第303話 プレゼント
翌日、俺達はベザートのハンターギルド。
その屋上にいた。
既に時刻は夕方を迎え、俺が預かっていたモノを次々と本人たちに渡していく。
「ほい、メイちゃんの買った薬やら薬草関係、あとはいろいろな種類のハーブか」
「そうそう! ありがと!」
「んーで、ポッタ君は大量の衣類に食材と……日除け用の帽子も何個か買ってたよね?」
「あと野菜の種も」
「あーそうだそうだ。こっちの小分けにされた袋詰めのやつがポッタ君のね」
「俺は、あの、茶色い革袋に入ったやつ、全部」
「そうだね。あの茶色い革袋の中身は丸ごとジンク君のだ」
その革袋の中に、コッソリお母さんのお土産も入っているのは敢えて触れないでおく。
隠そうとしながらも、ちゃんと買っているのだからジンク君は偉いのだ。
その他、細々した預かりモノも忘れずに返却していき、これで以上というところで旅行の感想や喜びの声が漏れ始めた。
「ロキ、ありがとな! 話を聞いたことはあったけど、まさか俺がダンジョンに行けるなんて思いもしなかった!」
「私は初めて獣人が見られたことかな~! 馬以外にもラクダとか、見たことない生き物もいっぱいいたし!」
「ほ、他の国のご飯凄く美味しかった! あと戦士になれたの、凄い嬉しい!」
「満足してもらえたようで良かったよ。3人共ちゃんと成長できてたし……これなら約束通り、ちゃんとご褒美をあげないとね」
「「「え?」」」
そう言いつつ収納から取り出したのは、今日の買い物途中でこっそり買っておいた3つの安価なネックレスだ。
パイサーさんは邪魔だと思わないだろうけど、それでも武器や防具はやり過ぎれば商売の邪魔になってしまうからな。
その点装飾装備ならば、誰の邪魔をすることもない。
「一応これもハンター用の装備でさ」
「あっ」
「ん? ジンク君は知ってた?」
3人とも驚きの表情を浮かべているが、ジンク君だけはその質がちょっと違うな。
「いや、全然詳しくはないけど、昔父ちゃんが狩りに行く時、必ず指輪を二つ嵌めてたなって」
「あ~それならまずハンター用の能力向上アクセだね」
「そんなのあるの?」
「僕、聞いたことない」
「んーとね、最大で2つまで効果を発揮して、『指輪』『イヤリング』『ネックレス』と――……」
ベザートではそもそも装飾装備を売っている場所がないし、身に着けているとはっきり分かる人もいない。
周辺狩場の環境からそこまで必要ないという話かもしれないが、メイちゃんやポッタ君のように、存在自体を知らない可能性も高いのだ。
ならば、俺が教えよう。
知ってまた新しい世界が開けるのなら、ただ闇雲に強い装備を与えるよりもよほど先の成長に繋がる。
そして増えた選択肢の中から、後悔しない自分なりの望む『道』を選んでいけばいい。
「この『攻撃力上昇』はジンク君、『命中率上昇』はメイちゃん、『素早さ上昇』はポッタ君が一番向いてるかな」
「これで目を瞑っちゃっても当たりやすくなるのかな?」
「バカ! そんなわけないだろ! ちゃんと狙えば、素早いスモールウルフにも攻撃が当たりやすくなるとかじゃないか?」
「僕もスモールウルフみたいになれるの?」
「ははっ、マルタに行けば1つ3万ビーケとかで売ってるようなやつだからね。装飾装備も上には上があるけど、この『微小』は効果がお守り程度って言われてるよ」
「「なんだ~」」
あからさまに落胆するメイちゃんとポッタ君だが、ジンク君だけは考え方が俺寄りになってきてるかな?
「いや、それでも2個までなら手軽に強くなれるんだろ? そのくらいの値段なら俺達でも買えるし、伸ばせる箇所だって選べるんだし……これ、かなり重要なんじゃないのか?」
「そうそう。それに装飾装備の主目的は【付与】って言われてるくらいだから、その枠を増やすモノって思っておいてもいいよ」
「「「??」」」
「依頼すれば、パイサーさんもやってくれるんだけど……【付与】は中級者向けっていうか、装備が揃った後の話になってくるから、この辺りはまた今度だね」
「まずは装備か。俺もちょっと良い剣が欲しくなってきたし、パイサーさんに聞いてみるかな」
「私もー! 樽の中に短い槍なんて売ってたかな?」
「メイちゃんは、まず防具じゃない?」
「んじゃ、まだやってるし行ってみようぜ!」
ガヤガヤと、今後の装備話で盛り上がっている3人。
だからか。
「今回は3つとも、ちょっとした【付与】が付いてるけどね」
一応伝えておいたこの言葉は、深く掘り下げられることもなく――
彼らはハイテンションのまま、向かいの装備屋へと駆けていった。
ほぼ休暇とも言えるような弾丸旅行。
それでも得られることはいくつかあった。
3人の成長具合を見ていると、たぶんだがダンジョンでも通常のレベル上昇経験値は得られているはずだ。
正直3人に【洞察】を使用しても、差はまったく分からない。
その差を判別できるほど、俺の【洞察】レベルは高くなかった。
しかし魔物と対峙する姿を見ていれば、斬りつけるその威力が、攻撃を躱すその速度が。
Eランク魔物に手を出し始めてからは目に見えて向上していた。
ダンジョンは湧いていれば、部屋に複数体の魔物がいるのは基本。
つまり『レベル上げ』に専念したいなら、俺以外は効率的な狩場とも言える。
そして今回の実験結果だ。
(結果は失敗したが……)
3人にプレゼントしたアクセの【付与】は、できれば【隠蔽】にしてあげたかった。
女神様達が常に装備しているのだ。
俺でもできると思って試してみたが、結果は惜しいとかそういう話ではなく、明らかな失敗であり不発。
【付与】のスキルレベルが足りていないのか。
それとも根本的に本来は【隠蔽】の【付与】など付けることができず、ダンジョン内でのみ極低確率で得られる『特殊付与』に分類されるのか。
神様が創った物であれば、どちらの可能性もありそうで答えは分からない。
――そんな疑問に気付けたことも今回の収穫だろう。
分からないなら分かるまで調べ、いずれ解決させればいい。
そうすればまた、俺はその時に強くなる。
「さて、行くか……」
休暇が終わりとなれば、やるべきことはダンジョン攻略だ。
まずはスカスカのマッピングを埋めるべく、俺は途中になっているダンジョンの5層へと飛んだ。
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