第520話 また、その時に
俺は確かに、本気だと言ったはずだ。
だから早速連れ回した。
パワレベ会場の恒例となってきたクオイツに。
「ロギざぁ~ん゛! 私、暗い所も魔物も苦手なんですぅ~!!」
「シャーラップッ!!」
拠点周辺でカルラやエニーに任せても良かったが、それだとどうしても時間が掛かって複製作業に遅れが出てしまうからな。
わざわざ人目につかないよう、光も届かない地下の奥地まで来ているのだ。
経験値の漏れがないように、片っ端から【挑発】かまして敵を誘き寄せているので、俺の横で泣きべそ掻いているリコさんからすれば恐怖しかないだろうが……
これが一気に引き上げるには一番手っ取り早い。
そしてついでに、これで3度目となる転送物流の準備も進めておく。
たぶんだが、今日はもう一度ここへ来ることになるからな。
久しぶりに見たオムリさんは病気でも患ったのか、先日強制ダイエットを食らっていたカタツムリと同じくらいゲッソリしていたけど……
前回やり過ぎちゃった感もあるので、今日は明日の朝まで荷物の準備に充てていいよと伝えて一度帰還。
すぐさまリコさん改造計画に取り掛かった。
そして――
「はい、それじゃあまずは、預かったこっちの服に着替えてね。頭にはこのハチマキ」
「え? "死んでも諦めません"って、どういう――」
「この2本の短剣は腰の辺りにでもぶら下げといて」
「は、はぁ」
「あと、これを足元に。常に踏んづけとく感じでいいから」
「これは、健康器具、ですか……?」
「一応『盾』だけど、ちょっとトゲトゲしているやつだし、足ツボマッサージにも使えるんじゃない?」
「……」
「で、これがメインで付けておく用の指輪と首飾り、あと魔力残量が厳しくなってきた時用に、サブアクセも2種類用意してある――」
「ちょ、ちょっと待ってください! まったく理解が追い付いてなくて、これは何をやってるんですか!?」
そう言われて、おや? と思いながらも暫し考える。
そういえば、付与について詳しく書かれた本はうちになかったな。
となると、本からしか学べていないリコさんが知らないのもしょうがないのか。
ふーむ……
(いずれ、無い分野は自分達で本を作っていく必要もでてきそうかな……)
そんなことを考えながら解説を加えていく。
「まずね、目指せ大賢者っていう、大きな目標のために記憶や理解力の強化を図ろうと思ったら、やっぱり『知力』かな~って。それで各装備に【明晰】レベル9の付与を2個ずつ付けたんだ」
「ブホッ!? 自分の【明晰】より遥かに高い……ちなみに、この頭に巻く布も、ですか?」
「そうそう。防具は2種だから、適当な布に気合の文字を書いただけだけど、これを頭部用の防具に見立ててるのね。あとは武器2本と盾、これで武器と防具の付与は最大になっているから」
「ただの服どころか、布に【付与】なんて可能なのですか? それに盾は地面に置いているだけですけど」
「服だって元々は革や布だし、完成後の用途を想像できているといけちゃうんだよね。たぶん【魔道具作成】なんかも同じ原理で生み出すんだと思うけど……まぁそれはいいとして、自分が<付与師>でもない限りは結構なお金がかかるし、その布切れが破損扱いになったら【付与】も消えちゃうから、誰もそんなことをやろうとしないってだけ。あと装備は触れてさえいれば【付与】効果が発動するから、作業する時だけ足を乗っけておけば邪魔にならないでしょ?」
「確かに……」
「装飾品もその辺りは同じなんだけど、この指輪だけは特殊付与装備だから、一応まだ付与は施していない」
所持していたのはサザラーの女商会長か、それともアトスターク侯爵か。
ロズベリアの大掃除をした時に、いつの間にか所持していたものだが――
『知力の指輪』・・・【知力増加】Lv2
このようになっており、自分で試した結果、装備すると知力が200上昇することが判明していた。
そこそこ希少なのかもしれないけど、この程度の固定値上昇であれば俺が使うことはない。
なら適当なアクセに【明晰】レベル9の【付与】で知力を90底上げするより、付与無しのままでもリコさんの強化に使ってしまった方が意味もあるだろう。
「これでリコさんの知力は装備だけで740底上げされているから、実感はしにくいだろうけど、経験上間違いなく無意味ということはないはずだよ。あと【自動書記】の常時使用で、もし魔力の自然回復が追い付かないようなら、ケイラちゃんとの共用ということで、その時はこっちの首飾りに付け替えてね。一気に魔力回復量が跳ね上がるから」
「あ、ありがとうございます。これが、ロキさんの見えている世界なわけですか……」
「そそ、職業選択のボーナスと祈祷の調整で【異言語理解】がレベル9、【写本】がレベル9、【自動書記】はレベル8。ここまで主要スキルを底上げすれば相当作業効率も変わるから、あとは実際に作業をしながら今までとの差を感じてみてよ。例のSランク狩場が見つかれば、さらにスキルレベルも伸ばせるだろうからさ」
「はい!」
【異言語理解】レベル9でも、まだ解読できない文字がいくつかあるという。
でもその手前に触れていない知識が山ほどあるのだから、そのくらいは最後のお楽しみにしておいたっていいだろう。
必要があれば、そのくらいは俺がリコさんに教えたっていいわけだしな。
さて――、ハチマキを頭に巻き、集中モードに入ったリコさんはこれでいいとして。
今までの話を聞いていたせいで、普段は見せない物欲しそうな眼差しを向けるケイラちゃんにも、少しばかりのプレゼントを渡す。
「はい、ケイラちゃんにも、これね。まだ魔力総量が少ないから、魔力を底上げする耳飾りを二つ。あとこの盾をリコさんみたいに足元に置いて踏んでおけば魔力回復量もだいぶ上がるから、さすがに常時とはいかないだろうけど【自動書記】を長く使えるようになるよ」
「あ、ありがとうございます……! で、でも、私も……」
リコさんとは明らかにやっていることが違うのだ。
言わんとしていることは分かる。
だけど。
「ケイラちゃんにはまだ早いかな」
「そ、そうですか……」
「あのやり方っていうのは取り返しのつかない、凄く怖いやり方でもあるんだ。もし後々になって何かが違うと思っても、一度伸ばしてしまったスキルは修正がきかないから、他の道まで閉ざされてしまう」
「……」
「だからケイラちゃんが、本当にやりたいことを見つけた時。その時はエニーやリコさんみたいに、俺が全力で応援するからさ。まずは人生を懸けてでもやり遂げたいって思うほど興味の惹かれる何かを見つけてみてよ。時間が掛かってもいいんだから」
「は、はいっ! 約束ですからね!」
才覚があり、育った環境も特殊だったエニーとは違う。
まだ10歳やそこらの女の子だ。
そう簡単に見つかるものでもないだろうし、仮に見つかったとしても心変わりくらいはして当然だろう。
だったら後悔させないためにも、周りが慎重なくらいの方が丁度良い。
まだ自分の決断に責任を負えない、子供であればだ。
(さて、もう一人はどう判断するかな?)
当初からどうすべきか悩んでいたのは、リコさんではなくもう一人の方。
その確認をするため、新しく入手した源書にサラッと目を通したあと。
(さすがに2700冊となるとこの二人だけでは……一応女神様達にも本気で相談しておくか……)
そう思い、一度上台地に寄り道をしてからベザートへ飛んだ。
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