第291話 先のこと

「カルラー! 今は解体より資材倉庫に集合ー!」


「へ?」


「ゼオもー! 今は木材の加工より資材倉庫にー!」


「なんだ?」


「ロッジはー! もういるからいいや」


「なんだよそりゃ!」


 拠点に戻ってそうそう、お決まりの定位置にいる3人に集合を掛ける。


「山ほど戦利品ゲットしてきたから、みんな分別手伝って! その代わり好きなモノを好きなだけ持ってっていいから!」


「ほーう」


「例のギルド依頼とやらをこなしてきたのか」


「持ってっていいって言われても、その戦利品次第だよね?」


「ふっふっふ。まずは分別しやすいところで~装備からいってみよ!」


 ドババ~っと『収納』から取り出せば、溶かした金属や装備類が置かれているロッジの職場付近に、ビビるほどの『山』が出来上がっていく。


「なんじゃこりゃ……」


「数だけで言えば1000個以上はあると思うから、ショボいやつはどんどん溶かすなりしちゃってね。あ、解体にも使えそうな短剣はちょっと分けといてほしいけど」


「すっご!」


「ん? 共通した金属製の鎧があるな。どこかの国とでも戦ってきたのか?」


「あぁ、悪いことに加担している兵士達がいてね。ちょっと潰してきた」


「ふっ、やるではないか」


「おまっ……傭兵ギルド経由だとしても大丈夫なのか? 普通は国とのトラブルなんて避けるもんだろう?」


「大丈夫だよ? どうせここまで追いかけてこられないし、何より新領主から全部許可貰ってるから」


「り、領主……?」


 ロッジが早速パニックに陥っているが、今は放っておこう。


 あと分かりやすいのは――たぶんこれだな。


 資材倉庫の反対側、色々な魔物素材が置かれている場所に、徴収されていた大量の素材を放出していく。


 魔石はまぁ、木箱から溢れまくってるけど、これは使い道があるから良しとしよう。


 ただ大量の猫素材とキノコはどうしたものか。


 とりあえず出してはみたものの、今のところオルグさんにでもまとめて売るくらいしか処理方法が思い浮かばない。


「ねぇ、同じ魔物ばかりなの?」


「なんだよね~ギニエの町って、狩場が1ヵ所しかなくってさ」


「しかも皮を剥いでるのもあれば、全部そのまんまなやつもあるんだけど! 解体が必要なやつはアッチに置いて!」


「ぎゃーごめん! ちょっと待ってて!」


「このキノコはかなり保存が利くはずだ。崖の方の食糧庫に運んでおくか?」


「あ、じゃあ猫の分別しちゃうからそっちはゼオお願い!」


 セコセコと、解体が必要な素材はカルラと解体場に運び、解体不要な素材はモチャっと倉庫の一角で山積みに。


 その後も次から次へと戦利品を放出しては、皆に全力で働いてもらう。



「あ~これはお酒! めっちゃ大量!」


「うぉおおおおおおおおおおおっ!」


「あとは物凄い量の食べ物だけど、俺はこの世界の食事に詳しくないからなぁ。食べ物はゼオに任せるよ」


「ふむ。ならば食えそうなモノは、全て食糧庫に運んでおこう」


「んで、これは衣類だね。もう大量過ぎるくらいに大量」


「おぉ! って女の人のも多くない?」


「そりゃ多いよ。片っ端から回収してきたんだし」


「鬼畜ぅ~!」


「ほーう、下着まで回収してくるとは、おまえもなかなかやるじゃねーか」


「いやいや、狙って拾ってきたわけじゃないからね!? あ、あと家具! これも大量にあってヤバい」


「あ~鏡だ! これ良いね!」


「質の良さそうなベッドがあるな。机もこんだけあるなら作業台にしちまうか」


「どうぞどうぞ! 何個でも持ってっちゃって!」




 ……そして1時間後。




「ちょっとこれは、酷いねぇ……」


「うむ、我には許せない光景だ」


「何がどこにあんのか分かんねーぞコレ」


「なんでこんなバカみたいな量を貰ってきたの?」


 相変わらずカルラの言葉が、グサグサと心に刺さる。


 だって貰えるなら欲しいじゃん……貧乏根性丸出しだけど、そんなもんじゃん……


 それになんか"終わった"みたいな雰囲気醸し出してるけど、収納しているものはまだまだこんなもんじゃない。


 たぶん今の何倍も、秘密ポケットには俺にも分からない何かが仕舞われている。


 となれば、これはもう、抜本的な改革が必要。



「やるしかないか」


「なにを?」



 キョトンとした様子を見せるカルラに、ニヤリと怪しい笑みを浮かべる。



「今から、ビルの建設に入りたいと思います!」





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





 日も完全に暮れた頃。


 我ながら素晴らしいモノが出来上がったと、宙に浮きながら全容を眺めて深く頷く。


 ちょっと玄人向けなところもあるけど、カルラが大はしゃぎで移動しているのだから、皆の反応はまずまずと思って間違いないだろう。


 資材倉庫は問題点は明白で、それは無駄に高過ぎる天井をまったく活かせていなかったこと。


 ゼオの棚だって2メートルくらいまでで、上空はスッカスカだったのだ。


 だから過去にちょっと構想していた案を本気で実行した結果が、この世界では相当珍しい気がする10階建ての建物だった。


【土魔法】で高さ5メートルの『硬い』と注文を付けた石柱を立てまくり、その上にバカでかい石の板を生成。


 これを繰り返しただけなので、案外お手軽だったりする。



 ただし、階段は無い。


 そんなもの、簡単に作れないから、無い。



 だから玄人向けなのである。


 ちょっとずつ石の板を短くしているので、倉庫の入り口だけは天井まで見える吹き抜け状態。


 そこから5メートルの【跳躍】ができるか、そんなのお構いなしに転移できれば次の階に行けるこの仕様に、当然俺とゼオは問題なく、カルラも普通のジャンプで余裕の一発クリア。


 怪しかったロッジも、パワレベ効果で手を引っ掛けながら強引によじ登っていたので、階段がなくても意外となんとかなっちゃったりするのが異世界ビルなのである。



 1階・・・鍛冶場 魔物の素材倉庫 薪置き場 資材の一時保管場所


 2階・・・魔物の素材倉庫専用 


 3階・・・衣類全般 日用品全般


 4階・・・家具全般 魔道具全般


 5階・・・未定


 6階・・・未定


 7階・・・未定


 8階・・・誰も使わない防具置き場


 9階・・・誰も興味のない美術品や芸術品とか、よく分からないモノ全般


 10階・・・乾燥させたい物置き場 カルラの別荘



 別館(崖の中)・・・冷蔵食糧庫





 土地がクソほど余っているのに、いったいなぜこんなことをやっているのかは分からないけど……


 ニヨニヨしながら木の板で階層案内板を作っているくらいだし、楽しければ良しなのである。


 これを倉庫の入り口近くに立てかけておいて、と。



 出来栄えに納得したら、お次は上台地へ。


 大きな鍋を火にかけながら、その中身を覗いているアリシアとフェリンに声を掛ける。


「やっほ~!」


「やっほーお帰り~!」


「お帰りなさい。無事に終わったのですか?」


「もちろん! お土産あるんだけど、みんなもう降りてきてる?」


「リアとリステはまだ自分の家を作っていると思います。フィーリルとリガルはお風呂ですね」


「それじゃ私呼んでくるよ!」


「あ、ゆっくりでいいからね」


 待っている間に鍋の中を見てみると、大きな肉……というよりは白い脂肪の目立つ肉塊がゴロゴロと中に入っていた。


 これは、何をやっているんだろう?


「ねね、これってご飯?」


「一応食べられますけど、保存用の油が採れるかなと、今溶かしている最中なんですよ」


「おぉ……って、このお肉、たぶんこの辺の魔物じゃないよね?」


「今日リガルが普通の猪に襲われたらしく、捕まえてきたんです」


「あーなるほど。この付近の魔物って筋肉ばかりで、油っぽさがあんまりないもんなぁ。しかし、猪の油か……」


 正直に言えば、日本に住んでいた頃は一度も聞いたことがない。


 ラードはたしか豚で、鳥や牛の油もまぁ普通だと思うが、果たして猪の油とはまともなヤツなのだろうか?


「それってこの世界では普通に食べたりしてるの?」


「料理に使うみたいですよ? あとは肌の薬液として使用することもあるようです」


「ほほ~それじゃ楽しみだね。ってか、どんどん詳しくなってきてるね!」


「直接動けない私が、記憶から幅広い分野の知識を蓄え、皆に伝えていかねばなりませんからね」



 うぅ……どんどん女神様っぽくなっちゃって、もう!


 すんごいドヤ顔してるし、逆に今までアンタは何やってたんだって話だけど、頑張ってんならどんな顔してたって良いと思う!





 そしてそして。


「はいこれ、みんなのお土産」


「ん? 酒か?」


「あ、これチーズ!」


 皆がゾロゾロと集まったところで取り出したのは、アシューの家で保管されていたチーズとお酒だ。


 特にお酒は匂いからして今までとは違い、たぶん俺がほとんど飲まなかったブランデーなどの蒸留酒っぽい気がしてくる。


「そそ、悪党の親分が持ってたやつ。下にいるロッジは質より量派だからさ」


 どう見ても全て瓶に入って高級そうな雰囲気だしね。


 いくつか神様に分けたって問題ないだろう。


 見ているとアリシアとリア、フェリンも変な顔をしており、リステとフィーリルは満足気に頷きながら、リルは笑いながらガバガバ飲んでるな。


 あのエルフ神、絶対味が分かっていない。


「ロキ君も変な顔してますね~」


「いやこれ、ちょっと強過ぎて……うげぇ」


 これはこの身体だと、かなり危険。


 普通にしゃべれるうちにと、今日の戦果と結果を報告していく。


 町の掃除は粗方完了し、領主は殺されちゃってたけど、末息子が頑張って復興しようとしていること。


 下台地の倉庫を改装して、日常生活に必要そうなモノは大体仕入れてきたので、欲しいモノがあったらアリシア経由でいくらでも持ってっていいこと。


 あと食糧庫にも大量過ぎる食べ物があるので、腐る前にどんどん食べちゃってほしいことを伝えておく。


 フェリンとリルがやる気になっているので結構減ると思うが、それでも余りそうならギニエのハンターギルドに売れるもん全部売っぱらってもいいか。


 あそこに売れば町の中で循環するんだろうしね。



 そして、一番の本題に。


「今日いろいろあってさ。この黒い魔力、もう必要以上に隠すのは止めようかなって」


「大丈夫、なのですか?」


 戸惑いの表情を浮かべているのは、咄嗟に言葉が出たアリシアだけではない。


 それでも、俺は深く頷く。


「無理に隠せばいつか"大事なモノ"を取り零す。そんな気がするんだよね」


 今までにも、この黒い魔力のせいで""は多くある。


 かつて参加したヴァラカン戦。


 あの時だってフィデル達というクズがいたにしても、俺が黒い魔力を隠そうとしなければ、あそこまで近接組の被害が大きくなる前に倒せたかもしれないのだ。


 少なくとも一人や二人、犠牲になる前に対処はできたという後悔が今も残る。


 それに今回も、黒い魔力を見られること前提で"天雷"を放ったから、まだ町の被害が軽傷で済んでいるはずなのだ。


 追い打ちをかけるように残党は斬っていったが、それでもたぶん、都合良くあの場にいた悪党どもを一掃まではできていない。


 "天雷"だってまとめて何発か撃ったけど、それでも【探査】の範囲外にいられたら、俺には生死を認識することすらできやしないのだ。


 躊躇って石壁から降り、時間を掛けながら個別撃破などしようものならどうなっていたことか……


「黒い魔力は、今のところ下にいるゼオさんくらいしかいません。それは分かっていますよね?」


「もちろん。おかげで、今日初めて魔物と間違われたよ。たぶんこれからも、こんなことはあるんだと思う」


「ロ、ロキ君はそれで平気なの……?」


 フェリンの言葉に、一瞬言葉が詰まるも――


「気にしないわけじゃないけど、そういう目は慣れているというのもあるし……それに分かってくれる人達がちゃんといるから」


「たしかに、いつまでも隠し通せるものではないと思いますが」


「そうなんだよね。今回の件で目撃者はいるから、少なからず広まっちゃうんだろうなってのもある」


「「「「「「……」」」」」」


「もう、そんな湿っぽい話をしたくて来たわけじゃないんだからさ。それより戦利品の中に面白そうな魔道具があって―――」



 この先がどうなるかなんて分からない。


 しかしいずれはこの世界の『異物』であることが露呈し、徐々に徐々に広まっていくことだろう。


 その時、果たして俺の立ち位置はどうなっているのか。


 今は深く考えないようにすることくらいしか、俺にできることはなかった。

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