第65話 輸送システム
俺の明日からの予定、そしてこの計画について、アルバさんに搔い摘んだ内容を説明していく。
明日から俺は、ルルブの森に引き籠ること。
その間、魔物の素材には目も暮れず、その場に捨てていくこと。
捨てられた素材は好きに回収してもらって構わない代わりに、その報酬の3割を俺にくれること。
その分、俺の後を一定間隔さえ空けてもらえれば、素材回収目的でいくらでもついてきてもらって構わないこと。
ただし魔物と遭遇した場合は自分、もしくは自分達で対処、自衛すること。
あくまで概要だが、それでもこの話を聞いたアルバさんは目を丸くする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! それは君に、いや失礼――ロキにとって何かメリットがあるのか?」
「ありますよ? ルルブの森って遠いじゃないですか。1日何往復もできる距離ではありませんし、それなら皆さんに荷運びをしてもらって、僕は魔物討伐に専念した方が効率良いかなと思いまして」
「た、確かにそう言われると納得もしてしまいそうだが……それでも相当数の魔物を倒さないといけないだろう?」
「大丈夫ですよ? 1日50体でも100体でも狩りますから」
「……は?」
「ルルブの森では実際どうなるかまだ分かりませんけどね。ロッカー平原だと1日100体くらいは狩っていたので、ルルブの森であってもそれくらいはいけるんじゃないかなと思っています」
「お、俺はその後をついていって、倒された魔物の素材回収だけをひたすらしていけばいいということか……? そんな美味い話があっていいのか……?」
「リスクが無いわけではありませんよ? 女神様の祈祷の恩恵が分散しないよう、ある程度の距離――そうですね。僕がギリギリ見えるかどうかくらいには最低でも離れてもらいます」
「ふむ……」
「一応アルバさんが魔物に絡まれにくいよう、周囲を潰すイメージで魔物を狩っていくつもりですが、打ち漏らしを無くすなんてことはさすがに無理でしょうからね。多少は魔物に絡まれることも想定してもらう必要があります」
「今まで狩っていた狩場だからな。そのくらいならなんてことはない……となると、問題は人か」
「その通りです。アルバさんのパーティが全員反省されて残っていたなら良かったんですけどね。さすがにお1人となるとすぐ籠も一杯になるでしょうし、何より危険だと思いますから、それで他のパーティを誘えそうか先ほど確認させてもらったんです」
「なるほど、そういうことか」
「なぁ、その話。俺達も一枚噛ませてくれないか?」
唐突な発言に声の方へ振り向くと、アルバさんと同じ30代くらいの無精髭を生やした男が立っていた。
アルバさんに視線を向けると、知り合いなのか深く頷かれる。
「俺はミズルという。アルバと同じ、ルルブで狩っているパーティのリーダーやってんだが……俺達もその話に混ざれねーか?」
「僕はロキと言います。えーと、皆さんEランクのハンターですか?」
「俺のパーティは全員Eランクだ。面白そうな話が聞こえたもんでな。ロキと一定間隔離れれば素材は回収し放題、その代わり報酬の3割を渡す。魔物に絡まれた時の対処は当然自分達でする。この条件なら俺達も問題ねーぜ?」
「そうでしたか。ちなみにアルバさんが声をかけようと思っていたパーティの一つですか?」
「あぁそうだ。昔からの知り合いでな。真っ先に声を掛けようと思っていた」
なるほど……それなら最低限の信用はあると判断できる。
話し方や見た目なんかは、ハンター相手なら目を瞑らなければいけない部分だし気にしてもしょうがない。
「それなら大丈夫ですよ。逆に声を掛けてくれてありがとうございます」
そういってミズルさんを空いた椅子へ誘導する。
「ミズルさんのパーティは何人ですか?」
「俺達んとこは5人だ」
「ふむふむ。となると大体1日の狩りで得られる報酬は一人4~5万ビーケとかそのくらいですかね?」
「そうだ。それよりも増える可能性があるんだろ?」
「僕に渡す3割を考えれば、最低1人7万ビーケ以上の収入……となると、余裕でしょうね」
「マジかよ? 余裕って、そんな報酬が凄いことになるのか……?」
「単純な話で、アルバさんとミズルさんのパーティ5人で計6人。その全員の籠を満杯にすることは簡単でしょう? オークを6体倒せばそれだけで埋まっちゃうんですから。もちろんそれ以上狩るので、厳選するなり他の素材を混ぜるなり、その辺は好きにしてもらって構わないですよ」
「「……」」
「なので僕からのお願いとして、全員が大きい籠を背負ってください。必要があれば僕の私物ですけど、さらに大きい特製の籠をお貸しすることもできます。そして籠が満杯になった時点で皆さん同時に帰ってもらうのがいいですね。その方が自衛もしやすいと思いますし、素材の取り合いを防ぐなら参加している方で報酬を均等に分けてもいいと思います」
「そうだな。埋まったやつから抜けていかれちゃ、残ったやつらがどんどんキツくなる」
「報酬を均等というのは俺も賛成だ。余計な取り合いをしなくて済むから揉める必要も無いし、その方が作業効率も良いだろう」
「誰かが解体しているうちは一人が護衛に付くとか、そこら辺は皆さんで上手くやってもらえればと思います」
「分かった、それはこちらで考えよう」
「あとは朝から狩りをしていると思いますので、僕は皆さんが到着したことに気付けません。ここがこの作戦の一番の問題点になります。なので大きな音を鳴らせるような物があればありがたいんですが――そんなのありますかね?」
「楽器くらいしか出てこないな……」
「あー……指笛はどうだ? 手軽にそれなりの音を出せるってなると、それくらいしか出てこねぇ」
「それじゃ一度指笛を試してみましょうか。聞こえれば僕は魔物を倒しながら音の鳴る方へ向かいますから。もちろんその間に散らばっている魔物の死体があればどんどん解体してもらって構いません」
「あぁ分かった」
「うーん、あとは何かあるかなぁ……あっ、これは僕から指名した方がいいと思うので、アルバさんが臨時のリーダーをやってください」
「俺か?」
「えぇ。アルバさんが素材の引き渡しに立ち会ってもらって、木板をアマンダさんへ渡してもらえれば……アマンダさーん! 謝礼払いますのでご協力お願いできますか?」
「……聞いてたわよ。またよく分からないことを……まぁいいわ3割でしょ? その分をロキ君の預けに足しておく。これで良い?」
「1日の金額もそれぞれ記録しておいてもらえると最高です!」
「くははっ! こいつはワクワクしてくるなぁオイ!」
「そうだな……そもそも素材を捨てるなんて発想を持つやつがいないんだ。前代未聞と言える」
「無理はしないでくださいね? 僕は毎日狩る予定なので、休みたい時は前日に言ってもらえれば、ルルブの森の奥の方にでも行ってると思いますから」
「稼げる時はガツンと稼がないとなぁ。あとは成果次第ってとこだ」
「俺は休みたいなんて言える立場じゃないからな。俺だけならさすがに便乗して休むが、誰か行きたいやつがいる限りは俺もついていくとしよう」
「それじゃ明日だけは一緒に行きましょうか。集合は朝の鐘がなった後にでもギルド集合ということで!」
「おうよ!」
「分かった」
こうして3人と握手を交わし、以前ロッカー平原で思い描いたサブキャラ輸送システムの亜種とも言える環境を作ることになった。
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