β

「あ、ごめん。なんて?」


 通信状況がよくねえんだよなこれ。


『いまどこにいるの。なにしてるの。ねえ』


「あ、ええと、ううん」


 また来た。きりがない。


「今は仕事中」


 雨がひどい。空模様。まったく、わからないほどの、雲、というか黒い闇みたいな感じの。とにかく面倒な相手。


「ええとね。場所、場所かあ」


 今の位置を、同僚に送ってもらう。ここは、現実であって、現実ではない。本当に厄介で面倒なところに狐も湧くもんだ、まったく。もう少し対処しやすいところにさあ。


「あ、出た出た。場所。あなたの1ノット先にいるよ」


『ノット?』


「うん」


 あ、そうか。水上にいるのは自分だけか。そりゃそうだ。彼女は家だろうし。


『空。晴れてるね?』


「大雨だよっ」


『え?』


「あ」


 そうか街は快晴ですか。こっちは大荒れの水。上も下も水だらけですよ。


『おしごと、応援してる』


「おう。まかしとけ。仕事終わりのごはんのために、仕事はきっちりこなすぜ」


 おらっ。この狐が。

 あっ。通信が切れた。


『通信圏外。嫁との通話は終わりだな。残りを早く片付けろ』


「くそが」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る