第320話 オークション結果

 先頭馬車を動かす大男ベッグさんを筆頭に、全員が野盗と見間違えるくらい小汚い悪人面の集団。


 実力がないなら、せめて見た目くらいは脅しの利く怖い人達を。


 そんな考えで集められた人達が馬車の御者台に座って手綱を握り、ガタイだけは良い護衛役の男達が俺の貸した武具を身に着け、周囲に強い視線を飛ばしながら歩いているのだ。


 普通の旅人や農家の人達なんかはあからさまにビビって避けており、既に奪われた後の商団という雰囲気すら醸し出していた。


 そんな姿を上空から眺めつつ、周囲に怪しい動きをする者がいないか暫し観察していたわけだが。



(うーん、これは無理だなぁ……)



 そう悟り、不自然にならないよう、ゆっくり動く馬車の中に直接転移した。



「クアドさん、やっぱり絞るのは無理ですね。追い抜いていく人達が多過ぎです」



 ベッグさんの横を陣取り前方を見据えていたクアドさんに、とりあえずの現状を先頭馬車の中からコッソリと報告する。


 俺が空から監視すると伝えた時は、この世の終わりのような面白い顔をしていたが、今はどうやら落ち着きを取り戻したらしい。


 ちなみに今回だけは、どうしても自分の目で何が起こっているのか見届けたいと、それこそ死も覚悟した上でクアドさんは同行していた。


 再現性を高めるため、できれば過去の失踪事件を可能な限りなぞりたい。


 そのため重要人物であるクアドさんにはドミアに残っていてほしかったというのが本音だが、彼にとっては自分の人生を懸けた輸送だ。


 あの何もない店でジッとなんてしていられないって気持ちも分かるだけに、その覚悟を蔑ろにすることはできなかった。



「荷物を積めば人が歩くくらいの速度しか出せないっすからね。ここから先はいくつも街道が枝分かれしていきますし、伝達に走った者が仮にいたって絞りきれないと思うっす」


「ですねぇ。しょうがないので予定通り、上空から不定期に周囲の観察を続けていきます。とりあえず見張っている者がいるかはすぐに割り出しますんで、そのまま僕はいないものだと思って進んでください」



 そう伝え、また誰にも見られぬよう、こっそり上空へ移動する。




 ここからはじれったく、そして地味な作業の繰り返しだ。


 町を離れるほど人気は無くなるので、明らかに誰もいないと思えば一時的に狩場へ移動。


 1分2分魔物を狩ってはまた戻り、上空から怪しい人影や地形がないかを観察する。


 その結果、初日の段階から分かったこと。


 それは間違いなく、この商団を尾行したり、後方から観察を続けているような者はいない。


 そういう結論になり、このことを伝えればクアドさんはひとまずの安心から大きく息を吐いた。


 この商団を追う者がいないということは、今までが身内の裏切りでなければ、敵は予め決まった位置、もしくは区間で待ち伏せしているということ。


 これで少なくともシュライカの町まではほぼ安全ということが分かったので、あとは夜の番を無難にこなすだけである。


 まぁその役割は俺じゃないが。



「ごめんね。緊急時以外は馬車から無理に出る必要もないからさ」


「怪しい人達が来たらロキを起こせばいいんでしょ?」


「そうそう。まだ何も起きないだろうけど、一応見張りお願いね」


「任せておけ。戦力にはならんが、索敵くらいなら十分に可能だ」



 一番大きそうな馬車の荷物を全て収納し、持ってきた寝具などを並べた秘密の移動拠点の中でコソコソと話を進めていく。



 夜間の見張り用に来てもらったのはゼオとカルラ。


 当初は単純な戦力としてカルラだけに声を掛けたが、【夜目】やかつてリアも使っていた【広域探査】など。


 "索敵"という点でゼオの能力がずば抜けているらしく、それならと一緒に来てもらうことになった。


 ただゼオまで参加すれば、消費魔力の点から気軽に拠点間移動はできないわけで。


 その結果二人とも隠れ護衛として一緒に旅することになってしまったが、お陰で動ける時間が確保できたのだから俺的には感謝しかない。




 こうして予想通りの平和な護衛の旅は続いていき、ドミアを出てから3日目。


 心待ちにしていた1ヵ月ぶりのオークションが開催され、少しの時間護衛は二人に任せて俺はサヌールへと足を運んだ。


 今回出品されていた『技能の種』は5つ。


 対して俺の預け残金は以前のままなので約9億ほど。


 昨日のうちにオークション担当のアランさんと、1個当たりの入札上限額や他の落札したいモノなどは相談しておいたが――果たして、結果はどうなったのか。



「アランさーん、どうでした?」


「お、ロキか。バッチリだぜ!」


「おぉ! 全部いけましたか!」



 聞けば狙っていた『技能の種』は、1つ1億~1億1千万ビーケの範囲で落札できたようで、前回の結果から多少相場上昇の気配はあったものの、そこまで強く競りに参加してくる者はいなかったらしい。


 理由は言わずもがな。



「例の鎧が大盛況だったからな。大富豪の代理人が大半は落札していったが、特に【毒耐性】と【火属性耐性】の競り合いは目を見張るものがあった」



 横で話を聞いていた鑑定屋のマグナークさんが、出品者が誰か分からないように伏せながら、今日の結果を楽しそうに語ってくれる。


 よしよし、予定通りだな。


 ビクターが最初に大金を使ってくれたおかげで、他の出品物は全体的に価格が抑え気味で進行したらしい。



「それぞれの金額って分かります?」


「もちろんだ。こいつに一通り纏めておいたから確認してくれ。落札できたモノと売れ残りは、この板をカウンターに持っていけばすぐに渡される。落札された分も含めた金の引き出しは明日以降だ」


「ありがとうございます!」



 いや~こういう時が最高に楽しいんだよね。


 俺の出品したモノはどれくらいまで金額が伸びたのか。


 アランさんから渡された木板を、上から順番にじっくり眺めていく。



【落札物】


 技能の種×5・・・計52,000万ビーケ


『魔道具』鍛錬用木剣 四ノ型・・・2,600万ビーケ



 ふむふむ。


 所持している図鑑に載っていなかった魔道具も無事落とせたか。


 これはリアとカルラ用のお土産にするとして、問題は出品物の方だ。




【出品物】


【毒耐性】Lv8付与付き 8等級革鎧(汚)・・・7.5億ビーケ


【麻痺耐性】Lv4付与付き 8等級革鎧(汚)・・・1,600万ビーケ


【睡眠耐性】Lv4付与付き 8等級革鎧(汚)・・・1,100万ビーケ


【石化耐性】Lv6付与付き 8等級革鎧(汚)・・・2.4億ビーケ 


【鋼の心】Lv5付与付き 8等級革鎧(汚)・・・1,000万ビーケ


【火属性耐性】Lv8付与付き 8等級革鎧(汚)・・・3.85億ビーケ 


【水属性耐性】Lv6付与付き 8等級革鎧(汚)・・・4,500万ビーケ


【闇属性耐性】Lv6付与付き 8等級革鎧(汚)・・・8,000万ビーケ 


【雷属性耐性】Lv6付与付き 8等級革鎧(汚)・・・5,400万ビーケ 


【氷属性耐性】Lv5付与付き 8等級革鎧(汚)・・・1,000万ビーケ 


【土属性耐性】Lv4付与付き 8等級革鎧(汚)・・・買い手つかず 


【風属性耐性】Lv6 付与付き 8等級革鎧(汚)・・・3,700万ビーケ



 おうふ。


 あの臭くて汚い鎧が、こうして大金に換わるとか……いやいや、マジで最高過ぎるんだけど。


 ただすべてが高値で売れたわけではないし、こうして一覧にしてもらえると、何が良くて何がダメなのか。


 なんとなく相場というモノが見えてくるな。


 状態異常系もレベル4だとまだまだ弱く、一気に価格が伸びそうなのは推定レベル5以上から。


 ただし【鋼の心】だけはスタート価格から競り合いなく終わっており、これはきっとレベル上昇のし易さが絡んでいるんだろう。


 たしかこのスキルは、ゴミハンター代表のフィデルがそれなりのレベルを所持していたはずだ。


 何かに耐えれば上がっていくという類のスキルっぽいので、耐性系ではあるけど異色というか、少し系統が違うような気もする。



 そして属性耐性系がまともな競り合いに発展するのはレベル6と、状態異常系よりも1ランク価値が落ちるような印象だ。


 これは単純な需要の問題もあるだろうけど、それ以上に基礎となる防具の質が絡んでいるようにも思える。


 状態異常系と違い、属性耐性系の使う場面は戦闘時が前提になるだろうからね。


 弱くてボロい革鎧じゃ、あまりにも一点特化し過ぎて、まるでデメリットを抱えた呪いの防具に近い存在。


 しかしこの汎用性の無さが俺にとっては美味しいので、【火属性耐性】はどんどんオークション市場に流しても良さそうだ。



(あとはやっぱり、【毒耐性】かな)



 毒は今のところまったく使わないし、そんなスキルだって持ち合わせていない。


 であれば、バラまいて相対的に俺が弱くならないのは【毒耐性】なわけで、ここからは在庫の防具数と相談しながら、供給過多にならない範囲で出品し続けていけばいいだろう。



「それじゃまた明日、いくつか倉庫から持ってきますのでよろしくお願いしますね」



 マグナークさんとアランさんにそう伝え、落札した物を受け取りに向かう。


 いくら二人に口留めはしたとしても、繰り返していけばいずれ出品しているのが俺だと分かり、付与師を求めて俺がターゲットにされる可能性は十分にある。


 だが調整はしても、自重なんてしない。


 自分の納得できる形で、ゴミと引き換えに仮想敵から金を吸い上げ、その金を自己強化に充てられるのであれば、それは現状取れる最高効率ということ。


 そんな機会、他の効率的な手段が生まれたとしても、そう簡単に手放すわけがないのだ。



(それにバレたところで、この件なら瞬殺されることは無いしな)



 もし敵意や害意を向けてくるとしても、それは【付与】を利用しようとする存在だ。


 自軍に引き入れるための動きなら、話次第で真っ当な取引にもなるだろうし、強引な手段を取ろうとする悪党ならそのまま俺がまとめて喰らえばいい。


 もし俺がまったく勝てなさそうな相手なら……まぁその時はまったく別のルートから新たな旅を開始すれば、その途端に俺の足取りは途切れて追えなくなる。



(あとどれほどの強者を追い抜けば、こんな心配しなくても済むようになるのかなぁ……)



 そんなことを思いながら、受け取った『技能の種』を飲み込み、俺は護衛業務へと戻っていった。

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