国際魔法少女旅団

神崎由紀都

プロローグ 第14章


 十四年前のワプルギスの夜。

 世界は特別な〈贈り物〉を授かった。



 ◆講演要旨「第十四章 新しき魔女」



 これまで、私たちは魔法使い・魔女たちの歴史の跡を、知り得る限りあたってきた。その歴史の道程には、どんな時代においても一里塚のごとく、魔法使い・魔女たちの、有名無名の墓標がそびえているのである。

 拙著(注・『魔女たちの文明史』)第十三章において、私は〈俗世と恭順した者たち〉について多くの紙幅を割いてきた。特に二度にわたる世界大戦への破滅的な協力と、社会主義の道を歩んだ国々による粛清によって、常なる魔法使い・魔女たちは、犠牲を強いられてきたのだし、それに抗して純潔の保存と、世俗の高貴なる拒絶を謳った者たちも、まさにその意志によって黄昏を迎えているのである。

 そんな一つの文化の特質の終わりに、十四年前のワプルギスの夜、魔法という贈り物を携えて登場したのが、新しき魔女――優しい言い方をすれば魔法少女たち、であった。

 さて、私の労作にほんの少しでも敬意を払ってくれた奇特な方々には(一同笑う)彼女たちの直近の家系には、ことごとく魔法使い・魔女がいないことはご存じの通りである。さらに同じ日に出生した男子には、この力が授けられなかったことは特筆に値する。彼女らは黄昏を迎えたかに見える魔法使い・魔女の文明史の中に、突如「魔法のごとく」現れたのである。これを〈贈り物〉と呼ばずして何であるというのか?

 推定では、この夜約九万七千の魔法少女たちが生まれた、とされる。内生まれた環境――文化、生活水準、また力の発現による不幸な事故によって、魔法擁護団体たる国連ワプルギス機関が本格的に追跡調査をした結果、実在が確認されたのは三万三千三百三十六人であった。その後今日こんにちに至るまで、新しき魔女の次なる萌芽を、私たちは知らない。

 ……彼女たちは決して忘れられたわけではない。ただ、その時が来るまで、彼女たちの力がしかるべき時、しかるべき方法で発揮される時が来るまで、つまり〈贈り物〉は秘されたのだ。

 そしてその時は、来た(一同拍手)。

(ヨーゼフ・マイリンク『魔女たちの文明史』日本租界運用記念講演よりA.D2042)



 ヨーゼフ・マイリンク(1917~)……ドイツ生まれの歴史家。一九三七年国際旅団の義勇兵として、スペイン内戦に参加。同年咽頭部に貫通銃創を受け、また共和国政府による粛清が始まったためスペインを離れる。その後ドイツ降伏後に帰国し、内戦のさなか遭遇した神秘的な体験を受けて、民間信仰や錬金術、神智学、魔導に関する研究を展開。主著に『魔女たちの文明史』など。

 ※ワプルギス機関人物データベースより抜粋。




 ◆オーレリア大公国内の軍事クーデターにかんする国連安全保障理事会決議

 和訳・抄訳(外務省告示)


 安全保障理事会は、総会が二〇四〇年六月二十一日の決議において、オーレリア大公国政府は、国連ワプルギス機関魔法少女保護委員会が視察および協議を行うことができ、「新しき魔女」つまり魔法少女の一部を実効的に保護し、管轄するに足る合法的に設立された政府であり、この政府は、魔法少女らの自由意志を有効に表現し、委員会が視察した大公国の有権者らによる魔法少女の入植にかんする公正な選挙に基づいており、このような政府が魔法少女の保護に関して、現在唯一であると認定したことを想起し、

 二〇四〇年十二月二十一日の決議および二〇四一年六月二十一日の決議において、加盟国がオーレリア大公国の、国家としての完全な独立と魔法少女らの保護に十全な結果をもたらす、という国際連合が達成しようとする結果に反する行為を自制しなければ、その結果がもたらされるかもしれないという懸念が総会で表明されたこと、および、国連ワプルギス機関魔法少女保護委員会がその報告書で記述した状況が、オーレリア大公国民の安全と幸福を脅かし、また同国に保護された魔法少女らの心身に重大な危機の可能性があるという懸念が表明されたことを念頭に置き、以下のように決議する。

 オーレリア大公国軍隊(以下自称オムリア救国軍事会議と記述する)による、オーレリア大公国民および同国に保護された魔法少女への人権侵害、加えて周辺国への敵対行為に重大な懸念を表明する。

 この行為は平和に対する違反であると判断する。


 I

 魔法少女に対する人権侵害および周辺国への敵対行為を直ちに停止することを要求する。

 自称オムリア救国軍事会議に対し、直ちに武装解除を要求する。

 II

 国連ワプルギス機関魔法少女保護委員会に対し、以下を要請する。

(a)状況に関する十分に検討された勧告を可能な限り、遅れずに伝えること。

(b)自称オムリア救国軍事会議の保有する軍備の武装解除を、オーレリア大公国平和監視旅団と合流し監視すること。

(c)この決議の実行状況について安全保障理事会に報告すること。

 III

 全ての加盟国に対し、この決議の実行において国際連合にあらゆる援助を与えること、および自称オムリア救国軍事会議に援助を与えないことを要求する。

 —国際連合安全保障理事会決議











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