婦人警官

愚人

第1話 小田和子

「あら、かんちゃん。また来てる」

 そう言って宗良警察署元町派出所の中を覗き見している児童に声をかけたのは、この派出所に配属されている婦人警官だ。

 ボブショートの髪に丸いフォルムの制帽を被り水色の半袖のワイシャツに藍色のスカートという制服姿が妙にエロっぽく見える。その第一の原因は脚の綺麗さだ。膝上5センチ丈のスカートから伸びた脚はスラッと伸びていて、脹ら脛のラインの綺麗さときたら、芸術的な婉曲を描いている。そして婉曲の帰結ポイントである足首がギュッとしまっている。

 勿論、この婦警をエロく魅せているのは脚のラインだけではない。括れた腰に適度な凹凸のある身体のラインもだ。

 逞しさの象徴ともいえる警察の制服をきていながら、女のエロさを醸し出している婦警の名前は小田和子巡査。21歳だ。警察官になって3年目。この4月に護良警察署の元町派出所に赴任してきてまだ3ヶ月半しか立っていない。


 小田婦警は両脚を合わせスカートの裾に手を添えながら蹲むと、小学校4年生の鈴木完也に

「まだ、お家に帰ってないんでしょう?」

「うん」

「宿題は?」

「あるよ」

「だったら、派出所に来る前に先ずお家に帰って宿題をすませること。これ、何回もかんちゃんに言ってるよね?」

「う~ん。かずこ婦警さん、ごめんなさ~い」

「謝らなくても良いのよ。別に怒ってるわけじゃないんだから・・・。お母さんも心配するから、早くお家にかえろ?。ねっ?」

「うん。でも~」

「ん?。どうしたの?」

「かずこ婦警さん女だから、悪い男の人にやられちゃうんじゃないかって心配なんだ」

「ふふふ。いつも、かずこ婦警さんのこと心配してくれてありがとうね。でもねぇっ。かずこ婦警さんは女でも警察官なの。警察官は、かんちゃんの大好きな仮面ライダーみたいに正義の味方で、悪い人をやっつける人なの、だからねっ、悪い男の人がかずこ婦警さんに悪さしようとしてきてもね、かずこ婦警さん、その悪い男の人をやっつけちゃ。ててうから大丈夫なの。かんちゃんありがとうね?。本当に、かずこ婦警さんのこと心配してくれて」

「うん。でも、この前・・・、お母さんと刑事ドラマを見てたら、婦警さんが悪い人に捕まって酷いことをされてるところをやってたんだ。だから僕、かずこ婦警さんのことが心配になって・・・」

「そっかあ。それで、かずこ婦警さんのことが心配になったのかぁ。かんちゃん、本当に優しいね。ありがとうね?。でもね、それはドラマの中のお話だから、かずこ婦警さんは悪い人に酷いことなんかされたりしないから大丈夫だからね?」

「うん・・・でもさあ、この前、従妹の由美ちゃんが言ってたけど、男は悪い人から女の人を守らなきゃいけないんだろう?」

「由美が、そんなこと言ってたの?。ふふふ。それはそうなんだけど、かずこ婦警さんはお巡りさんだから、大丈夫なの」

「でも・・・僕、かずこ婦警さんを守りたい・・・」

「うん。ありがとうね。かずこ婦警さん、本当に嬉しい。それじゃね、もし、かずこ婦警さんが悪い男の人に酷いことをされてるのを見たら、近くにいる大人の人に知らせてくれる?」

「大人の人に知らせるの?」

「うん。それが、かずこ婦警さんを守ることになるの」

「ほんとに?」

「ほんとだよ?」

「わかった。じゃあ、そうする」

「うん」

「じゃあ、帰って宿題やってくる」

「頑張って!」

「頑張る!」

「かんちゃん、明後日はプールだよ?」

「うん。すっごい楽しみ」

「かんちゃんとプールに行くの、久しぶりだね?」

「うん」

「どのぐらいぶりかなぁ?」

かずこ婦警さんがお巡りさんの学校に行くようになってだから・・・えーと、えーと、イイチ・ニイイ・サアン。3年振りだね」

「うん。今まで行けなかったぶん、思い切り楽しもうね?」

「うん」

「それじゃあね?」

「うん」

「あっ!、そうそう。帰ったら、9時頃に連絡するってかずこ婦警さんが言ってたよって、由美に伝えてくれる?」

「うん。わかった。じゃあね」

「バイバイ」

 微笑み手を左右に降って完也を見送ると、小田婦警は、両脚を合わせスカートの裾に片手を添えながら立ち上がると、顔を横に振り向いて視線を向けた。小田婦警は、完也と話をしている時に、横から盗撮している男に気づいていたのだ。

〈また、あの子だ・・・。こんど来たら注意しなきゃ〉

 そう思いながら交番の中に入ると、所長の前川警部補が声をかけた。

「小田くん。またあの児がきてたね?」

「はい。いつもご迷惑をおかけして申し訳ないです」

「いいよ、いいよ。可愛いじゃないか。小田君の友達の従弟だっけか?」

「はい。私の高校の時からの親友の従弟です。私が高一の時から慕ってくるので、私に兄弟がいないものですから、つい甘やかしてしまって・・・・・」

「そう言えば、前、三人で遊びに行ったりしてるって言ってたねぇ?」

「はい。高校の時はよく遊園地とか公園とか海水浴とかに行ってました。でも、私が警察官になってからは休みが合わないので、なかなか一緒に遊びに行けてなかったので、きっとですが、私が家の近くの交番に配属になったのが嬉しくて、つい私に甘えて来てしまうのだと思います」

「かんちゃん、ホントに和子のことが好きだもんね?」

 そう言ったのは小田婦警の同僚の婦人警官で、警察学校同期の伊藤智子巡査だ。い伊藤婦警も小田婦警と同じく高卒で警察官になり、警察学校卒業後から宗良警察署に赴任にしているが、元町交番に配属になったのは本年の4月からだ。

「なんか、年の離れた姉弟に見えるよ」

「うん。この前、前のラーメン屋の奥さんにも言われた」

「でしょう?。私よく、ランドセルしょった男の子が交番に来てるけど、〈かずこちゃんの弟さんかい?〉ってきかてるの。その時は、まあ、似たようなモンですって言ってるけどね」

「うん。その通りだモンね」

「ところでまた、アイツがまた盗撮してたわよ?」

「うん。私、ちょっとだけ睨みつけちゃった」

「盗撮?」

「そうなんです。たまにですけど、土曜の午後や日曜に私たちの写真を撮りにくるんです。特に和子をターゲットにして・・・」

「小田くんを?」

「・・・・・」

「心当たりがある子か?」

「先月、私と和子が独居老人宅への防犯連絡をしている時に、道端で煙草を吸っていたので補導したのですが、それから私たちへの盗撮が始まって・・・」

「身元はわかっているのか?」

「はい。補導した時に生徒手帳で確認しました」

 小田婦警はメモ帳を開いて、前川交番所長の顔を見て言う。

「名前は丹野友幸、14歳。宗良第1中学校3年4組」

「宗良一中の丹野って、去年、二年生で全国中学校柔道選手権で優勝した子じゃないか。そんな子がなんで煙草なんか?」

「興味本位でつい吸ってしまったと言っていました」

「親御さんや学校にはしらせたのか?」

「素直に私たちの聴取に応じてくれましたし、煙草も素直に捨ててくれましたので」

「態度もホントに素直で反省していたので、親御さんや学校には連絡しないで、そのまますませました」

「その日に交番に戻ってからデーターベースで調べて見ましたが、非行歴はありません」

「わかった。ただ、君たち婦警に対して悪さをする中高生もいるから、油断はしないで十分注意してくれ 」

「私たち婦警に悪さですか?」

「公表されていないが首都警察本部の管轄で、婦警を襲うと非行グループ内の格が上がるらしくて、婦警がチーマーの男に襲われてワイセツな行為を受ける事例が多発しているらしい。そのうちの2名の婦警はレイプされてしまったそうだ。だから、君たちも気をつけてくれ」

「はい」

「・・・はい」


 

 この日の夜、小田婦警は由美の家に電話をして明後日の待合せ場所と時間の相談をしたあと、ガールズトークを楽しんでスマホを置いてパソコンのスイッチを入れると、Yahogleを開いて[非行グループ・婦人警官]をキーワード入力して検索してみた。今日、交番所長から〈首都警察本部の管轄内で婦人警官が非行グループの少年にレイプされている〉との話がずっと気になっていたのだ。

「婦警への犯罪を匂わすようなものはないなぁ・・・」

 更にキーワードにレイプを追加して検索してみた。婦警への犯罪に関するものは、


 《 女性警官宅に侵入し結束バンドで監禁した警部補懲戒》


との男性警官による婦警監禁事件しかなかった。

「 交際関係のもつれから女性警察官の自宅に侵入し、結束バンドで監禁して軽いけがを負わせたってなによ。こんなのが交番所長でなくて良かった。でも、もし侵入してきたのが非行グループの少年だったら怖いわね。ナイフで脅されでもされたら・・・」

 次に[非行少年 婦人警官]で検索してみたが、婦警への犯罪に関する項目は何もヒットしなかったが、その中にとても気になる記事があった。

《警察とジェンダー》という記事である。

「最寄りの交番のイメージかぁぁ、気になるなぁぁ。親しみにくい・暗いとの評価の方が親しみやすい・明るいとの評価より多いのか、常に笑顔と優しさを心がけようっと。」

 更に読み進めていくと婦人警官のイメージという項目があった。

「男性の警察官よりも私たちの方が礼儀正しいと思われてるのね、なんか嬉しい。ん?!。でも、私たちと会話経験のある人ほど礼儀に欠けると思われてる・・・。イメージと実際は違うと思われてるってことかなぁぁ。えーっ!。回答者の8割が、私たち婦警は融通がきかないと思ってるのーっ。ヤバい。ホントのホントに気をつけねば。とはいえ甘く見てばかりじゃだめだしね~。難しいわねぇぇ・・・ 。でも7割の人が親切だと思ってくれてるんだ。なんかホッとする」

 次に見たのは婦人警官は頼りになる・頼りにならないの調査結果だ。

「私たち婦警のことを頼りになると思ってくれている人は5割かぁぁ。男性警官は8割・・・。婦警にもっとも向くと思われてる仕事は配慮や人あたりの良さを求められる仕事で、次が広報とか市民と融和を図る仕事・・・。で、男性警官と全く同じ仕事は15パーセント・・・。正直に言って、私自身も普通の男の人とでも体力的に負けてしまうと思うから、これは仕方ないかなぁぁ。婦人警官は警察のマスコットで良いと思うし、広報的な役割で良いと思ってる・・・。ふぁぁぁ。眠い。明日はお召し列車の沿道警備もあるし、もう寝よっと」

 小田婦警は部屋着からパジャマに着替えるとベッドに寝転んで、身体をガバッとタオルケットで覆った。

 




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婦人警官 愚人 @orokanahito

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