第316話 2体の石像

 空いていた資材倉庫の5階。


 そこに余っていた衣類を敷き、その上に取り出した2体の石像を皆で眺める。



「こいつはすげぇな」


「小さい方はたぶん女の人だよね?」


「そう見えるな。羽があるということは、石化した鳥人か」



 この状態から回復させることが、果たして可能なのかどうか。


 ほぼゼオ頼みの状況だが、何かしら方法があるのならこの2体を回復させてみたい。


 そんな思いだけで持ち帰ってみたが。



「可能性はありそう?」


「一部が石化しただけなら対処のしようもあるが、完全に石化された状態ではな……」



 ゼオの表情だけで、相当に難易度の高い問題であることは予想できた。


 全て石化している上に、その期間もどれほどか予想もできないくらいに長いのだ。


 おまけに石像は破損までしてしまっている。



「ちなみに、一部だとどんな治し方が?」


「【神聖魔法】を使用し、石化が進行した部分を直接直すか、もしくは切断して強引に欠損部分を再生するやり方。もしくはより高いスキルレベルが求められるはずだが、本来は状態異常を対象に与える【呪術魔法】で回復させるという話も聞いたことがある」


「うっわー……まだどっちも覚えてすらいないわ」


「つーかよ、石化って食らったらほぼ終わりじゃねーか?」



 ロッジの言葉に、横にいた俺も深く頷いてしまう。


 部分石化だけでも治療に上位の魔法が必要とか、石化させられる手段を持っている俺が言うのもなんだが、あまりにも凶悪過ぎる気がする。


 ゲーム的な感覚で言えば、全体石化はもちろん、一部分を石化されればもうそれだけで致命傷だろう。


 動きを阻害できる上に、石化した部分を砕けば、どんなに硬い防御があっても部位欠損までもっていけるかもしれないのだから。



「その代わり、石化の進行は非常に時間が掛かる。この2体もゆっくりと少しずつ石化させられたはずだ」


「うぇ~ボクはそっちの方が嫌だよ」


「たしかにな。少しずつ自分の身体が石化していくなんて、想像もしたくねぇ」



 な、なるほど……


 何気に凄く有益な情報を聞けてしまったけど、今は攻撃手段の話ではなく治療方法についてだ。


 ゼオで難しいなら、ダメ元で女神様達にも聞いてみるしかない。



「ん~やっぱり無理そう?」


「……いや、魔法での治療は思い当たらないが、『薬』であればいけるかもしれんな」


「おぉ!」


「しかし我が知るのはかなり入手が困難な薬だぞ? この時代であっても入手はできるだろうが、相当高額であることは間違いない」


「あ、もしかしてダンジョン産?」


「うむ。『霊水』というものでな。病のほかに、様々な状態の異常を治癒する効果もあったはずだ」


「ふむふむ……こないだ見かけた『仙薬』とは違うんだね」


「『仙薬』は万病に対しての効果のみだから、それよりさらに上位の薬だな。一度だけ上級ダンジョンで入手したことはあるが、【薬学】に強い者ならもしかしたら、素材次第で精製することが可能かもしれぬ」


「精製かぁ…………んあっ!?」


「「「???」」」



 そうだそうだ、何をやってるんだ俺は!


 こんな時のためにセコセコと攻略本を集めてんだろうが!



 収納から取り出したのは、一番初めに手に入れた本――『薬学図鑑』。


 皆で眺めながらペラペラ捲っていくと、調合材料は一切不明とあったが『仙水』や『霊水』も一応載っており、他にも『石解水』という石化用の薬までしっかり紹介されていた。


 これだよ、これこれ!



「えーと、必要素材は『鳳来草』『カトプレパスの眼』『聖水』の3つか。『カトプレパスの眼』はすぐにゲットできるからいいとして、あと2つの入手方法!」


「『聖水』はあれだ。教会でお布施払うと貰える、祭りとかで使うような水だろ?」


「お? ロッジナイスゥー! ならこれも入手難易度は低そうだね。となると、あとは『鳳来草』か。誰か聞いたことある?」


「そいつは聞いたこともねぇな」


「ボクも!」


「我もだな。すまぬ、【薬学】には強くないのだ」


「そんな、十分参考になってんだから感謝しかないよ。それにもし3つの素材が集まっても、調合して精製してくれる<薬師>を見つけないといけないんだろうしさ」



 素材を集めて壺にでも突っ込んだら、ポポーンと薬が出来上がるような世界ではないのだ。


【薬学】がジョブ系の時点で、素材配分など技量や経験が求められることは容易に想像できる。


 メイちゃん家でなんとかなれば最高だが……あっさり作れるほど広く出回った薬でもないだろうからなぁ。



「でもさ、薬ができたとして、生き返るのかな?」


「んだな。どう見ても石だし、こんな状態になって長いんだろ?」



 二人の意見はごもっともで、ゼオも口にはしないが、同じ疑問を浮かべていることはなんとなく分かる。


 だが、ここは問題ない。


 ゼオとカルラを生き返らせた時に、一度俺は学んでいる。



「たぶん大丈夫だよ。少なくとも小さい方は【心眼】でスキルが覗けてるからさ。仮死状態みたいなもので、確実に死んではいない」


「ほう……たしかにな」



 大きい方は【心眼】が通らないけど、物にしか反応しない【鑑定】も通らないので、これで【隠蔽】が弾いていることも分かるわけだ。


 ならば焦る必要はない。


 ここにいればとりあえずこの2体は安全なのだから、旅をしながら残り一つの素材を集め、『石解水』に昇華できる人物を探していけばいい。


 ゼオは難しいという反応だったが、魔法による治癒、上級ダンジョンで入手可能な『霊水』を先に得られる可能性だってあるわけだしね。



 いったいいつの時代に生き、なぜ第5層で帰還する者達がいた中、第6層までやってきたのか。


 直接話を聞ければ俺も女神様達も、何かしらプラスになる情報が聞けるかもしれない。



(これでまた一つ、旅の目標が増えたな)



 そう思えばやる気も漲り、他の石像がいないか探索しつつ、スキル経験値稼ぎを黙々と進めていった。

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