大学時代に好きだった人とばったりあった話

ゆぴな

短編 大学時代に好きだった人とばったりあった話

「それではお疲れ様でした。」


現在、時刻は19時。定時より1時間ほど残業をして会社を出る。


基本的に仕事は定時で終わるのだが、定時前に急遽、営業部からの依頼により取引先に渡す見積書を作成して欲しいと言われてしまったためそれを終えてからの退勤だ。


「明日は休みだからまだよかった」


今日は金曜日の19時なだけあって飲み屋がたくさんある駅前には人が多い。


「ん?あれは…」


ふと見覚えのある後ろ姿が目に付いた。


「やあ!久しぶりだね、玲菜」


「優也じゃない。何してるのこんなところで?」


「玲菜こそ。俺はいま仕事が終わったところだから」


「そうなのね。私も一緒。いまから帰るところよ。」


「飯は?まだなら一緒に食べない?」


「あらナンパ?まあいいわよ。」


玲菜を連れて近くの居酒屋に入る。

玲菜は大学の同級生で当時はよく学校終わりによく一緒に遊ぶほど仲が良かった。

昔から玲菜のことが好きだったけど関係を壊すのが怖くて言い出せなかった。


「玲菜はこの近くの職場なの?」


「そうね。ここから歩いて10分ってところかしら」


「俺の職場もこの近くなんだよね。こんなに近いとは思わなかったよ」


「私も。それにしてもいままであわなかったのが不思議ね」


玲菜に今日は残業があったことを説明する。


「それで今日たまたまあったのね」


そしてご飯を食べながら1時間ほど話した後


「じゃあ、そろそろ帰ろうか」


「・・・・・・」


あれ?聞こえてなかったかな?


「玲菜?」


「何かしら?」


「そろそろ帰ろうか」


「そうね。いい時間だわ」


「久々に話せて楽しかったよ。また飯でも行こうよ」


「私も楽しかったわ。でもそう言ってすぐ他の女の子にも声をかけるのかしら」


「違うって!玲菜だけだよ。それと連絡先おしえてよ」


「な、ならいいわ。これ、連絡先ね」


連絡先を交換して2人で駅まで歩いていく


「じゃあ俺こっちだから。またね」


「ええ。またね」


帰りの途中に『突然会ってびっくりしたよ。楽しかった』と

メッセージを送り、俺はそれから家まで歩く。


家に着いたとこに携帯が振動しメッセージを見ると玲菜から

『私も。久々に優也と話せて良かったわ』と返事が来ていた。


その日は帰ってからも玲菜としばらくメッセージでやりとりをしていた。

来週、2人で遊ぶことになってテンションが高いままその日は眠りについた。


玲菜ともあれから遊ぶことや一緒にいることが増えた。


その日は2人でバーに来ていた。


「いらっしゃいませ。2名様ですね。いつもありがとうございます」


ここはテレビ画面にスポーツ中継を流しているバーで2人とも野球をよく見るため、仕事終わりに来ることも多かった。


よく座る席が埋まっていたので今日は別の席へと案内された。

俺が奥側へ行こうとすると玲菜が


「優也、私、こっちの席でもいい?」


「うん、いいよ」


俺は左利きのため誰かとご飯を食べるときは席を気にすることが多かった。

これでは食べる時に腕が当たっちゃうな、とも思いながらも席を譲った。


お酒を飲みながら


「そういえば玲菜って何で野球見るようになったの?」


「いまさら?弟の影響ね、野球部だったから」


「なるほどね、じゃあ俺は玲菜の弟にも感謝だね」


「なにそれ。何で弟?」


「だって、野球見る女の子ってなかなかいないからさ」


「まあ、そうね」


「だから俺、玲菜と色んな話しできてめっちゃ嬉しいよ」


「バカ。何を言ってるのよ」


・・・・・・

「やった!なんとか勝った!」


「そうね!ギリギリだけど最後なんとか抑えてくれたわね!」


その日は乱打戦で試合が終わるのも21時になってしまった。


「遅くなっちゃったね。帰ろうか」


会計を済ませて店を出る。

曲がり角を曲がると玲菜がなぜか道路側を陣取った。


「玲菜、何で道路側歩いてるの?」


「いいの。こっちを歩きたい気分だから」


「どんな気分だよ。まあいいけど」


俺は不思議に思いながらも2人でいつも通り駅まで歩く。駅が見えてきた。


「…なあ、帰り送っていくよ」


「急にどうしたのよ。別にいいわよ。」


「今日遅くなっちゃったし」


「ふふ、そう?じゃあお言葉に甘えようかしら」


少しだけでも玲菜と一緒に居たいと思った。

玲菜を送った後は家に帰って風呂に入る。シャワーを浴びながら思う。


「俺はいまだに玲菜のことが好きなんだよなあ…」


あの日にたまたま残業をして、道端であってから

たくさん話しているうちに昔のように玲菜に惹かれていた。

ただ、玲菜の席や歩く位置へのこだわりは不思議に思った。


1つだけ思い当たるけど、もしそうだとしても俺は玲菜ことを好きであるという気持ちに変わりはない。


風呂からあがると携帯を取り出し


『玲菜、来週の休みは空いてる?』


玲菜にメッセージを送り、予定を聞く。


『再来週ならいいわよ』


『じゃあデートしよう!』


『…で、デート?』


『そう!デート!一緒に遊んで一緒に夕飯食べて…』


『それ、いつもと一緒じゃない。まあいいわよ。』


『じゃあ再来週ね!』


『わかったわ』


いつものように遊んでから夕食を2人で食べ、店から出る。

そして帰り道に


「ねえ、玲菜」


「どうしたの優也?」


いつもと違う俺の様子になんとなく玲菜は察していたのか


「あのさ、俺…」


「その先は待って。私から、優也に言わなきゃいけないことがあるの」


「…どうしたの?」


「優也の気持ちは嬉しいけど私には答えられないの」


「…」


「実は、私は…」


「左耳」


「えっ…?」


「左耳、聞こえなくなったんでしょ?」


「な、なんで…」


玲菜のなんで知っているのか、という問いだろうが言葉が出てこないのか茫然としている。


「なんとなくね。俺が左利きなのにわざわざ俺の左の席に座ったり、わざわざ道路側歩いてればね。と言っても気付いたのは最近だけどね」


「うそよ…」


「本当だよ。だから玲菜。あなたのことが好きです。俺と付き合ってくれませんか?」


「…少し考えさせて」


「わかった」


「今日はもう帰るわ」


「うん。待ってるから」


その日、玲菜は帰っていった。

あれから2週間、返事は返ってきてない。

気になったけど、俺は玲菜からの返事を待っている。


それからちょうど1週間後、俺は玲菜に呼び出された。


呼び出された場所にいくと既に玲菜はその場所で待っていた。

俺に気が付くと


「あれから考えたの。私、たくさん迷惑かけちゃうかもしれないわよ…?」


「迷惑かけないことなんてないよ」


「左耳が聞こえないから、それで怒らせちゃうかもしれないわよ…?」


「それで怒ったりすることなんてないよ。…ねえ玲菜?」


「…なに?」


「そんなに俺のこと信じられない?」


「違うの…私、優也に好きって言われてすごく嬉しかった、耳のことを知った上で好きだって言われたのはもっと嬉しかった。」


「うん」


「…信じていいのね?」


「うん。俺を信じてほしい。」


「…さっきの言葉、取り消しなんて受け付けないわよ?」


「取り消しなんてしないよ」


「……私も優也のこと大好きよ!」


「ありがとう。これから恋人としてよろしく!玲菜」


「うん!こちらこそよろしく!優也」


・・・・・・


「そういえば優也、いつから私のこと好きなの?」


「実は…大学のときからです…」


「やっぱりね。そうだと思ってたわ。何で言ってくれなかったの?そのときいってくれればよかったのに」


「あの時は関係を壊すのが怖くて…」


「ヘタレ」


「…申し訳ございません。」


「でも、これからはずっと一緒よ?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大学時代に好きだった人とばったりあった話 ゆぴな @yupina7529

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る