第274話 付与師はじめました


『【雷魔法】Lv8を取得しました』



 このアナウンスが視界を横切り、ようやくボス戦に向けた準備が整ってきたなと、一息吐きながら拠点へ飛ぶ。


 上げようと思えば上げられるスキルはまだまだあるが、それらはステータスボーナス目的であり、ボス戦で実際に使うことまでは想定していない。


 ならば一度挑んでみて、駄目だと分かれば地力を上げる目的でまた通えばいい。



 転移した先は、俺専用の秘密基地。


 部屋のど真ん中にはまったくリクライニングしない、リクライニング風な石作りのお手製椅子がドンと置かれており、唯一解決していない問題点をどうすべきか。


 寄りかかりながら目を閉じ、最後まで残った【付与】について考えを巡らす。


 ……しかし、結局は。



「やっぱり、これだけは自分でなんとかするしかないよなぁ……」



 日を跨いでも、狩りしながら考えても、このように落ち着いた場所で【付与】のことだけを真剣に妄想しても。


 最終的にはこの結論にいきついてしまう。


 ロッジに覚えてもらう案も当初はあった。


 すでに【付与】を所持しているパイサーさんに極めてもらおうなんて考えもあったし、ゼオが持っていれば一番だよなーと相談したりもした。


 が、どうしても【付与】はそのスキルレベルだけでなく、付与師の持つ付与可能スキルのレベルも重要になってくる――というよりこちらの方がメインと言ってもいいくらいだろう。


 今のところは【魔力自動回復量増加】一択だと思っているが、まだ各部位にどのスキルが付与可能なのかも把握できていないし、様々な選択を高い水準で揃えられていた方が何かと都合が良い。


 となると【付与】だけは、なんでもスキルを収集しようとする俺がやるしかないわけだ。


 本当は悪党から得られる可能性のあるスキルを、ポイント消費してまで取得したくはないけど……


 スキルポイントの初期化は、フェリンの反応からしてもまずどこかに存在している可能性が高そうだからな。


 そうと分かればいずれは必ず手に入れ、後々調整を図るしかない。


 ……うし、いくか。



『【付与】Lv1を取得しました』



【付与】Lv1 装備品に属性か特定スキルを付与することができる 付与数、組み合わせ、定着時間はスキルレベルと対象装備による 魔力消費50 定着完了まで1秒毎に5消費



 ふーむ。


 思っていたよりも、ちょっと複雑なような?


 それに取得して気付いたが、スキルの並びを見る限り【付与】はジョブ系の枠に入っていない。


 スキルツリーのすぐ上には【魔力譲渡】や【鑑定】、使ったこともない【罠生成】なんてものがあるので、アクティブ系だしジョブ系とは別枠と考えた方が良さそうだ。


 ならば知識や経験不足で不発に終わるようなこともないだろう。


 そう思いながら身に着けていた装備を全て外し、それぞれ地面に並べていく。


 普段は表に出さない大型剣、普段使いのちょっと気持ちショートな長剣、サブ武器の短剣、水属性強化用のフルレザーアーマーと頭部のフェイスアーマーに、拾ってきた中からゼオと一緒に厳選した指輪とネックレスが一つずつ。


 これら全てにどこまで【付与】を乗せられるか、順番に試していく。



 まず手に取ったのは大型剣だ。


 過去に見たパイサーさんの作業光景を思い返しながら手をかざし、【魔力自動回復量増加】の【付与】を頭の中で念じる。


 すると手から黒い魔力が流れるように大型剣へ移り、すぐに魔力消費は止まった。


 ステータス画面を見比べれば、これで魔力消費55。


 つまり初動の魔力50+定着時間1秒の魔力5が消費されたという計算だ。


 予想通り【付与】レベル1でも1発目なら楽勝。


 あとで一応ゼオに確かめてもらう必要はあるが、パイサーさんが以前【付与】レベル2に対し【魔力最大量増加】レベル5を付与していたので、ここで付与対象にレベル制限がかかっているなんてこともまずないだろう。



 そしてそのまま2発目に。


 Aランク相当の鉱物なら――



(………………うん、やっぱり問題無いね)



 作業時間は10秒程度。


 以前のパイサーさんよりもだいぶ早く2発目をクリアし、想定通り進んだことにホッと息を吐いた。


 これで俺が望んでいた最低ラインはクリア。


 やはりAランク鉱物という素材価値の影響はかなり大きいことが分かる。


 そして、駄目元でやってみた3発目。



「うーん、反応すらしないか」



 これは失敗するだろうと予想できていたので、悲しみすら湧くこともない。


 逆に【付与】レベル1でできてしまったら、3種成功事例なんて希少でもなんでもないだろう。



 その後もロングソード、短剣と同じように【魔力自動回復量増加】を2個ずつ付けていく。


 特に鉱物の質量で定着時間が変わるとかはないらしい。


 そして装飾品2つにもそれぞれ付与していき、ついに俺の現状装備が完成した。



 ・大型剣(隠し玉)

 素材:ダマスカス

 付与:【魔力自動回復量増加】Lv7 【魔力自動回復量増加】Lv7



 ・長剣(普段使い)

 素材:ダマスカス

 付与:【魔力自動回復量増加】Lv7 【魔力自動回復量増加】Lv7



 ・短剣(サブ)

 素材:ダマスカス

 付与:【魔力自動回復量増加】Lv7 【魔力自動回復量増加】Lv7



 ・フルレザーアーマー

 素材:Aランク素材複合の水属性耐性特化

 付与:【魔力自動回復量増加】Lv7 【魔力自動回復量増加】Lv7



・フェイスアーマー

 素材:Aランク素材複合の水属性耐性特化

 付与:【魔力自動回復量増加】Lv7 【魔力自動回復量増加】Lv7



 ・装飾1(指輪)

 素材:ダマスカス

 攻撃力上昇:中

 付与:【物理攻撃耐性】Lv3 【魔力自動回復量増加】Lv7



 ・装飾1(ネックレス)

 素材:ダマスカス

 防御力上昇:中

 付与:【水属性耐性増加】Lv2 【魔力自動回復量増加】Lv7



 自前のスキルと【付与】の分も合わされば、俺に常時掛かる【魔力自動回復量増加】は鬼の11個分。


 バカみたいな付け方だけど、わざわざ拾い物の装飾だって【付与】が1つでのあるやつを選んだのだ。


 魔力の回復サイクルは、完全回復まで基本8時間。


 これは日々魔力を使い切ってから睡眠を繰り返していく中で自然と把握できていたので、ここから【魔力自動回復量増加】Lv7の効果である魔力回復量35%増加が発生していけばどうなるか。


 装備を一通り装着して試してみれば――



「オッホッホッホーッ!!」



 1秒くらいで魔力が1ずつ回復していく現状に、変な笑い方をしてしまうくらいトキメキが止まらない。


 今までは1分間に15を少し切るくらいの回復量だったのが、ここでまさかの4倍近くまで上昇だ。


【空間魔法】の収納量で言ったら、これはもう体育館どころか、学校を丸ごと飲み込んでも自然回復で収まってしまうかもしれない……


 恐ろしい。


 恐ろしいよ【付与】スキル!


 軽く電卓叩けば乗算じゃなく加算っぽいのは残念なところだけど、それでもやはりパーセンテージの伸びは驚異的である。


 となれば、この喜びはみんなにも。


 ゼオとカルラは魔力の自然回復が存在しない種族だから、【魔力自動回復量増加】は無意味だろうけど、以前マルタと王都ファルメンタで購入した【付与】無しネックレスだって4つ余っているのだ。


 特にゼオなんて【魔力最大量増加】を大量につければ色々とできることも増えるだろうし、みんなに欲しいモノを聞きながら【付与】祭りでもやってしまおうじゃないか。


 そんなことを考えながら、俺はルンルン気分で皆のいる場所に空間転移するのだった。

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