嫉妬
遠藤良二
嫉妬
「お前、何で他の男と電話してるんだよ」
私は進(すすむ)のことが好き。でも、たまにあまりの嫉妬深さが耐え難くなる時がある。
「会社の人だよ」
進も私のことが大好きだからやきもちを焼くのだろう。
最近、彼氏が同棲しようと言ってくれる。嬉しい。確かに嬉しいけれど、ひとりの時間もほしい。
彼氏は今、無職。私のひも状態。本人はもう少ししたら働くと言っている。そう言うのだから、するのだろう。そこは、信じてあげないと可哀相。でも、私が会社の同僚(男性)と電話で話しただけで怒る。進をなだめながら要件だけ話して電話を切る。彼が無職だから、ずっと部屋にいるので男友達とは電話できない。するとしたら、外でする。
私の名前は美樹(みき)。25歳。進は23歳。年下の彼氏。彼の子どもっぽいところが可愛い。
同棲するとしても、進が就職してくれないと無理。いまは、たまに彼が実家でご飯を食べたりしていたから食費は浮いていた。でも、同棲するとなったら、そうはいかないと思う。
進の口癖は、
「何とかなる」
と、よく言う。確かにそうかもしれない。でも、経済的な面で言えば何とかしているのは私だ。男をたてないとならない、と古い考え方かもしれないけれど、私の母はそういう人だったので、母の影響は多分にある。
進はどんな仕事が向いているのかな。意外と、と言ったら彼に悪いかもしれないけれど、スーパーマーケットの品出しなんかはどうだろう。提案してみよう。
「進?」
「うん? 何だ?」
「同棲の話だけどね、あなたの仕事、スーパーマーケットの店員なんかはどう? 品出しとか」
「また、仕事の話か。飽きないなー、お前も」
「飽きる、飽きないの問題じゃないじゃない。同棲するには働いてくれないと無理よ?」
進は機嫌が悪くなったのか、
「俺が働かなくたって、いままでみたいに俺が実家で飯食えばいい話だろ」
このひとは、はたらく気がないのだろうか。と、思ってしまう。それを言うと以前のように激怒するだろう、そんなことないって!! と。でも、進の話を聞くとそう思えてくる。
「そういうわけにいかないじゃない。進のご両親にも同棲してるって言うんだから悪いじゃない」
「大丈夫だよ、そんなこと。俺は長男だ。いずれ、佐々木家を継ぐんだから親は俺を無下には扱わないよ」
ああ言えばこう言う、ほんと、イラつく。そもそも、前職は何で辞めたんだっけな。人間関係がうまくいかなかったからかな? もしかして、ひとと接するのが怖いのか? そうかもしれない。だから、頑なに働こうとしない。本人にも訊いてみよう。
「進はひとが怖いの?」
「いまごろ気付いたの?」
「やっぱりか、対人恐怖症ってやつかな」
「わからん、でも、慣れているおかげか美樹は怖くないぞ」
「なら、よかった。私のことも怖いって言われたら悲しいよ」
それを聞いた進は笑っていた。なんだかんだ言っても、私は進のことが好きなんだ。決してイケメンとは言えないけれど、顔で選んだわけじゃないから。彼の優しいところと、優しい声が好き。ヤキモチ焼きだけれど。でも、それは私のことが好きだからだと思う。だからOK。
「美樹! お前、この間男と歩いていただろ!」
「えっ? 男? 会社の人でしょ」
「違うだろ、私服だったぞ」
私は戸惑った。え? そんなことあったかな? 正直、記憶にない。だから、進の勘違いだと思う。そう伝えると、
「俺の目が節穴だと言いたいのか?」
「と、いうか見間違い?」
「は? 何言ってるんだよ。自分の彼女を見間違えるわけないだろ! しかも、俺じゃない男と歩いている美樹を」
「うーん、あの、私じゃないよ。だって、記憶にないもの」
「美樹になくても、俺にはあるんだよ」
進はいつからこんなに頑固になっただろう。私のことになると尚更そうなるような気がする。なぜ? 自分の意見は正しく、貫き通そうとする。私の気持ちを考えてくれていないような気がする。
「誰なんだよ? あの男は」
「だから知らないってば!」
私は強い口調で言った。
「そんな言い方ないだろ!」
彼も強い口調で言った。
「さっきから全然会話がかみ合ってない! 進は言いたい放題だし! 私、これでも我慢してるんだけど!」
「何で我慢する必要があるんだよ。言いたいこと言えばいいじゃないか。その方がお互いの気持ちがわかるだろ」
「それはそうかも知れないけど、相手が傷つく場合もあるじゃない」
少し沈黙があり、
「美樹、お前、前からそんなに考えて喋る女だったか?」
「そうよ! 黙ってるだけで、考えているんだから」
「そうだったのか、それなら謝るわ。すまない」
彼が急に態度を変えたから戸惑った。
「い、いや、いいけど」
進の嫉妬深さにはたまに困ることがあって、喧嘩になるときもあるけど、基本的には私のことを愛してくれて、言いたいことを言う、という彼氏。そういう彼氏だけど、私は好き。
付き合って2年目。もう少し付き合ったら結婚も視野に入れたい。でも、進はどう思っているのかな。訊くのが少し怖い気がする。もし、
「結婚する気がない」
と、言われたらどうしよう。気まずくなって、それ以上付き合えなくなりそう。それは嫌だ。
そもそも、私からプロポーズをするつもりはない。してもいいけど、そういうのって男からするべきだと私は勝手に思っている。
口論になってから約一週間後のこと。進からLINEがきた。内容は、
<話したいことがあるから、今夜会えないか?>
私はなんだろう? と思いながら、LINEを返した。
<いいけど、どうしたの?>
<会ってから話すよ>
<わかった、何時に会う?>
<仕事が終わってからだから、夜8時頃かな。いいか?>
<うん、いいよ>
私は昼休みを終え、仕事に取りかかった。
そして、午後6時に仕事を終え、帰宅した。
それから、シャワーを浴び、進は何を食べるのか訊いてないので、手の込んだものは作らなかった。少し、お茶碗にご飯をよそい生卵をかけて食べた。
彼が来るのを待つこの時間も悪くない。
時刻は午後7時30分を回っていた。私は少し眠かったので、横になっていた。その内、眠ってしまった。すると、電話がきた。
『……もしもし、進?』
「ああ、眠そうな声だな」
『ごめん、待ってる間に眠くなって寝ちゃった』
「今からいくからな」
『うん、待ってるね。あっ、夕食どうする?』
「俺のおごりで食べに行こう!」
『えっ? いいの?』
「ああ、今日は特別だ」
私は嬉しくなった。それにしても話ってなんだろう?
午後八時を過ぎた頃、進はやってきた。家のチャイムが鳴り、私は玄関に出た。
「いらっしゃい、上がる?」
「いや、すぐ行こう」
「うん、わかった」
私は進の顔が明るかったからこちらも嬉しくなった。
「どこに食べに行くの?」
「あっ、でも、話は美樹の家で話すよ」
「うん、じゃあ、上がって」
「今日で付き合って2年目だな。今まで付き合ってくれてありがとう! 二年目を記念して言うわ。俺と、結婚してください」
私はそう言われ感極まった。そして、
「よろしくお願いします! 幸せにして下さい」
思わず涙を流してしまった。
「おいおい、泣くなよ。いくら嬉しくても」
「だって、記念日覚えてくれてて、それにプロポーズまでしてくれて、凄く嬉しい。もしかしたら、今まで生きてきて一番嬉しいかも!」
「そうなのか。それは良かった」
それから私達は食事をしに出掛けた。車の中でも、明るい家庭にしたいねとか、子どもは何人欲しい等話しながら走った。やっとここまでこぎつけた。
私にも家族が出来る。嬉しすぎる。これからも色々と頑張ろう!
(終)
嫉妬 遠藤良二 @endoryoji
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