第234話 間

 ジャラジャラジャラ……


 先ほど購入した大サイズの皮袋に、換金したお金を全て流していく。


 今日の換金額は約315万ビーケ。


 普通の狩りで稼いだお金としては過去最高額で、しかも今日は午後からなのだから、属性魔石+高価買取がどれほど高威力なのかは言わずもがな。


 受付のお姉さんは喜んだ1秒後にドン引きしていたけど、不人気で供給量が足りていないならきっと良い仕事をしているはずである。



 しかし……この所持金はどうしたものか。


 ステータス画面を見れば、現在の所持金総額はもうちょっとで7000万ビーケ。


 これでも本の代金を考えると、ギリギリ手持ちで3~4冊なら足りるかどうかというところだろうから、決して余裕があるわけではない。


 なのでまだまだ稼ぐ気満々ではあるのだけれど、既に1つ目の大サイズ革袋は金貨でパンパンになっており、宿の自室にほぼ全てのお金を置きっぱなしにしているので少々怖いのだ。


 もし居ない時に泥棒にでも入られると、これはもうどうしようもない。


 たぶん宿屋の店主に文句を言ったところで、この文明じゃどうにもならなそうなことはすぐに予想できた。



「一時的に埋めちゃうかなぁ……」



 既に他所でやっているだけに一番現実的だ。


 ここが終われば王都ファルメンタに戻り、完了したすべての本を買い取る予定なので、あと何日滞在しそうなのか。


 本日の成果を手帳に書き出しながら思案する。



 シャドウナイト 【幻影】Lv5 【影渡り】Lv3 【剣術】Lv2 【闇属性耐性】Lv3


 ゴーストメナス 【幻影】Lv5 【闇魔法】Lv2 【地縛り】Lv3 【闇属性耐性】Lv2


 グレーソウル 【幻影】Lv4 【属性変化】Lv4 【光魔法】Lv3 or【闇魔法】Lv3



【幻影】は魔物専用な上にグレー文字で使えないけど、初期値Lv5なら【幻影】Lv8まで絶対に上げる。


 ボーナス能力のためにもこれは絶対だから、少なくともあと3~4日くらいはここで頑張ることになるだろう。


 あとは【闇魔法】もできれば【闇魔法】Lv6まで上げてもいいかもしれない。


 今のところまったく使う場面を想定できていないが、Lv5からLv6までLv3所持魔物なら追加500体討伐でもっていけるはずだ。


 これくらいであれば、金稼ぎと並行してやれるなら苦痛でもなんでもなくなってくる。


 それだけ狩れば、同じくグレー文字の【属性変化】もレベル7までは持っていけるだろうしね。


 このスキルを使えば俺の黒い魔力も元に戻るんじゃ? と思っていたのに、使用不可を示すグレー文字はかなり残念な結果だ。


 足元から手が伸びる【地縛り】は、予想通り使えないスキルだったから無理に狙う必要ないし、性能面から一番期待していた【影渡り】も使えないから粘る必要ないし……



「あぁ~! ってか、なんで全部使えないのよ!? 1個くらい使えるのがあったっていいじゃん!」



 一見新規スキルが豊富そうに見えて、ここの魔物専用スキル4種は見事なまでに幽霊用。


 こんな時だけ、一度死んでるんだし俺だって有りじゃないのか? って考えちゃうけど、そう都合よくはいかないらしい。



「どうしても、ワープがしたいの、影渡り……」



 心は全然諦めきれていないまま試算すれば、やっぱり推定3~4日もあれば、現実的なラインでボーナス能力値は一通り回収できそうである。



「ここの【剣術】スキルはおまけ程度だからいいとして、今後活かせるスキルは【闇魔法】【闇属性耐性】くらいか……まぁでもデカいな。あっ、【光魔法】はどうすっかな?」



 グレーソウルは今まで遭遇したことのない特殊な魔物だ。


 状態によって【心眼】で覗いても所持スキルが変わり、明るく光ってる時なら【光魔法】、暗いオーラを放ってる時は【闇魔法】という具合で変化する。


 魔石を高く買い取ってくれるという理由から、とりあえずは闇モードの時だけを狙って倒していたけど……



(ん~まぁ無理して狙わなくてもいっか。やっと解放されたし)



 少し考え、そういう結論になった。


 今日の戦果で、狙っていた【呪術魔法】と【精霊魔法】の2種スキルが無事解放されたからだ。


【呪術魔法】は以前リプサムで救出したエステルテさんからの情報提供通り、【闇魔法】Lv3到達で。


【精霊魔法】もリステの予想が当たり、条件は8種全てのスキルがレベル5以上ということでまず間違いないと思う。


 そう考えると、【精霊魔法】の取得条件は結構エグいような気もするが……


 まぁばあさんの<魔女>みたいに、魔法系統が幅広くスキルレベル+2になるような上位職だと、結局は全部レベル3でいいってことになるわけで。


 ""さえ知っていれば、レベル15程度のハンターでも強引に条件クリアできてしまうわけだから、冷静に考えるとそうでもないことに気付いてしまう。


 実際はその程度のハンターじゃ、上位職なんてまず解放されていないんだろうし、そもそも魔力総量が少な過ぎて使いこなせないんだろうけどね。



 その他は、今日だいぶ使って使用感覚を掴めてきた【詠唱待機】が、ちょっと経験値上昇しているし――……



 んん?


 スキルツリーを眺めていて気付いた違和感。



「なんで【無属性魔法】の経験値が上がっているんだ?」



 予想もしていなかった部分だ。


 たしかに【無属性魔法】は経験値が増えればいいなと思い、【飛行】しながら魔力の具現化練習を続けていた。


 が、それだけではまったく上がらず、どうやったら上がるんだよぉ~と一人泣き言を漏らしていたくらいだったが……


 しかし、今は『20%』になっている。



 だ。



 心眼ではどの魔物からも【無属性魔法】なんて、俺が飛びつくスキルは目にしていないはずだが……


 これは――どういうことだろうか?


 犯人はスライムか、それとも――。



 溜息一つ、まずこれだろうという予想はしつつも、逃せないスキル経験値に様々な可能性を考えながら俺は布団に潜りこんだ。





 そして翌日。


 盗賊の戦利品と同じ要領で、地中にお金を埋めたらすぐに狩りの開始だ。


 辺りが白い霧で覆われた廃墟群を、俺は一人走り回る。



 ――【発火】――



 ただでさえ不人気な狩場なのに、まだ朝の鐘が鳴った直後。


 人なんて幽霊しかいないし、その幽霊にこの姿を見られたところで屁でもない。


 剣に火を纏わせ、そのまま魔石に触れないよう斬りつける。



「この恨み末代までぇえええええええええええ!!」


「こっちは子供作れるか悩んでんだバカ!」



 捨て台詞を吐くゴーストメナスは、実体がないので燃えたりはせずにそのまま消えていく。


 この炎も魔法判定になっているようで、魔力の節約には繋がっていないけど個人的には大助かりだ。


 遠距離魔法で倒せば、魔石の回収が面倒だからね。


 そして立ち塞がる邪魔者は倒したと言わんばかりに、目的の魔物へ一直線に迫る。



「いーち、にー、さーんっ…いーち、にー……そこぉーッ!!」



 直前に飛ばされた【闇魔法】など気にもせず、繋ぎ目と言える僅かな切り替わりの間を狙って剣を刺す。


 いけた! 今は間違いなく""だった! もうここしかないという会心のタイミング……っ!



『【無属性魔法】Lv1を取得しました』



「っしゃおらーッ!!」



 ガッツポーズ!



 今となってはたかがレベル1のスキルなのに、思わず渾身のガッツポーズだ。


 日本にあるその手のギャンブル遊戯に手を出したことがないため、最初は不慣れで感覚を掴むのに苦労した。


 俺にリズム感が無いのも原因だろう。


 初回は9回目のチャレンジでやっと成功し、次は5回目、その後は3回に1回くらいの確率で一時的に無色になる瞬間を突くことができている。


 オッケーオッケー。


 とりあえずスキル獲得できたのならばそれで良し。


 これで余った魔力の消費は全てコイツにブチ込めるから、経験値の自然上昇も多少は期待できるだろう。


 今は一旦狙うのを止め、緊急の高価買取依頼があるうちは闇属性魔石で荒稼ぎに集中。


 その後は様子を見ながら【無属性魔法】狙いに切り替えるとしようじゃないか。


 失敗したとしても【闇魔法】か【光魔法】の経験値は入るのだから、魔石の価値以外に損をすることはない。


 ――せめて【無属性魔法】レベル3、もう少し的中率が改善できそうなら、できれば【無属性魔法】レベル4まで上げる。


 他に所持している魔物を現状知らないのであれば、ここで上げておいて、少しでも【空間魔法】の取得が円滑に進むようにしておきたい。



 当初は3~4日くらいで終わると思っていたけど、予想外にこの町は長くなるかな?


 そんなことを考えながら身体を燃やし、暖を取りながら視界に入る魔物を綺麗に蹴散らしていった。

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