されていると言って過言ではない。
ファンタジー世界では冒険者ギルドというものがあるだろう?各人のランクによって受けることができるクエスト難易度が決まっているように。各人の信頼度ランクによって受けられるクエストは決まっている、という仕組みだ。
各ギルドで会社自体は違うものの、定期的に各社長などが話し合いをしている。
ランクはどのギルドでも統一されていて、S,A,B,C,D,E,F,の七つ。受けられるクエストは自分の上下差一つまで。ランクアップはその作品の売り上げ、その人の作品数、依頼者からの満足度で条件を出している。
また、依頼者は依頼料金や依頼内容によって、掲示時間や掲示される地域が変わったりもする。
というのが大まかな説明だ。
ちなみに、『木』は先人の知恵が大地であり、その知恵を根から吸い、そのエネルギーで大きくなる。枯れてもなお後輩のために大地となる。
そういう意味でつけられたものだ。 ほかになにかあるかな?」
楽しそうに早口でしゃべっていたが、なぜかすごくわかりやすく聞き取れた。
「いえ、本当にありがとうございます。」
「あぁ、こちらもその手の質問はされないものだからね、つい楽しくなってしまったよ。」
そういって笑いあえたのが、一番うれしかった。
帰宅後、やることは決まっていた。
「母さん!俺、あの大学に行く!いや、行かせてください!」
「当り前よ、むしろ行きなさい。」
うちの家は母子家庭だからお金があまりない。と母親にいつも言われているのだが。少しだけ不思議なのだ。そこそこいい立地に一軒家があり、車とバイクがある(母親の趣味)。今回も私立の大学だというのにとてつもなく快く承諾してくれた。
いやまぁ、俺にできるのはそのことを感謝することだけなんだけどね。
とか思いながら、二週間後に完成させる約束の演劇部の物語を作っていた。
演劇部との約束も終わり、肩の荷が下りたからオリジナルでも書くかな?と考えていると、部の顧問の先生がやってきた。
「なぁ広旅、おまえ、これに出す気はないか?」
そういって持ってきたのは【木の根】というタイトルの大会だった。よく見るとサブカルギルド主催の大会だそうで、いくつかの部門があり、何より賞金というか得られるものに価値があった。
【サブカルギルド主催 木の根大会
詳細な条件などはHPから。
大会順位上位五人には新設大学における四年間の学費入学費免除と、望むならば寮生活も可。
加えて、小説なら単行本など様々な特典アリ。】
なんだこのぶっ壊れな賞品。
「広旅、おまえこの大学行きたいならやってみてもいいんじゃないか?」
「無論です。やらない以外はないです。ただ、条件を見てからじゃないとどんな小説を書くのか全く思いつけません。」
「それもそうだ、頑張れよ。」
先生はチラシを渡してそのままどこかへ行った。
さてと、ホームページ見なきゃな。
俺の所属している文芸部はほぼほぼ俺だけだ、時々部員が来る程度で、その部員も生徒会員であるためなかなか来れない。なので今日も一人である。幽霊部員も数を知れないが、放送部と演劇部に重宝されるために部員こそ少ないものの存続している。1,2年にも活動的な部員は少数ながらいるので安心できる。
ホームページで条件を一通り見た後、徒歩で帰宅しながら小説のストーリーを考えていた。
「ただいまー。」
「お帰り、夕飯食べたいのとかある?」
「ポトフ。」
「わかった、頑張ってね。」
母さんはいつから察していたのだろうか、小説を書くためにせかせかとしていると、返事はそっけなくなり、夕飯を聞くと『ポトフ』と無意識で返してるらしい。
なので俺は今すごくうずうずしてる。思いついたストーリーを早く文字にして読みたいと焦っている。
そうして夢中になって書いているとスマホのアラームが鳴った。夜の12時を知らせるアラームだ。つけてる理由は簡単、夢中になって書いていると翌日の昼になっていたり、明け方に寝落ちしていたりするのだ。つまりは、夕食を食べるためである。
さすがにこの時間では母親も寝ているが、台所のIHコンロの上には圧力鍋があり、その中にはまだ温かいポトフが入っている。本当にありがたい。感謝しながら頂いて、風呂に入り、寝る。
朝起きると居間の机に朝食が置いてある。朝早くから仕事に行くのに朝食に手を抜かないのは、母親の趣味でもあり、俺のためでもある。
登校中も書きながら登校したいと考えるものの、できるわけもないので学校に着いたらパソコンを開いて書き続ける。時々朝礼に気付かずに書き続けるものだからそこそこの頻度で担任に叱られることはある。部と自身の実績から没収されるようなことはない。
休み時間も友人が話しかけてこない限りはひたすらに書き続けている。書く必要がないときは小説を読んでいる。
なんて、そんな日々がしばらく続き。
無事、期限以内に小説が完成し、郵送することができた。
高校でできることは、残りの時間で勉強することだけだった。部活動はもう行かせてくれないし、小説のネタもしばらく出てこないだろうから。その間は勉強でもしておかないと受験が大変なことになってしまう。
とはいえ、全国平均程度にはできるのであまり心配はいらないと言われるものの、何があるのかわからないのが受験というものだ。というわけで勉強をしている。
休日、部屋でゲームをしながら英語のラジオを流しているとポストに何かが入った音が聞こえた。少し気になって取りに行くとあて先は俺だった。
部屋に戻り封筒を開けると。
【土浦広旅様 サブカルギルド主催 木の根大会 五位入賞おめでとうございます。】
この後にもいろいろ書いてあったが、そんなものを読む気にもなれなかった。
寮に入れる。お金を使わずに済む。まだ上がいるんだ。入学できる。どうして五位に入賞できたんだ。これからも書き続けられる!!
いろいろ感情が混ざっていたものの、一番は書き続けることができることに対する興奮だった。
帰ってきた親に報告したらとても喜んでくれた。
さて、高校ではもう面白いことは何もなかった。
なのでここからは大学での話に移ろう。
スタートはこれからなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます