第281話 監獄
この手の狩場に合わせて造られた町は、とにかく移動が楽で素晴らしい。
山道ということを考慮しても徒歩で30分、【飛行】なら僅か2分程度でDランク狩場 《ランシール山》に到着してしまう。
キャンプ場のような雰囲気を感じさせる山林の中で、
――【探査】――『キャスパリーグ』。
早速、俺は目的の魔物を探していく。
すると引っ掛かったのは、体長1メートルまでは届かなそうな真っ黒い猫。
目つきは鋭く、牙を見せながら唸っていて、見ていてもちっとも可愛くない。
でも毛はなかなか質が良さそうで、たぶんカルラが喜ぶタイプの魔物だろうな。
そんなかなり大きい黒猫を【心眼】でスキルチェック。
すぐに自身のスキルと照らし合わせ――
「ほほぉ……」
当たりまではいかないけど、コイツはまぁまぁ。
そんな判定を下す。
キャスパリーグ:【跳躍】Lv3 【噛みつき】Lv2 【忍び足】Lv2
対して俺の所持スキルは【跳躍】Lv4 【噛みつき】Lv8 【忍び足】Lv4
【噛みつき】は絶望的だけど、少し粘れば【跳躍】はレベル6まで。
【忍び足】もレベル5までは上げられるだろう。
小さい部分もコツコツと。
ステータスアップに繋がるならば、雑魚狩りもなんのそのであるが。
「ついでに、試してみるかな?」
そう思い、カルラに教えてもらったスキルを実践していく。
『対象を、どこまでも、追尾しろ』
そう唱えながら発動させたのは、ほぼ使うことのなかった【闇魔法】。
イメージしたのは周囲を浮遊する複数の黒い球体で、生み出された握り拳程度のそれらは一斉に各方面へと散っていく。
【闇魔法】は少し特殊らしく、魔法属性と物理属性とが半々に混ざり合ったような系統だ。
まぁだからどうなんだというのはカルラもよく分かっていなかったが、木と接触すればその木を抉るようにそのまま進んでいくも、【氷魔法】や【土魔法】のように残骸を残すこともなくすぐに消えていくし、【火魔法】や【雷魔法】のように火事になる心配もない。
遮蔽物の多い森では場面によって有効と教えてもらったので、このくらいの山林ならちょうどいい実験になるだろう。
俺はただ目を瞑ったまま、次々と【闇魔法】レベル5で追尾球体を発生させながら、【探査】と【気配察知】で得られる反応に集中する。
この魔法のネックは2点で、追尾に対象以外は回避するような能力を加えられないこと。
つまり人が途中にいると、そのまま貫通してキャスパリーグを追いかけてしまう可能性があるので、範囲内にハンターがいないかは慎重に確認する必要があった。
とてもじゃないが、【気配察知】範囲外では怖くて使えない。
そしてもう一つのネックが追尾速度の遅さだ。
これが【闇魔法】の特徴っぽいことをカルラは言っていたが、それこそ俺がよく使う【雷魔法】なんかとは正反対で、この魔法で素早そうなキャスパリーグを仕留められるのか不安だった。
が、後者の問題はDランク程度なら、そこまで気にしなくても大丈夫そうだな。
魔物で助かったというか、普通に俺を見かければキャスパリーグは向かってきてくれるので、俺自身が移動しながら魔法を発動していればそこそこは当たってくれる。
素材回収で結局走り回らないといけないし、効率的か? と問われると、かなり微妙なところだけど……
『【跳躍】Lv5を取得しました』
『【空脚】が解放されました』
「おほっ!?」
いざという時のために、色々と手札を増やしていこうと思う。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
時刻は夕方。
ステータス画面を確認し、明日には最低限ノルマをクリアできそうだと、一人ウンウン頷きながら周囲を見渡す。
どうやらハンター達の帰還する時間帯に入ってきたようで、籠を背負い下山していく姿がチラホラと目に付く。
となれば、ここからは悪党達の調査開始だ。
――【忍び足】――
気配を消し、ハンター達の後を追っていけば、狩場の入り口には封鎖するように4人の男達が。
少し離れて眺めていると、戦果物の入った籠を覗き込み、ヒョイヒョイと狩った素材をいくつか取り除いていた。
もう慣れた光景なのか、町に戻るハンター達に動揺はないが、逆に生気や覇気といったものも感じられない。
(キャスパーリーグに沼地の美味いキノコ、それに魔石は――剥き出しってことはゴブリンファイターのやつか?)
特にこれと言う魔物を狙っている様子はなく、適当に摘まんでは次へ次へと。
戦果の2割くらいを徴収していくような大雑把さだな。
(これが、ハンターに課せられた独自ルールねぇ……)
バレる様子もないのでさらに近付けば、徴収した素材は種別に木箱や籠に詰められ、近くにある荷車に載せられていた。
これがどこに運ばれるかも、後できっちり調べるとして――
次に確認した先は、朝に一度見た峠の検問所だ。
転移してみれば、視線の先にあるのはこの時間でも続く馬車の渋滞。
ソッと小屋の脇から様子を眺めていると、町に入ってくる者達はハンター同様、積み荷の一部を渡し、さらにお金をいくらか支払っていた。
ホレスさんの言う通り、馬車1台に対してまったくハンターっぽくない護衛が一人付いているだけなので、逆にこの辺りの野盗どもをまとめ上げているとも言えるし、護衛を雇わないからその分の費用を徴収できているとも言えるんだろうな。
そうじゃないと、絶対に俺が商人ならこんな町に来ないし。
加えて顔パスで通過していく商人も一定数存在している。
身形じゃまったく区別はつかないが、ハンターギルドに混ざっていた女と同じで、悪党どもの一味として正式に動いている連中なんだろう。
そして出る際は、かなり厳重に"余計な人"が乗っていないかをチェックされていた。
一度町に入れば、認められた一部の者しか外に出られない。
ホレスさんから最初聞いた時は、マジで監獄じゃんって思ったけど、こんな光景を見るとあながち間違いではないことが分かってしまう。
ハンターも、町人も、結局はこの町が嫌だと言っても簡単には抜け出せないのだ。
地図が無いため外の世界をろくに知らず、抜け出した後のアテも無い。
おまけに本気で逃げ出すならば峠道は使えず、道無き山の中を彷徨わないといけなくなる。
それでも徒党を組んで反撃に出ないのは、一応は生活できているという徴収のバランス。
あとはやっぱり、トップが太刀打ちできないほどの強者だからなんだろう。
再度上空へ飛び、それぞれ取り上げた素材がどこへ向かうのか。
載せた荷馬車を目で追っていくと、大通りを抜け、南の一角にある大きな建物へと運ばれていく。
厚い石壁で仕切られた"特別区間"の内側。
同じような規模の建物が4つあるので、たぶん管理しやすいようここに全部まとめられているんだろうな。
最後にどれほどの戦力があるのか、特別区画の周辺を一通り確認し――
俺の【探査】レベルが足りていないのか。
それとも魔道具で探知されないようにでもしているのか。
(これは、少々面倒だな……)
兄弟の反応が拾えないことに唸りながら、俺は拠点へと帰還した。
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