第38章~結子サイド~
きつく閉じていた目をそっと開ける。
まさか和樹はもう刺されてしまったんだろうか?
嫌な予感を抱きつつ顔を上げると、和樹も同時に顔を上げていた。
え?
どうなったの?
キョトンとした視界に入ってきたのは包丁を振り上げた状態で静止している旬の姿だった。
その後ろには半分体の透けた新が旬の両手をきつく掴んで止めているのだ。
「新!!」
あたしは思わず叫ぶ。
新は一瞬こちらへ視線を向けて、悲しげな表情を浮かべた。
「あ、新……どうして?」
旬は真っ青になっている。
「あのバースデーカードを作ったのは……復讐のためだろ?」
旬の言葉に新は左右に首を振った。
なにかを訴えかけるように旬を睨みつけている。
あたしと和樹は慌ててその場を離れた。
「みんなと……花火をしたかった」
新が絞り出すような声で言った。
花火……。
「そういえば、夏には花火をしようって言ってたんだ」
和樹は思い出したように言う。
新が嬉しそうに頬を緩めて、頷いた。
「そうか。あのハガキは新本人が書いたんだな。みんなで花火をしようと思って、夜中の12時に決めたんだ。もしかしてサプライズのつもりだったのか?」
新は頷く。
そうだったんだ……。
それなのに、旬は新の呪だと勘違いしてしまい、こんなことになっただなんて……。
やるせなくて胸が痛んだ。
同時にすべての謎が解けて全身の力が抜けていく。
「くそっ! 離せよ!」
旬が暴れる。
新が旬の腕を更に強くひねりあげた。
「ここは新に任せて、行こう」
和樹があたしの手を握り締めて、2人でかけだした。
廊下を走り、階段を駆け下りて、昇降口へと向かう。
扉を開ける瞬間旬の壮絶な悲鳴が聞こえてきて一瞬足を止めた。
しかし、振り返らない。
あたしと和樹は2人で扉を大きく開いた。
朝の冷たい空気が頬を撫でて、朝日が周囲を包み込む。
あたしと和樹は、早朝の街へと駆けだしたのだった……。
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