3章 ロッカー平原編

第35話 新しい狩場へ

 昨夜発生した精神力をガリガリ削るの存在を心の一番隅っこへ押し込め、俺は初のベザート北側出口を目指していた。


 とうとう今日から新狩場、ロッカー平原へ俺は行く。


 二日休んで体調も万全だし、必要なものもしっかり確認した。


 それでも妙に浮き立ってしまうのは仕方のないことだろう。


 魔物の強さは予想通りなのか、どんなスキルを得られるのか。


 日給は?


 新調した武具の使い勝手は?


 狩場の混雑状況は?



 期待もあれば不安もある。


 だがRPG好きとしては、このドキドキワクワク感が堪らなかったりもする。



(あっ、リアル視点リアル視点……)



 危ない危ない。


 ゲームではないことが分かっていても、ついつい人生最高潮に楽しかったあの時と被らせてしまうな。


 この癖をなんとかできないかなぁ……重症だよほんと。



 そんなことを思いながらも道の景色を眺めていると、南出口方面とは違って北口の路面は商店の数が多く、立ち並ぶ家もやや大きく感じる。


 木造家屋ではあるものの1軒当たりの敷地が広く、大きい庭があったりするのは、やはり富裕層区域ということになるのだろう。


(あっ馬だ……というか馬車だ!)


 出口付近までいくと遠目に見えた馬車の存在。


 馬車の置き場でもあるのか、大きさもそれぞれに複数の馬車が視界に入る。


 平成生まれ、いや昭和生まれでもそうだと思うが、車は見慣れていても馬車を見慣れている人なんてそうそういるものではない。


 日本人の俺からしてみれば、馬車っぽい存在なんて一度だけ浅草で見かけた人力車くらいしか見たことが無いわけだから、目の前に存在しているというだけでちょっと感動してしまう。


(出店も多いし、人も多い……さすが北出口だな……)


 未だに森の食糧難時代を引きずっているのか。


 出店があればついつい目で追ってしまい、美味しそうな食べ物があるかどうかをしっかりチェックしてしまう。


 そして宿で朝食は済ませているものの、昼の食事が馬糞モドキであることを思い出し、まだ食べられそうだと棒に刺さったウィンナー……少し小さいフランクフルトのようなものを2本購入。


 最悪昼ご飯を食べなくても問題ないように詰め込んでから出発だ。


 南口とは違う門番さんに挨拶をし、ロッカー平原にこれから行くこと、今日が初めてだということを伝えると、途中で右に逸れていくハンターの後を追えば着くという……なんともアバウトなアドバイスを頂く。


 まぁこの文明じゃ目立つ目印なんて無いだろうしね……町の外は畑一色だし。



 初の街道を北に向かって歩いていくと、丁度皆の出勤時間なのか、視界に入るだけでも30人以上の人達が歩いている。


 持つ物は農具だったり背負子に積んだ荷物だったり、同業者達の剣や杖だったりと様々。


 そんな人達の横を馬に引かれた様々な馬車が通り抜けていく光景。

 


(うわぁ~~異世界だなぁ。今更だけどガチの異世界だなぁ!)



 パルメラ大森林も魔物がいるわけだし、もちろん異世界なわけだけど、それでも鍋被った夫婦が草毟りしていたり、子供がギャーギャー騒ぎながら出たり入ったりしている時点でなんかちょっと違う感もある。


 しかし今見えている光景は、まさに俺が想像した異世界そのものだ。


 最初はこんなところから。


 いつか王都に行って、難度の高い依頼を受けて……


 そんなことを思いつつ、買ったフランクフルトをのんびり食べながら、俺は右手に逸れていく複数の集団の後を追いロッカー平原へと向かった。





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





「おぉ……」


 先行するハンター集団をストーキングすること約30分ほど。


 急に人の手が加わった畑が途切れ、そこからさらに進んだ簡易の木の柵を越えた先には、一面膝下程度の草が生えた草原エリアだった。


 ここに牛でもいれば、長閑な牧場と見間違うような光景だ。


 そんな場所を近場で二組、遠くでも二組のパーティが既に狩りを始めており、魔物は視界に入る限りでも10体くらいウロチョロしている姿が確認できる。


 パルメラとは違う、遠くの魔物も目視できる点はだいぶ狩りをしやすい環境と言えるだろう。


 が、同時に気になる点も1つ。


(多少の岩が転がっているくらいで、目印になるものは何も無いな……おまけに背丈を超えるような木が一本も生えていない)


 1時間くらい進めばもしかしたら環境が変わるのかもしれない。


 だが現在得られる視界の情報だと、魔物は探し易いが籠を置く場所も無いということに気付く。


 いくら魔物の素材が小さいとは言え、どこまで背負いながら倒し続けられるか……


 パルメラとは違った問題に直面し、しばし考え込む。


 目印が乏しいだけであれば、時計の方位機能を使えばある程度の問題をクリアできる。


 現にパルメラ大森林では視界不良でも効率良く魔物を狩り、籠に素材を入れられていたのだから。


 しかしそれも籠を決まった場所に置けるという、ができたからこそ。


 岩はあるものの、精々腰下程度の大きさでは、その上に籠を置いても魔物が共食いするなら食い荒らされる可能性があるし、何よりここにいるハンターパーティにも籠を置いていることがバレてしまう。


 岩の上に籠を置けば、この辺りでは一番高さのある目立つ存在になってしまうのだから当然だ。


 この籠は自分のだと主張することはできたとしても、それが通るかどうか。


 物騒な話になってしまった場合、俺が1人に対して視界に入るハンターパーティはどこも3~4人ほど。


 そもそも1対1でも太刀打ちできるかどうか怪しいのに、数の暴力で素材を強奪されそうになれば、間違いなくこちらが屈することになるだろう。


 成果物の横取りが当たり前の世界なのかどうか……


 こればっかりはその時に居合わせた人次第だろうからなんとも言えないところがある。


 ならばハンターが近くに居なくなるくらい奥に入ってみるか?


 できればここの狩場、ここの魔物に慣れるまではやりたくない選択だ。


 奥に入れば入るほど、出る時にも魔物がいる地帯を長く通らなければならない。


 ポイズンポーションをもし使い切ってしまえば、それこそソロの俺では命に関わる。


(うーん……いきなり無理をするわけにもいかないし、とりあえずは籠を背負いながら、魔物に近づいたら下ろして戦うというのを繰り返してみるしかないか……)


 心の中で無難策を採用し、とりあえず今日一日は様子を見ることにした俺は、続いてステータス画面を開く。


 残しているスキルポイントは現在15ポイント。


【剣術】スキルは、以前パルメラ大森林でジンク君達の代わりに倒した剣持ちゴブリンの20%しか上がっていないため、未取得の状態だ。


 一先ずはどんなものか戦ってみて、あまりにも厳しいなら【剣術】スキルをいくつか上げる。


 追々魔物からでも経験値を上げられそうなスキルなので少々勿体ないが、それでもまずはこのエリアを圧倒できなければ次に進めないので、必要経費と思って割り切る部分は割り切る予定だ。


 どうせスキルレベルも後半は地獄のような経験値を求められそうだから、完全に無駄ということにはならないだろう。



(あっ……そういえば……)



 パイサーさんから購入したショートソードと皮製鎧、このどちらにも付与が付いていた。


(えーと、ショートソードは魔力上昇だから……うぉっ! 魔力の最大値が50も上がってる!! 使う予定はないけど! 全然無いんだけど!! それでも凄く優秀な気がするぞ!?)


 記憶の隅に追いやられた女神様からの特別なスキル。


 世界に一人だけなんて謳い文句の【神通】でさえ、レベル1とは言えボーナス能力値は魔力量+3程度なのだ。


 それに比べたらなんと凄いこと。


 これが筋力+50とかだったら俺が咽び泣いているところだ。


(そして皮製鎧の方はと……確か魔力の自然回復量が上がると言っていたが、ステータス画面見たってさっぱり分からないな……)


 一応ステータス画面で【魔力自動回復量増加】、【魔力最大量増加】と、関係ありそうな名称のスキルを確認してみるも、今だに詳細が確認できない状態で未取得のままになっている。


 まず付与された内容はこのスキルで間違い無さそうだし、そうなると武具の付与スキルが自身のスキルに上乗せされるという可能性は低く、あくまで別物同士。


 自身のスキルレベル3+スキルレベル1の付与でレベル4の効果を発揮するのではなく、スキルレベル1の効果+スキルレベル3の効果と分けて考えておいた方が良さそうだな。


 あるのか分からないが、【気配察知】なんて付与された装備があったとしても、効果が重複すれば意味の無さそうなスキルであれば不要と思っておこう。



 この武具は元々パイサーさんが魔術師の息子さん用に作ったものだ。


 だからどちらも魔力に関係する付与を付けたのだろう。


 今のところバリバリの近接戦闘しかしていない、というよりそれ以外の選択肢が無い俺にとっては、正直言えば必要の無い付与内容だが……


 それでもパイサーさんと息子さんの気持ちが入っているからな。


 この武具が俺の成長に役立ってくれると信じ、俺はとうとうロッカー平原へと足を踏み入れるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る