New Year
レックス・ジャック
1
年越しの瞬間に合わせて行うカウントダウンと同時に、
おれは核ミサイルの発射ボタンを押した。
極悪非道のとんでもない奴だ。
とてつもない地響きとともに核ミサイルが打ち上がった。
お正月はおめでたい新年を祝う大事な日。
全世界共通の大イベントだ。
そんなことぐらい、おれにだってわかる。
だが、ふと疑問に思う。
おれは大統領ではない。
田舎住まいのしがない修理屋だ。
何の権限があってこのボタンを押したのか?
無意識のうちに押してしまったのか?
どうしてこんなことになったのか?
自分でもさっぱりわからない……
「――始末しろ」
大統領は眉間に皺を寄せ低い声でドスをきかせた。
つぎの瞬間、おれはSPの二人の男に袋叩きにされた。
気がつくと、おれはパンツ一丁だった。
薄気味悪い超高層ビルの屋上。
しんしんと冷える真冬の夜空。
豪華な星座に彩られたミッドナイトブルーの夜空だ。
おれの顔は見るも無残に腫れあがり、
鼻と唇からどろりとした血を垂れ流している。
からだじゅう青あざだらけだった。
「さあ起きろ!」
SPの男のひとりがおれを無理矢理叩き起す。
腕力では到底敵いそうにない大男だった。
もうひとりのSPの小男がおれの顔に拳銃を突きつける。
おれは拳銃に視線を合わせたまま両手をゆっくり上げ、
ビルの淵に立たされた。
まさしく絶望の淵。
想像を絶する恐怖の高さに金玉が縮みあがった。
とつぜん超高層ビルの谷間からのすきま風が吹き込む。
一瞬、膝がぐらつきバランスを崩しそうになった。
一歩でも足を踏み外したら奈落の底へ落ちてゆく。
小男が叫んだ。
「あれを見ろ!」
ひと目、下を見ると巨大スクリーンにニュース速報が流れた。
緊迫した映像。
デスクに座ったニュースキャスターが興奮した口調でニュースを読み上げる。
「ただいま何者かの手によって、核ミサイルの発射ボタンが押されました。地下シェルターなど直ちに安全な場所へ避難して下さい」
おれはげらげら笑った。
「何が可笑しい?」と小男が訊いた。
「こいつ、頭がイカれてんのか?」と大男。
「そう慌てなさんな。あと数分後には、みんな揃ってお陀仏さ」
「確かにそうかも知れんが、その前にてめえはおれの拳銃で撃たれてお陀仏だな」
小男は拳銃の引き金に手をかける。
「――ところで、オタクらの大統領はどうしたんだ?」
「さあな」小男は小首を傾げた。
「あんたらを残して、てめえだけとっととズラかるとはなんて薄情なボスなんだい」
「そんなことはどうだっていい!」大男が怒鳴った。「我々は命がけで大統領を守り抜くのが仕事なんだ」
「へえー、カッコイイじゃん」
「最期に言い残す事はあるか?」
「くたばれっ! 国家の犬どもめぇ!!」おれは二人の男に向かって中指を立てた。
小男は引き金を絞った。
轟く銃声。
弾丸が頬をかすめると、
おれはビルから真っ逆さまに墜落した。
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